FT のラグジュアリー誌、なぜ読者が5分も滞在するのか?

DIGIDAY[日本版] / 2019年6月11日 16時50分

フィナンシャル・タイムズ(The Financial Times:以下、FT)の高級ライフスタイル分野を扱うタイトル「ハウ・トゥ・スペンド・イット(How To Spend It)」は、富裕層の買い物客をサイトに呼び込み、購入につなげる手法に精通している。同サイトの平均滞在時間は、5分に達しているという。

ハウ・トゥ・スペンド・イットは、旅行、ファッション、料理やアルコールといった分野をカバーするタイトルだ。もともとは土曜版の1ページとしてはじまったこのタイトルは、40年以上の歴史をもつ。1994年には大型の雑誌版としての展開がはじまり、2009年にはHowtospendit.comがローンチされた。最近では、「研究所で作られたダイヤモンド、その輝きは永遠なのか?(Lab-grown diamonds: are they forever?)」や「ホープ・クラシック・ラリーが5年目にして復活の兆し(The Hope Classic Rally swings back around for its fifth edition)」といった記事が掲載されている。こうした記事以外にも、7500ポンド(約105万円)のカルティエ(Cartier)の時計や1万4400ポンド(約200万円)のアスプレイ(Asprey)の花瓶といった高級ギフトのためのガイドが掲載されている。

ハウ・トゥ・スペンド・イットのトラフィックの7割はFTを読む富裕層が占めており、こうした高価なラインナップはオーディエンスに適した内容となっている。FTによると、FT読者のサイトにおける平均滞在時間は4分40秒だ。一方、FT読者でない場合の滞在時間は52秒にまで落ち込む。滞在時間の指標は分野ごとに異なるが、どの分野でも2分以上であれば成功とみなされている。

FTにとって貴重なタイトル

ハウ・トゥ・スペンド・イットで1998年から同タイトルの編集者を務め、5月一杯で退職したジリアン・デ・ボノ氏は、「ホームページのデザインについて検討したときに、読者のなかでも目立ったふたつのグループが存在していることに気がついた。何かを調べたくて来た読者と、ウィンドウショッピングや面白いものを探しにきた読者だ。この2グループの研究を慎重に行ってきた」と明かす。

ディスプレイ広告とブランデッドコンテンツを展開しているハウ・トゥ・スペンド・イットのデジタル広告収益は今年、過去最高の勢いで伸びているという。FTの資料では同タイトルの収益を分けて記載はしていない。富裕層のオーディエンスが余暇に読むハウ・トゥ・スペンド・イットは、あらゆる面でFTにとって貴重なタイトルとなっている。1994年の雑誌初版から利益を出している同タイトルは、FTの経営陣の言葉を借りれば「必要不可欠」な存在だ。

今年の広告収益が伸びているのには、いくつかの理由が考えられる。同タイトルは記事や動画におけるブランデッドコンテンツに加えて、昨年度からブランド提携を行っており、リッチメディア的なアスペクト比の高い動画やスライドショーも取り入れた、クライアントのスタイルにあわせたマイクロサイトを提供するようになった。ブランデッドコンテンツは全トラフィックの7%を占めている。FTによると、同サイトの月間ユニーク訪問者数は25万で、セッションあたり平均3.9ページを閲覧しており、平均滞在時間は62秒だ。

高級ブランド必須のタイトル

「我々の課題は、年に何度か需要が供給を上回る時期が訪れることだが、こうした繁忙期にブランデッドコンテンツを提供できるようになった」と、ボノ氏は語る。今年の現時点ですでに、ハウ・トゥ・スペンド・イットが提供するブランドコンテンツキャンペーンは昨年度の2倍近くに達している。

高級パブリッシャーのプールは少ない。高級パブリッシャーはこれまで結果が出ているところへ投資を続けるケースが多く、詳細な分析データに関わらず場所を移さない場合もある。ハバスラックスハブUK(Havas LuxHub UK)のトップ、リビア・ステファニーニ氏は次のように明かす。「クライアントは口々にこう言っている。指標にかかわらず、記事やインフルエンサーも関係なしに、ハウ・トゥ・スペンド・イットで宣伝したものは売れると。高級ブランドの広告主、とりわけ超高級品や宝石ブランドにとっては必須のタイトルだ」。

こうした傾向は、パフォーマンスがより重視され、結果が即座に測定できるようになっているファッション広告分野の流れにはそぐわない。だがステファニーニ氏は、高額商品は売れる数自体が少なく、ハウ・トゥ・スペンド・イットにおける宣伝と売上の相関関係はつかみやすいと語る。

そのため、ハウ・トゥ・スペンド・イットはアフィリエイトのリンクを売る必要はなく、その予定もないという。明確な線引きが存在しているのだ。

求めるのは規模ではなく質

同タイトルは旅行記事のなかで、相手から支払いを受けて紹介したものについては公開している。エンダース・アナリシス(Enders Analysis)のリサーチアナリスト、アリス・ピックホール氏は「FTは透明性の高さで知られている。築き上げた信頼を損なわないことを重視している」と指摘する。また「アフィリエイトリンクによる収益化で短期的な利益は得られるが、ブランドにそぐわない。アフィリエイトを排除することで信頼度を維持できる」という。

FTによると、2019年の月間ユーザー数は40%増加しているという。コムスコア(comScore)はハウ・トゥ・スペンド・イットの測定は行っていないが、シミラーウェブ(SimilarWeb)によれば昨年11月から月間ユーザー数で30万ほどの増加が見られる。決して大きな増加ではないが、そもそも同タイトルは大きな数字を目標にしているわけではない。

「追い求めているのは規模の拡大ではなく、質の高いエンゲージメントだ」と、ボノ氏は語る。「適切な心理状態にある人間に、適切なタイミングでリーチして、適切なオーディエンスがコンテンツに触れることが大切だと考えている」。

旅行は、同サイトのトラフィックの11%を占めるもっとも人気が高いコンテンツだ。それに続くのが男性のスタイル、女性のスタイルに関するコンテンツで、それぞれ同9%、7%となっている。最近成功した記事のひとつが「唯美主義者、エイドリアン・チェン氏が好みについて語る(The Aesthete: Adrian Cheng talks more personal taste)」だ。ページ閲覧数は19万3000で、93%がGoogle検索からの訪問者だった。また「燃費が改善したオーバーフィンチのレンジローバー(A new Overfinch Range Rover that goes the extra mile)」の閲覧数は5万3000となっている。

ニュースレター戦略の改善

さらに昨年、ニュースレター戦略を改善したことでオーディエンスが増加している。ハウ・トゥ・スペンド・イットのメール開封率は42%、クリックスルー率は12%と高くなっている。eメールサービスのメールチンプ(MailChimp)のメディアとパブリッシャーのベンチマークでは、それぞれ21.9%および4.5%となっている。

チームは全分野のニュースレターを5分野にわけ、登録募集を目立たせた。FTによると、登録解除に伴う悪影響はなかったという。同社は具体数については伏せたものの、ニュースレターの月間登録者数は76%、月間閲覧数は150%増加した。

この増加のベースとなる人数は少ないが、広告主がそれを気にする様子はない。

「相手は富裕層のオーディエンスなので、リーチの対象数は少ない。超富裕層のような、1回で数十万円の購入につながるオーディエンスが獲得できれば、それで十分と考えている」と、ステファニーニ氏は語る。「ヴォーグ(Vogue)がファッション業界のバイブルだとすれば、ハウ・トゥ・スペンド・イットは富裕層のバイブルなのだ」。

Lucinda Southern(原文 / 訳:SI Japan)
Image: Courtesy of How To Spend It.

 

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