無人店舗、フードデリバリー、業務改革を進めるイオン九州のDXとは
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2021年12月14日 0時0分
イオン九州(福岡県/柴田祐司社長)は、2020年9月1日付でマックスバリュ九州およびイオンストア九州と経営統合し、食品スーパー(SM)、総合スーパー(GMS)、ディスカウントストア(DS)、ホームセンター(HC)で計314店舗(21年2月期末時点)を展開する九州最大の小売企業となった。イオン九州はどのようなデジタル戦略を描いているのだろうか。
![オフィス向け無人キャッシュレス店舗](https://diamond-rm.imgix.net/wp-content/uploads/2021/11/ae07efd6414b5f6d467d389577e9b81d.jpg?auto=format%2Ccompress&ixlib=php-3.3.0&s=021f0b97601aa488dc0c05d1207cdfcf)
デジタル売上高を
25年度に500億円
イオン九州では、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進によって新たな顧客体験(CX)とよりよい従業員体験(EX)を提供し、消費者の利便性を高め、労働生産性を向上させることで、九州の成長とくらしの豊かさに貢献することをめざしている。執行役員DX責任者の岩下良氏は、その実現に向けたアプローチとして「まずは既存業務プロセスの変革をすすめながら、新たな顧客価値の創造にも取り組みたい。また、既存の領域にとらわれない新たな価値や事業モデルの創出にも積極的に挑戦していく」との方針を示している。
イオン(千葉県)は、21年度から25年度までの中期経営計画で「25年度にデジタル売上1兆円」との目標を掲げ、ECとネットスーパーを中心としたデジタル事業を加速させている。
傘下のイオン九州は、2008年にECサイトを開設したのに続き、13年にはネットスーパーを開始するなど、イオングループ内でも先進的にデジタル事業に取り組んできた。イオンの中期経営計画と連動させ、25年度までには年間のデジタル売上高を500億円規模に拡大させ、デジタル売上比率を10%にまで高めることを目標としている。
21年度はデジタル事業の拡大に向けた「種まき期」と位置づけ、ネットスーパーで年間売上高300億円、ECで年間売上高200億円の事業規模に対応できるシステムの構築をすすめている。21年9月にはECサイト「イオン九州オンライン」をリニューアルオープンした。
無人キャッシュレス店舗
「スマートNICO」を出店
デジタル事業の強化と連動し、評価制度の見直しにも着手している。21年度は「商品部門の評価の5%をデジタルに関する取り組みに充てる」との新たな評価制度を試験的に導入した。岩下氏は「会社全体を同じ方向へと導くためにはDXの取り組みと会社の仕組みを連動させることが不可欠だ」と指摘する。
イオン九州では、店舗を持つ強みとデジタル技術を融合させ、地域の特性や消費者ニーズの多様化に対応した新たな業態やサービスも積極的に展開している。
事業所向け無人キャッシュレス店舗「スマートNICO(ニコ)」を21年4月以降、西部ガス情報システム(福岡県福岡市)や九電工(福岡県福岡市)など、福岡市内7カ所のオフィスに開設。近隣の店舗が商品供給を担うことで、効率よく運営できるのが強みだ。デジタル推進部長の板木伸也氏は「この新業態の知見やノウハウは蓄積されつつある。今後、品揃えやオペレーションの改善に継続的に取り組みながら、より大きく展開していく方針だ」と述べている。
また、21年6月には、フードデリバリーサービス「ウォルト(Wolt)」と提携し、即食商品や総菜、酒類などを取り扱うオンデマンド型の商品配達サービスを開始した。岩下氏は「ニッチな消費者ニーズに対応するサービスとして開始したが、想定以上の反響を得ている」と一定の手応えを語る。今後、サービスの対象エリアと対応店舗を順次拡大していく計画だ。
![フードデリバリーサービス「ウォルト(Wolt)」](https://diamond-rm.imgix.net/wp-content/uploads/2021/11/Wolt.jpg?auto=format%2Ccompress&ixlib=php-3.3.0&s=23744ace8871451f7f8c891e607065fd)
電子棚札を導入し
業務プロセスを変革
デジタル技術を活用した既存業務プロセスの変革にも着手している。たとえば、21年4月には凸版印刷(東京都)の電子棚札システム「トッパン電子棚札システム」を一部の店舗で試験的に導入。特売や売価変更などの情報が基幹システムから自動で反映され、売場の電子棚札に表示される仕組みだ。値札を手作業で貼り替える作業の負荷を軽減でき、よりタイムリーな売価変更によって売上への貢献も期待される。
小売業はともすると勘や経験に依存しがちな傾向があるが、デジタル技術を活用することで、様々なカスタマージャーニーで接点を持ち、消費者ひとり一人の嗜好やニーズをデータで把握できるようになる。岩下氏は「お客さまのニーズをより正確に理解したうえで『お客さま第一』の商品・サービスを提供するためには、これまでの延長線上から脱却し、まったく新しいことに挑戦しなければならない」とし、「小売業でDXを推進するためには、これまでとは異なる新しい発想や起業家精神を持つ人材が必要だ」と説く。
イオン九州では、DX推進に向けて、若手人材の発掘や育成にも積極的に取り組んでいる。20年11月、デジタル人材を社内で初めて公募し、7名がデジタル推進部に着任した。岩下氏は「経営統合を機に多様な人材が集まり、新体制のもとで新しい目標に向かって切磋琢磨しようというポジティブな機運も高まっている」とし、「今後は、起業家精神に溢れる人材を育てるための会社の仕組みづくりにも柔軟に対応していく」との方針を述べている。
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