Apple News+ に戦々恐々とする、パブリッシャーの胸の内:「バンドルは常にブランド価値を下げる」

DIGIDAY[日本版] / 2019年3月27日 16時50分

Appleは雑誌版Netflix(ネットフリックス)を制作したいと考えているが、すべてのパブリッシャーが参加する準備ができているわけではない。

Appleは、新たな有料のサブスクリプションサービス「Apple News+」を月曜日に発表した(日本未対応)。このサービスを利用すると、月額9.99ドルで300以上の雑誌や、ウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)などの一部ニュースペーパーを閲覧できるという。パブリッシャー数社によると、Appleはその収益の50%を取得し、パブリッシャーが提供したコンテンツへの読者の「滞在時間」や閲覧時間に応じ、残りの50%の収益をパブリッシャー間に分け与えるという。

これらの条件に加えて、顧客関係と誰がどんなコンテンツを閲覧しているかなどのデータの大半をAppleが管理するという事実は、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)やワシントン・ポスト(The Washington Post)を含むパブリッシャー数社がこのサービスへの関心を削ぐには十分であった。パブリッシャー数社の幹部、特にニューヨーク・タイムズのCEO(最高経営責任者)であるマーク・トンプソン氏は、通常の新聞の定期購読よりもかなり低い値段で複数の商品とコンテンツを一括提供することは、危険な前例を作ることになると主張している。

「パブリッシャーに悪影響」

「これによって、ニュースがコモディティ化し、パブリッシャーの価格設定に悪影響が出る」と、このサービスに参加しているあるパブリッシャーの幹部は語る。「バンドルは、ひとつの商品をほかの商品とひとくくりにしてしまうため、パブリッシャーのブランドの認知度やブランド独自のストーリー性の価値が常に失われることになる。どのパブリッシャーの記事も『長時間閲覧したい』とは思われないことになる」。

パブリッシャーは、特に消費者からの収益を増やしたいと考えている場合、バンドル戦略に完全に反対するわけではない。しかし、すべてのサブスクリプションの潜在顧客を獲得しているわけではないという想いが強いため、自分たちが大きく成長する機会のひとつをAppleが阻むのではないかと不安に感じている。そのためにまだ、いまは注目を集めているAppleの新サービスを傍観したいと考えているパブリッシャーもある。

なお、Appleにはコメントの依頼をしたが、本記事の完成までに返答がなかった。

短期契約が存在する意味

Appleの新しいサブスクリプションサービスに加わったパブリッシャーの多くにとって、選択肢は限られている。

Appleは昨年、月額最大15ドルで、約200冊の雑誌に加えて、ロイターの日々のニュースダイジェストをオンライン上で無制限に閲覧できるサービス「テクスチャー(Texture)」を買収。この件に精通したある情報筋によると、当時、コスモポリタン(Cosmopolitan)からブルームバーグビジネスウィーク(Bloomberg Businessweek)まで多岐にわたるタイトルを扱っていた、テクスチャーに記事を出していたパブリッシャーの多くは、長期契約によってこのサービスに縛られていたという。そのため、Appleは交渉を行う手間が省けた。

しかし、その情報筋によると、Appleはまた、テクスチャーの買収以来、それらのパブリッシャーのうち数社と新しい取引交渉をしなければならなかったようだ。この交渉の結果、短期の契約条件になったものもある。ビジネスインサイダー(Business Insider)のレポートによると、たとえば、ニューヨーカー(The New Yorker)は独自の高度なデジタルサブスクリプションビジネスを立ち上げたため、Appleのサービスを早期に離脱することができたという。ある情報筋によると、Appleの販売担当者は、複数年契約を締結してまで、同情報筋の発行物をわざわざ販売しようとはしなかったという。

Appleは収益の保証をしていないため、このような短期契約条件が必要なのかもしれないと、複数の情報筋が伝えている。

滞在時間という指標へ嫌気

そして、パブリッシャー筋は、Appleが収益の支払いを計算するために使用している指標については、嫌気がさす部分がたくさんあると語る。Apple式の閲覧時間測定方法である滞在時間(Dwell time)は、コンテンツの制作時間にあてられた労力、あるいは費用を考慮しておらず、この指標は、視覚的なコンテンツを制作している会社を長編の読み物あるいは長編のエッセイを制作している会社と比較した場合、視覚的なコンテンツを制作している会社に不利に働くようになっている。指標となっている滞在時間の影響で、サービスに参加しているコンテンツパブリッシャーの形態を変えてしまう望ましくない誘因が発生している可能性があると見ている企業もある。

「パブリッシャーが閲覧者数やトラフィックでNo.1をめざすような規模を重視する方向へと戻るだろう」と、あるパブリッシャー筋は言う。「少しわかりにくい指標の時代を迎えている。パブリッシャーにとっては好ましくない。これは、これまでとは異なる悪い方向へ向かうタイプのレースだ」。

Appleのサービスの支持者は、Appleがサービスの無料トライアル利用を何億ものiPhone所有者に即時に提供できることを強調する。しかし、Apple Newsの規模、さらに最近、Appleがニュースやパブリッシャーコンテンツの配信へ進出していることを心配の種だと見ている企業もある。

既存サービスに対する不信感

たとえば、イギリスのパブリッシャーは、このリーチがサブスクリプション戦略を持つパブリッシャーにとって、どの程度有意義なものであるかについては懐疑的だ。そのパブリッシャーによると、既存アプリ「Apple News(日本未対応)」は、潜在顧客である14億人のAppleデバイスユーザーのうち、世界中で約8500万人が利用しており、月当たり1%未満の割合でしか増加していないという。

ニュースパブリッシャーは通常、1%未満のオーディエンスを購買客に転換するが、現実には3%近くもの傑出した数字を記録していると、パブリッシャー向け消費者収益戦略の構築を手助けをする企業マザー・エコノミクス(Mather Economics)の創業者、マット・リンジー氏は言う。

Appleがどこかその数値の中間に落ち着き、Apple Newsユーザーの2%がこの新しいサービス、Apple News+を購読した場合、それはつまり、合計で200万未満の顧客をマネタイズすることを意味する。

たとえ、Apple News+がかつてないほどの割合でApple News閲覧者を顧客に転換することに成功したとしても、パブリッシャーは今後、一層大きなリスクに直面するだろう。

Amazon Primeの対抗として

パブリッシャーやほかの業界観測筋は、Appleは最終的にこのサービスとApple MusicあるいはApple TVを含む、ほかのいくつかのメディアサービスを組み合わせて、一種のメガバンドルにするだろうと予想している。このサービスは、Appleによって直接販売される、あるいはベライゾン(Verizon)をはじめとする通信会社を介して販売される可能性がある。

「Appleは、Amazon Prime(プライム)に対抗するために一種のライフスタイルバンドルを作成するつもりだろう」と、月額9.99ドルで複数の新聞や雑誌を広告なしに閲覧できるサービスを販売しているインクル(Inkl)のCEO、ゴータム・ミシュラ氏は言う。「iPhoneの販売が伸び悩むなら、この成長の鈍化を相殺するためのサービスを、Appleは開始するだろう」。

Appleはパブリッシャーと、その見通しについて議論してきたわけではない(Appleの販売担当者は、この件に関して尋ねると話題を変えたと、ある情報筋は語った)が、このような動きは財政状態を一層好ましくない状態にしてしまう可能性が高いと、複数の情報筋が伝えている。音楽やテレビ番組はテキスト媒体よりも高価になるため、Appleにとって一層重要であることは間違いない。

ショールームのようなもの

Appleのサブスクリプションサービスは、やがてサブスクライバーから収益を得るための代替的な手段というよりは、Apple Newsの改善版のようなものになるだろうと語るパブリッシャーもいる。マネタイゼーションが継続的な問題であるため、Apple Newsは独立した収益源というよりは、ショールームのようなものだと見なしはじめているパブリッシャーもある。

パブリッシャーのあいだでは、先日発表されたほかサービスが、どのようにApple News+と関係するのかについて、混乱も見られる。

ある情報筋は、Appleはこのサービスに参加しているパブリッシャー数社にプラットフォーム上でいくつかのコンテンツを共有するだけであり、すべてのコンテンツを共有するわけではないと述べたという。

配信コンテンツは取捨選択で

つまり、パブリッシャーはやがて、自社の直接のサブスクライバーがどのようなコンテンツを閲覧したか、そして、それがほかのオーディエンスセグメントが閲覧したものとどう異なるかを確認できるようになる可能性があるということだ。こうして、パブリッシャーは自社のメリットのためにAppleの新サービスを利用できる可能性があると、マット・リンジー氏は言う。

「今後、(パブリッシャーは)コンテンツをすべて投入するのをやめるだろう」と、リンジー氏は予測する。彼は、やがてパブリッシャーは、消費者からの収益を最大化するために、どのチャネルでコンテンツを配信すべきかを判断するため、プロセス、おそらく自動化したプロセスを利用するようになるだろうと予想している。

何年ものあいだ、パブリッシャーは、プラットフォームによる配信は自社ブランドの価値を下げ、閲覧者と直接的な関係を築こうと考えている企業にとっては危険なトレンドであり、それら閲覧者を購買客に変えようとしている企業にとっては、プラットフォームによる配信は受け入れられないリスクだと苛立ちを隠せないでいた。

「これに賭けても良いのでは?」

しかし、すべてのパブリッシャーがAppleの新サービスを傍観しているわけではない。たとえば、今年後半にサービスに会員制を導入する予定だと発表したVox Mediaを親会社に持つVoxは、このApple News+の一員となっている。消費者からの収益を得るための高度な戦略を持たないVoxやそのほかのパブリッシャーにとって、大きな努力をせずに収益源を得られる見通しがあることは、興味深い。Vox Mediaは、このレポートにはコメントしていない。

「このサービスに関するすべてのストーリーが、パブリッシャーとパブリッシャーのサブスクリプションビジネスとの関係と、パブリッシャーとAppleとの関係を同列に扱っている」と、サービスに参加しているあるパブリッシャーの情報筋は言う。「何十万人ものサブスクリプションを持っていないなら、このサービスに賭けてみても良いのではないだろうか?」。

Max Willens & Lucinda Southern(原文 / 訳:Conyac)

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