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ESG経営が「リスクまみれのD2C化」を推進する理由

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2021年11月22日 20時55分

Adrian Vidal/istock

ESG(環境・社会・ガバナンス)経営が、これまでとは比較にならないほどアパレル産業にとって重要となり、もはや無視できないほどになってきた。
私は、ESG経営とは、私たちが生きていくための環境をあらゆる産業が協力しながら守り抜く約束ごとではないかと思う。すでに地球の温度は10年早く1.5度上昇し、生態系にさえ影響を与える段階に来ているし、人権問題も経済の発展過程だといって切り捨てるのは、あまりに強者の論理なのかもしれない。産業弱体化が叫ばれるファッションでこうした問題に一石を投じることができれば、本当にすばらしいことだと思う。
しかし、地球のどこで生産されているのか掴むことさえできないほど複雑になったサプライチェーンは、早晩トレーサビリティ(透明性)責任が課せられ、DX(デジタル変革)によるEC化と相まって、結果としてD2C(Direct to consumer 製造業が消費者にデジタル技術を使って直販するビジネスモデル)化が加速することになる。しかし、その結果われわれが直面する「事業リスク」も否定できない。

環境規制が進めば、アパレルの
自社工場化も進む

metamorworks/istock
metamorworks/istock

国内アパレル産業の市場規模はついに8兆円を切り、もはや、人口減少と実質所得の低下だけではアパレル不況を説明できなくなった。加えて、SDGsの広がりは、既存アパレル業界にとっては、ネガティブ要因にしか働かない。「買い替え需要の長期化」と「二次流通の大きな拡大」を助長したことは、いまさら定量的に証明する必要も無いだろう。

 しかも、SDGs対応について多くの企業はIR活動やPR対応と考えている企業もまだまだある。だが、よく考えてもらいたい。この問題は単なるコミュニケーションの課題なのか、ということを。やがて、サプライチェーン全体の二酸化炭素排出規制や有害物質の計測責任・管理に加え「滞留在庫」にまで管理責任が問われる時代がくる可能性も否めない。
SPA(製造小売)であり自社ブランドで販売している以上「我知らず。生産現場に聞いてくれ」ではすまなくなっている。毎年の市場への総投入量の98%が海外生産で、その半分が売れ残り、毎年1520億枚が余剰在庫として積み増され日本のどこかに眠っている。生産地にいたっては、中国に加え、東南アジア、タイ、ミャンマー、バングラデッシュへ分散されている。複雑怪奇なサプライチェーンの透明化は、全ての企業に義務づけられる、大改革を伴う「トップマネジメント課題」となる可能性が高い。

SPAにも関わらず製販分離が進むアパレル産業

過去論考で書いたように、アパレル企業は企画の「立案」機能を川中、あるいは、川上に外注してきた。今でも、アパレル企業の企画立案の「トリガー」(きっかけ)は「工場への訪問」が起点だ。だから、デザイナーという職種は商社や工場に生息し、一部の例外をのぞきアパレル企業にクリエイティブな職種は少ないいわゆるアパレル企業のデザイナーは生産部にいる、というとアパレルに詳しくない人はみな驚く。アパレル企業は、「売れ筋商品」を追いかけるため、ますますリテーラーに近づき、デザイナーのメーン業務は縫製仕様書を描くこととなりクリエイティビティは失われていった。このように、アパレル企業は、生産より販売に力を入れてきた。デジタル投資も販売面だけにフォーカスされているのはそのためだ。その結果、企画機能が工場側に移ってゆき、「ファクトリーブランド」が次々とできあがっていった

イタリアや韓国の歴史を見ればこうした構造は明らかで、イタリアはフランスの、そして、韓国は日本の企画機能を取り込み、イタリアは世界へ、そして、韓国は中国大陸へ「ファクトリーブランド」として力をつけていった。これに対し、日本は安い人件費を求め「南下政策」(コストの安い国へ生産拠点を移転)を推進した。技術承継も5年ごとにリセットした結果、産業の空洞化を招いた上、戦前戦後日本を支え今でも世界で有数の技術力を持つ繊維・テキスタイル産業が日本から消えようとしている。米国のように、産業を金融とデジタル技術にダイナミックに移転しようという国家戦略があるなら話は別だが、そうではない。むしろ素材産業は日本が国際競争力を持つ最後の技術だし、非衣料品分野の世界市場規模は成長しているのだ。

 

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D2Cがもつ余剰在庫リスクとは

Adrian Vidal/istock
Adrian Vidal/istock

いかなる変化にも、必ず「必然性」と「トリガー」がある。今、D2C という名を見ない日がないほど「D2C」というワードがあちこちで踊っている。今も昔もアパレル業界に「中間流通を外せばコストは下がる」という発想があるからで、これは上記に上げた「南下政策」と無関係でない。

しかし、アウトソーシングというのは、本来は、その機能が競争優位の源泉であれば、例えコストが高くとも内製化すべきだ。単ににコストだけでものを考えるから、気づけば全てが「空洞化」するのだ。持つべき機能を外注化すれば、短期的利益を求めても中長期にジワジワと競争力を削いでゆく。こうした日本市場の歴史の必然的結果として生まれたのが日本のD2C(あえて、日本市場という言葉を使わせていただいた)である

工場が企画機能をもち、縮小著しい日本の小売やアパレルに供給を繰り返していても業績は下降線を描くだけである。当然、彼らはなんとかしたいと思いダイレクトに消費者に販売したいと考える。今ECモールさえあれば、日本中、いや、世界中の消費者に商品が届けられる。こうして、あちこちに無数の工場のECサイトができあがったのである。これをD2Cと呼ぶかどうかは読者の判断におまかせしよう。

 

ポイントは「返品在庫の拡販機能」 中間流通の価値を考えよ

D2Cにより、中抜きされるアパレル業務は3つの管理機能となる。それは「ブランド管理」と「在庫管理」、および、「顧客データ管理」だ。しかし、D2C事業をする中で工場が持つべき最も重要な管理が「在庫管理」なのだ。

工場のKPI(重要業績指標)は稼働率で、生産活動を休転させればCMT (工場の工賃)が跳ね上がる。バイオーダー生産をすればよいではないかというが、流れ作業とセル型バイオーダー生産は、工場をゼロから作り直すほど工程の再設計と設備投資が必要だし収益管理も全く別次元の手法が必要となる。

工場側からすれば、「当然、出荷した商品は買取してもらう」と考えているようだが、ECモールは委託販売が一般的だ。そこで、よく聞いてみると、「在庫買取機能」をアパレルに、「返品在庫の拡販機能」を商社にもたせ、中間流通を使っている。ようは、D2Cといっても、従来のビジネスモデルと同じで、違いはEC販売しているだけであることが多い

シーインのサイト

私は正真正銘、越境D2Cである中国Shein(シーイン)モデルを日本でやればよいと考えている。幸い、円安基調で輸出にとって追い風だし、この国の産業政策では金利も当面上がりそうもなさそうだ。

さて、このように、どのようなうまい方法でもメリットとデメリットがある。D2Cと (正しく実行すれば) 在庫リスクが待ち受けているように思くどいようだが、ビジネスモデル論からでなく、消費者のニーズから事業を捉えないと、消費者にとって不要なものに消費は発生しない。街に出て、消費者を見、自分たちの生み出した商品は、誰に対してどういう価値を与えているのかという本質的な問いに答える努力をすべきだ。ビジネスモデルというのは、それを体現させる仕組みなのだ。仕組みだけ先に作り上げても何も変わらない

 

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プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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