商品、トレンド、キャッシュ アパレルビジネスが今3つの回転率に着目すべき理由
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2021年10月25日 20時55分
私は前回、キャッシュ・コンバージョン・サイクルの重要性を説いた。アパレル企業が商社外しを行えば行うほどキャッシュフローが悪化し、最悪の場合はP/L(損益計算書)は良化しても、企業は資金ショートに陥り倒産することもあり得ると書いた。
一方私は過去の論考で、①「交差比率」(商品回転率 x 商品粗利率)は過去の指標であり、現在では通用しないこと、また誰もが疑うことなく受け入れている、②「商品回転率やリードタイムを短くすることが良いことだ」とする主張は誤りであると述べている。
ここに、矛盾があるのではないかという質問が数多くよせられた。そこで今回はトレンド・ターンオーバー、商品ターンオーバー、キャッシュのターンオーバーの3つの回転率が昨今の複雑化したビジネスモデルでどのように基準や見るべきポイントが変化したかについて解説したい。
トレンド・ターンオーバーとは何か
トレンド・ターンオーバーとはトレンドが年に何回回転するかを表すもので、古き良き時代、SS (春夏)、FW (秋冬)という具合に、シーズンは4つだった。したがって、1シーズンの期間は3ヶ月。初期投入に時間をかけ、シーズンはじめに商品投入をしつつも、期中に追加生産が2回できた(発注から納品まで約1ヶ月かかると想定)ためQR(クイックレスポンス)が機能していたわけだ。しかし、考えてもらいたい。例えば、「夏」と一括りにいうが、ボカボカとした初夏と、ミンミンゼミがなく盛夏、そして、残暑がのこる晩夏では、全くシーズンが違っている。
そこで考案されたのが「8カセットMD」だ。これは、4つのシーズンを8つに分け、MDを細かくしたものだ。しかし、さらに考えてみれば、当時トレンドに大きな影響を与えていたファッション雑誌は毎月、年に12回発刊されていたので、実際のトレンド・ターンオーバーは年に12回ということになる。
その後、雑誌が売れなくなり、女子達の多くはインスタで、脳内共鳴するグラマー(インスタで人気のある人) のライフスタイルを追いかけるようになり、シーズンはさらに細分化された。今では、ファッショントレンドは毎週のように変わり、はや追加生産などでは追いつかず、売り切り御免型MDとVMD (商品の見せ方)の連携によって、週次で変化を店頭やウェブで見せる企業が勝っている。
商品ターン・オーバーとは
商品回転率を高めよ、という主張の裏には「キャッシュフローの安定化」と「移り変わるトレンドの変化」に乗り遅れないための柔軟性を持たせよ、という両方の意味合いが混在し、その違いを誰も正確に使い分けていない。デジタルベンダー達は、判を押したように「リードタイムを短くせよ」というが、この考えはすでに時代遅れとなっている。計画生産によって、毎月、毎週のように新製品を出し「欠品」を追いかけないZARA型MDの隆盛によって、日本企業のその場対応の「作り増し」はシーズン遅れとなることは述べた通りだ。
ZARAは世界中に張り巡らせたネットワークから、そのシーズンに売れる商品を、あらかじめ備蓄した素材や生産ラインを活用して計画生産する。そして欠品を追いかけず、次から次へと新しい商品を計画生産に従って投入する。これに対して、従来型QR MDを採用している日本企業は、欠品を追いかければ追いかけるほどシーズン遅れとなり余剰在庫となる。
Sheinの商品ターンオーバーに関する識者たちの誤解
ちなみに、日本では有識者と称する人達でさえ、「中国 Shein(シーイン)の秘密」と称し、「Sheinは2-3日で商品生産できる」などと書いているがこれは物理的に不可能だ。例えば、ニットであれば、リンキングという工程は16ゲージという、極めて細かい編み目に手作業で糸の縫い目を通すのだが、ここが最大のボトルネックになる。1兆円企業が販売するだけの量の生産を2〜3日でできる工場など世界には存在しない。この工程を自動化するのがホールガーメント(縫い目のできない編み方)だが、Sheinの商品にはホールガーメントも存在しない。さらに、布帛であればパターン作成が必要で、3D CADも現実的には使い物にならないから、サンプルも作成せずいきなり量産品をつくるなどあるはずがない。ものづくりの現場を知っている人であれば、2-3日などという非現実的なことは言わないだろう。あるとしたら、完成品に多少のリボンやPC dyed (製品染め)ぐらいだろう。
私は、中国アパレル企業の友人に、Sheinについて調査依頼した。彼は、「Sheinの秘密を実際にお見せしましょう」と言い、Sheinのウエブに掲載されている商品画像を、中国製スマホのAI画像検知で撮影した。すると、同一商品がタオバオをはじめ、あちこちのウエブサイトで掲載されているのだ。
つまりSheinは、工場で余った残反や余った商品が、ブランドネームを変え、あちこちでて販売されている「売場の一つ」なのだ。余った商品の中から売れ筋をピックアップして販売しているから膨大なSKUも可能なのである。フタを開ければ、極めて単純な仕組みだ。つまり、2~3日の生産をMDの中心軸に置くことなど不可能なのである。
仮にSPA(製造小売業)が、トレンド・ターンオーバーに商品ターン・オーバーを同期させるためにはZARAのやり方が最も合理的で、
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キャッシュのターン・オーバー
これは、前号で説明したキャッシュ・コンバージョン・サイクルである。話を交差比率に戻すと、バブル時代、商品とお金は逆相関で動いていた。しかし、商社は、豊富な資金や、ローンを戦略的に使い、金利分をLDP(Landed duty paid、国内アパレル渡し)に上乗せして商社金融を作り、輸入決済は銀行LC(信用状)や本邦ローンなどのユーザンス(返済までの期間)を使って国内では「締め、支払い」や「手形」、「分引き決済」など、日本の決済習慣にあわせていた。したがって「商社外し」を行えば、たちまちキャッシュフローが悪化する。今、商品回転率を上げる目的は、経営者に取っては「キャッシュの増加」を意味し、現場にとっては「欠品撲滅」を意味し、両者は異なっていることに多くのアパレル企業は気づいていない。
このように、ターン・オーバーとは、トレンド、商品、キャッシュの3つがあり、古き良き時代では、この3つが相関性をもって動いていたが、今これらは複雑に、そして、バラバラに動いている。個社の消化率がどんどん落ちているのはこのためだ。
「リードタイムが短ければ良い」というのは誤り
生産稼働を安定化させるには、前もって生産ラインや素材確保をしなければならず、そのため、キャッシュアウトは必ずシーズン前に発生する。あらかじめ備蓄した素材を活用し、事前に計画した生産ラインで商品をつくるわけだから、商品投入が単サイクルだろうが、長期サイクルだろうが、当月売れればキャッシュインが発生するわけだからキャッシュ回転率は変わらない。ベーシック衣料の強さはこういうところにあるわけだ。
もちろん、生産ラインも確保せず、素材備蓄もせず、毎回ドタバタ騒ぎを繰り返すやっつけ仕事のQRを繰り返すのであれば、商品回転率とキャッシュ回転率は相関するが、そんな商品は粗悪品の塊となりそもそも売れないだろう。SPAと名が付くアパレル企業は、直貿化を増やしながら工場の生産ラインの計画的確保と素材の備蓄をすればよい。あとは、安定した生産体制で売れる商品を作りキャッシュコンバージョンサイクルを上げるわけだ。交差比率は、商品回転率と現金回転率を混同した古い考え方なのだ。
いかがだろうか。今回、古い教科書を真っ向から否定する主張をしたが、商社外しが加速し、雑誌からインスタライブへ、など時代は大きく変化してきており、これらの影響を、「トレンド」、「商品」、「キャッシュ」の回転に分解し、相関性を考えてもらいたい。しっかりとした分析をすれば、ここに書かれている主張が正しいことがわかるだろう
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プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)
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