「大規模な実験だ」: Apple News+ を「実験室」と捉える デジタルメディアたち

DIGIDAY[日本版] / 2019年4月4日 11時50分

Appleが先日発表したApple News+は、レガシー・パブリッシャーたちにとっては悲惨なサービスだと捉える業界関係者もいる。しかし、デジタルネイティブの企業のなかには、Apple News+は新しい有料プロダクトを試験的に展開する便利な方法かもしれないと、考えるところもある。

果たして、どのレガシーパブリッシャーがNews+に参加するのかと注目が集まるなか、いくつかのデジタルネイティブパブリッシャーたちも参加が発表された。Vox Media、Business Insider(ビジネスインサイダー)、そしてスキム(theSkimm)といったサービスが、月額9.99ドルのNews+に参加している。

「非常に大きな実験だ」

これらは多くの点で異なっているメディアたちだが、彼らすべてが消費者収益を開発しようと試みている初期段階にあることは、注目に値する。Vox Mediaは、いくつものメンバーシップ制のプロダクトを今秋には展開すると、CEOのジム・バンコク氏がSXSWで3月初頭に発表している。コアプロダクトであるニュースレターを静かに拡大しており、いまでは希望も込めて「メンバーシップ企業」と自称しているスキムは、メンバー限定のアプリやカレンダーサービスといったプロダクト群を拡大する計画を持っているようだ。さらに、ニューヨーク・メディアはプリント版の雑誌ブランドに加えて、AppleのNews+に3つのデジタルバーティカルを加えているが、彼らもまた2018年度末にフレキシブルペイウォールをローンチしている。

今回、彼らは重要なメインビジネスとの共食いを避ける形で、News+を活用してコンテンツやプロダクトをパッケージングする新しい方法を探っているわけだ。それと同時に収益を上げることができる。

「これは非常に大きな実験だ」と、ニューヨーク・メディアの最高プロダクト責任者であるダニエル・ハラック氏は言う。「Appleが抱えているオーディエンスは私たちのWebオーディエンスと同じではない。私たちのサービスに直接サブスクリプション加入をする人は、今回のNews+のパッケージングに興味を持つような人たちと異なっている」。

反対意見と解決策

すでに自社でサブスクリプションサービスを発展させているパブリッシャーの多くは、Apple News+について気に食わない点がたくさんあるだろう。顧客との関係をAppleがコントロールすることで、パブリッシャーに行き渡るデータは非常に少ないものとなる。またAppleが50%の取り分を取ったあと、パブリッシャーに支払われる額を決定する基準は不明瞭だ。

「不当、という言葉を私なら使うだろう。ティム・クック氏がジャーナリズムを重要視しているという一方で、それほど大きな取り分を持っていくのは馬鹿げており、社会状況を理解できていない」と、テンプル大学(Temple University)におけるジェームズ・B・スティール・チェア・オブ・ジャーナリズム・イノベーション(the James B. Steele chair of journalism innovation)のアーロン・ピルホファー氏は言う。

参加する300超のメディアに対し、News+はそれぞれの社に運用の幅を持たせている。すべてのコンテンツをNews+に提出しなければいけない、というわけではないのだ。たとえば、ニューヨーカー(The New Yorker)の場合、毎週ニュースプラスに出されるのは各週発行のプリント版だけとなっている。ロサンゼルス・タイムス(The Los Angeles Times)の場合、アーカイブからのコンテンツは一切提供していない。また、デジタルネイティブメディアたちは、News+を実験を行うプラットフォームとして活用しようとしている。

各社の取り組み方法

Voxの場合、Apple News+を彼らのウインドウ戦略の一環として試験運用する予定だ。彼らのプロダクト、ハイライト(Highlight)経由で毎週一定数のコンテンツが公開されるが、それらが全体的に公開される前の1週間、Apple News+において限定公開されるという具合だ。

スキムの場合、コンテンツのダイジェストをカスタマイズしたものをNews+に限定で公開する。これは無期限となっていると、スキムの最高プロダクト責任者であるディージャ・カウアー氏は言う。

ニューヨーク・マガジン(New York Magazine)が持つデジタルバーティカルは、サイトがもしも実際の雑誌だった場合にどのような見た目になるか、をNews+上で探ると、最高プロダクト責任者のダニエル・ハラック氏は言う。カット(The Cut)の場合、長年デジタル版の「カバー特集」を作ってきた。カバー特集はインスタグラム(Instagram)上で発表される。このプロセスは、たとえばバルチャー(Vulture)のようなサイトのそれよりもより高度なものになるだろう。

News+の発表時、ウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)の参加が多くの業界関係者を驚かせた。しかし、彼らでさえも、いくつかの点でNews+を独立したプロダクトとして捉えているようだ。報道によると、彼らは50人のレポーターを雇ってNews+に載せるための軽量なバージョンの記事を制作するという。News+オペレーションのゼネラルマネージャーに就任したキャサリン・ベリー氏は、彼らのメンバーシップ・オペレーションのゼネラルマネージャーであるカール・ウィルス氏とは、独立して取り組むことになる。

価値を示せるのは有用

ほとんどのパブリッシャーたちは読者とダイレクトな関係性を持ちたいと思っており、彼らにとってコンテンツは、その一要素にしか過ぎない。そのためこういった実験を行うのは理にかなっている。Vox Mediaのメンバーシップにはコンテンツ以上のものが含まれるだろうと、バンコフ氏は示唆した。ハラック氏によると、ニューヨーク・メディアのメンバーシップもおそらく、イベントやコミュニティといったコンテンツを超えたものを含むことになるという。巨大なパッケージの一部であっても、自分たちのコンテンツに価値があると示すことができるのは有用だ。

デジタルネイティブパブリッシャーたちにとっては、こういった実験を自社のコア戦略から離れずに行うことができるのはありがたい。「Voxが参加している理由は、完全に理解できる。彼らにとっては、すべてが追加的な収益になっており、すでに存在するサブスクリプションビジネスとの共食いも起きない。人々が欲しいと思う種類のコンテンツだ」と、ピルホファー氏は言う。

Max Willens(原文 / 訳:塚本 紺)
Photo from GIZMODO JAPAN

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング