ネット直販企業は、なぜエージェンシーを利用しないのか?:ダラーシェイブクラブ、アウェイなどの事例

DIGIDAY[日本版] / 2018年7月26日 8時50分

ダラーシェイブクラブ(Dollar Shave Club)はもはや新興企業ではない。登録したカスタマーにカミソリを毎月届けるネット直販企業として、2011年にはじまった同社は、2016年に消費財メーカー大手のユニリーバ(Unilever)に10億ドル(約1100億円)で買収された。いまや同社は歯ブラシやタオル、さらにはペパーミントの香りのトイレットペーパーまで、あらゆる男性向けバスルーム用品を販売している。

そんなダラーシェーブクラブのなかで変わることのない流儀がある。同社はほぼすべてのマーケティングを、エージェンシーへの外注なしにインハウスで行っているのだ。同社は10人のクリエイティブ担当チームを結成し、メディアバイイングやアナリティクス、カスタマーサービス、製品開発といったチームと協力してマーケティングにあたっている。これまで同社もいくつかの小さなキャンペーンでメディアバイイングや広告制作で広告エージェンシーの力を借りてきたこともあるが、ほとんどすべての広告業務は自社で行ってきた。

ダラーシェーブクラブの創設者でありCEOのマイケル・デュビン氏はこの方針について、「そのほうが消費者の目にブランドとしての特色やメッセージが届けやすいし、社内に向けても同様の効果がある」と語る。

内製化のメリット

ネット直販ブランドはマーケティングにおいて注目を集める存在だ。数多くのネット直販ブランドが、新時代のデジタルマーケティング技術に精通していることをマーケットで証明してきた。エージェンシーにとってはあまり良いニュースではないだろうが、なかにはエージェンシーの手を借りずに設立時のビジネスから手を広げることに成功しているブランドも少なくない。こうした手法をとる理由として各ブランドが挙げるのが、データの管理や迅速な対応、コスト削減や統一された視点からのマーケティングが実現できる点だ。

ダラーシェーブクラブのクリエイティブ部門のバイスプレジデントで、エグゼクティブクリエイティブディレクターを務めるマット・ナップ氏は次のように語る。「広告以外の部分にも関与できるのが強みだ。クリエイティブエージェンシーにとって広告は単なる問題解決のための手段にすぎない」。

ネット直販企業でも、適切な人材や専門知識が無かったり、社内でそうした役割を運用できるだけの資金がなかったりする場合は外注せざるを得ない。だが自社で行うことによりデータやメッセージを自らの手で管理できるというのは大きな魅力だ。スタートアップとしての殻を破ろうとしているネット直販企業にとって、その価値はとりわけ大きい。

アウェイの事例

旅行かばんブランドのアウェイ(Away)もまた、旅行ライフスタイル企業へと進化をとげようとしている。同社は6月に5000万ドル(50億円)の資金を調達し、今年中にさらに6店舗を増やして合計10店舗とする予定だ。さらに同社は旅行かばんやアクセサリーといった商品の宣伝をこなしつつ、旅行雑誌「ヒア(Here)」やポップアップのコンセプトホテル「シェアウェイ(Chez Away)」といったライフスタイルのプロジェクトを推進している。こうした目標を達成するためには、集中的な取り組みが求められる。

アウェイの共同創設者であり最高ブランド責任者のジェン・ルビオ氏は、社内でマーケティングエージェンシーを組織したことが同社のこれまでの成長にとって不可欠だったとともに、これからも「もっとも優先度が高い」取り組みであり続けるだろうと語った。自分たちで機敏にカスタマーサービスを管理、実施できるためだという。アウェイはカスタマーの要求に応える新製品を頻繁に開発しており、その製品のキャンペーンを数日間に渡って実施している。ルビオ氏は「外注でこのように柔軟に対応するのは難しい。ブランドに合った方法となるとなおさらだ」と指摘する。

ルビオ氏によると、アウェイが2015年にはじめて旅行かばんをオンライン販売して以来、マーケティングに関する外注はいくつかのオフラインメディアの戦略的購入、そして動画や制作技術のアシスタント、スタイリスト、カメラオペレーターのみだ。それ以外のマーケティングはすべて社内でこなしているという。アウェイでは全社員の3分の1にあたる50人が、テレビや戦略、メディアバイイングをはじめとする全クリエイティブ業務を担当している。さらに25人の顧客体験チームが、カスタマーからの意見を社内チームと共有している。

機敏で効果的に

社内チーム同士の密な連携によって、データの共有も進んでいる。ダラーシェーブクラブの10人のクリエイティブチームもまた、データ解析チームと密に連携をとっている。同社のクリエイティブ部門のバイスプレジデントとエグゼクティブクリエイティブディレクターを務めるアレク・ブラウンステイン氏はこれについて、両チームが連携することで広告の有効性を表す消費者データに即座にアクセスできるため、広告やプレースメントを増やす一連の作業をすぐにこなせる強みがあるという。「フィードバックを社内で完結させると、データにリアルタイムでアクセスできない外部パートナーよりもはるかに機敏で効果的に業務が進められる」と、ブラウンステイン氏。

エージェンシーとの退屈で長時間におよぶ業務プロセスも、社内のマーケティングチームとであればすぐに終わらせられることもある。
ニキビケア製品のキュロロジー(Curology)は消費者一人ひとりに合わせたニキビケア製品を届けている。同社でマーケティング部門のシニアバイスプレジデントを務めるファビアン・シールバッハ氏は、マーケティング部門の20人の社員とともにキュロロジーのクリエイティブや戦略、メディアバイイング、インフルエンサーの管理を担当している。同部門のこうした業務によって、キュロロジーが迅速に対応できるようになったとシールバッハ氏は指摘する。午前中に動画に関するアイデアの戦略を練り、午後にはすぐに実行に移すこともできるという。

同氏は「当社ではクリエイティブに関する複雑なプロセスもなければ、時間をかけて細々としたブリーフィングを行うこともない。クリエイティブのプロジェクトの調整をしたければ、立ち話やSlackのメッセージだけで済むし、実行も速い」と指摘する。

事業の成功が一番

イタリア製の高級靴をオンラインで販売しているエムジェミ(M.Gemi)もまた、社内のリソースを利用したほうが迅速に動けると考えている。6月にはインハウスの動画制作スタジオを立ち上げ、毎週月曜日にインスタグラムライブで靴のオンライン販売のライブ配信を行っている。それまでは10人のマーケティングチームでクリエイティブの動画撮影を行っていたが、撮影スタジオやスタイリスト、写真家などを頻繁に外注しなければならなかった。さらに撮影した動画の配信やSEO、アフィリエイト、ダイレクトメールにもエージェンシーの力を借りていた。エムジェミの共同創設者でありプレジデントのシェリル・カプラン氏は、現在ではこれらの業務を自社の動画制作スタジオで行うことで、スタジオの収益が20%増加したと明かす。

自社でチームを編成することで経費の節約につながる。ブラウンステイン氏も「毎月依頼料を払うよりも、社内チームで実施したほうが経費削減につながるのは間違いない」と語る。さらに同氏は経費削減がメリットであるのは間違いないが、それ以上に大きなメリットはより効率的にクリエイティブ業務を遂行できることだと指摘する。社員は事業の成功のために働いていて、外部エージェンシーのために働いているわけではないからだ。

ブラウンステイン氏は次のように語った。「広告賞をとるために努力しているわけでも、ポートフォリオの見栄えをよくするために働いているわけでもない。我が社員にとってのポートフォリオは、事業の成功にほかならないのだから」。

Ilyse Liffreing(原文 / 訳:SI Japan)

 

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング