PR に注目しはじめた、 D2C ブランドたちの新たな課題:ペイドマーケティングのコスト上昇

DIGIDAY[日本版] / 2019年8月13日 11時50分

寝具ブランドのパラシュート(Parachute)は2019年1月、独自のマットレスを考案した。だが、その頃にはもうこのカテゴリは、新しいブランドが割って入ろうとしても、ライバルが多すぎるオンラインセグメントのひとつとなっていた。そのため、創業者のアリアル・カイエ氏は、この企画を開始するにあたり、ペイドメディアマーケティングの利用を完全にやめる決断をした。

マットレスのような、競合の多い製品カテゴリにおいて、ペイドメディアマーケティングは高すぎると彼女は言う。

その代わりに、パラシュートはプレスやインフルエンサー、口コミを利用して新製品のマーケティングを行っている。

パラシュートは、2014年の設立以来、PR会社であるジェニファー・ベット・コミュニケーション(Jennifer Bett Communications)と協業し、編集者やインフルエンサーの力を借りて製品の販促を行い、その結果、多くの記事が執筆され、同社のマットレスを試しに利用した顧客からオーガニックなインスタグラムストーリー(Instagram Stories)が投稿された。同社はまた、製品の発表にあたり、プレスやほかの協業ブランドとともに、同社のロサンゼルス店において新製品発表イベントを開催した。パラシュートの目標は、ツインサイズで1300ドル(約13万8000円)からの高価なマットレスを差別化することにある。このカテゴリは、さまざまな種類の寝具セットがたくさん販売されたことで、オンライン広告では差別化が不可能になってきていた。カイエ氏は、オーガニックマーケティングを推し進めた結果、得られたカバレッジとマットレスの売上(同社は具体的な売上高に触れることは控えた)は、予想を超えるものだったと語る。

同ブランドによると、同社がアーンドメディアを介して得たのと同等のインプレッションをひと月で得ようと思えば、Facebookでは200万ドル(約2億1779万円)が必要だっただろうということだ。この数字は、同ブランドが同じ時間枠内でPRや商品提供(ギフティング)に費やした金額、つまり、2万ドル(約217万円)の100倍の数字だ。

「資金の収支について検討した場合、アーンドメディアは費用面でより効果的だ。比較した場合、エージェンシーに1年間に支払う合計額は、Facebookに1カ月に支払うことになる額よりも大幅に少なくなる」と、カイエ氏は言う。「さらに、Facebookで同じだけの結果を得るにはより多く資金を投じる必要があるのに対し、PRは、利益を生み続けるギフトだ。検索ができる限り続き、SEOの面でも役立ち、自社独自の戦略を打ち出せる。創業当初から、ブランドに関してストーリーを語り、物語を作り上げることはマーケティングの面で計り知れないほどに大切なことだと強く信じてきた」。

昨年に創業したほかのD2Cブランドは、雑音に惑わされず、広告費用が高いFacebookを避け、新製品に第三者による信用を付与するために、口コミやPRのようなマーケティング戦略に頼るようになってきている。6月に開店することになっていたD2Cアペリティフブランドのハウス(Haus)のローンチ前、創業者であるヘレナ・プライス・ハンブレヒト氏は、数週間以内に発売予定の製品については具体的には触れずに、自身のミディアム(Medium)ブログに、アルコール飲料の新しい飲み方について、面白おかしく語る投稿をアップして関心を集め、新製品の予約顧客数は6000人に達した。5月には、カンナビジオール(CBD)入り炭酸水のリセス(Recess)の創業者であるベン・ウィット氏が、同社はペイドメディアマーケティングには一切資金を投じていない、とツイートした(FacebookやGoogleはCBD入り製品に対する有料広告を制限しているが、ほかのブランドは、曖昧な言葉遣いを使用したり、製品ではなくコンテンツであるとして販売促進を行うなど、これをうまく回避している)。

アーンドメディアはタダではない。ハウスとリセスはどちらもJBCやジンレーン(Gin Lane)のクライアントだ。ジンレーンは、多数のD2Cブランドの最新のブランディングを支援するクリエイティブエージェンシーであり、近しい筋によると、そのサービスは決して安くはなく、50万ドル(約5440万円)にも達するという。しかし、ブランド創設者たちは、ローンチ時には目立つブランディングと、たくさんのPR戦略をいよいよ優先するようになっている。これによって、消費者が過去にスクロールすることを条件としている、インスタグラムブランドとは一線を画し、ますます懐疑的になっているのだ。こうした要望に対し、JBCやデリス(Derris)、エイジオン(Azione)をはじめとするPR企業は、これらのブランドへ魅力をアピールするために、クライアントとの協業方法を考え直している。具体的には、事業戦略やデータ戦略の売り込みを新しい角度から提案したり、PR企業独自のパフォーマンスデータを大いに活用してもらったり、マーケティングの検討時により優位な立場に立てるように指導したり、新しいブランドの創業者を助けることに焦点を置いたソートリーダーシップなどの新しい行動方針に基づいてチームを構築させたりしている。

「過去5年間は、ブランドはFacebookやGoogleのペイドメディアマーケティングに大きく依存し、それによって正確なターゲティングができた。これは、良い広告費用投資だったが、これにより、マーケティングファネルで上位に入ることが急務であると考えることにつながった。しかし、これは、得意客を獲得する方法としては効果の薄い方法だった」と、D2Cマーケティング会社であるペトリ・グロース(Petri Growth)の創業者である、マルコ・マランディス氏は言う。「振子が揺れ戻ってきている。顧客は信用できるのはどこかを知りたいと考えている。顧客は、これらのオンラインストアブランドの違いを見分けることはできない。カテゴリが明確になり、飽和状態となり、いまでは、注目を浴びる唯一の方法が、アーンドメディアとなった」。

ハロー効果

D2Cブランドカテゴリが成熟するにつれて、一般的な配信戦略が「オンラインのみ」での配信から「より広く包括的な内容」へと進化し、顧客の存在するところへの配信が特に優先されるようになってきた。同じような変化が、マーケティングの前線でも起こっている。ブランドによる投資にかかわらず、デジタルチャネルの効果は徐々に小さくなってきたため、新たにとられた方針が、プレスやインフルエンサーギフティング、創業者による話題づくり促進のツイートなどの利用だ。その目標は、新製品を顧客の意識に刷り込むことにある。パフォーマンスマーケティングが、インスタグラムやFacebook、Googleやほかのプラットフォームでは重要な役割を果たしているが、オーガニックなメディアによる下支えがなければ、そのような手法に慣れてしまった顧客にはあまり効果を持たなくなるだろう。

「我々は、アーンドメディアを促進するようにマーケティング戦略を策定した。コンテンツマーケティングや経験価値マーケティング、リセスのIRLポップアップショップ、そして、ブランドの認知度を向上させるためのイベントやコラボレーションを実施してきた」と、ウィット氏は言う。「顧客にとっては、感じ取るものだ。顧客にブランドについて知ってもらい、検索をしてもらいたいと考えている。そういったことが起こった」。

ヴィット氏は、組織的にeコマースを促進することにより、デジタル収益を40倍(同ブランドは具体的な収益の数字については公開していない)に増加させることができ、さらに、リセスはリテールストアを出店できるようになった(リセスはニューヨーク市において約2000店舗の既存リテールパートナー店を有している)という。

「我々は初期段階のマーケティングの全投資額をJBCに支出したブランドだ」と、創業者のジェニファー・ベット氏は言う。「ペイドメディアでは、適切なストーリーを語れない。製品主体だ。ブランドを知ってから動き出す。アーンドメディアでは、顧客の記憶に残る内容の濃いストーリーを語ることができる」。

メディアランドスケープの進化に伴い、PR会社はブランドへのメンションツイートを盛り込んでストーリーの充実度を一層高め、どのような媒体がブランドに適合するかを再考する機会が増えている。それらのネットワーク的な関係が構築されれば、たとえ創業者がジャーナリストや編集者に直接売り込めるこれまでにないほどの権限を持つようになったとしても、PR会社は不可欠な存在となる。編集者にはしばしばインスタグラムのオーディエンス数に匹敵する多くの声がかかる。一方で、ブランドのデータマーケティング戦略となるストーリーを業界誌仕様に作り上げ、その同日にギフトガイド用のライフスタイル誌に掲載する製品のアイデアを提供する経験を持っていると認識されているPR会社は、資金を投じる価値のある企業だと見なされる。あるブランド創業者は、関係性に配慮し、匿名にすることを条件に、直近の製品発表まで導いてくれた、今回利用したPR会社と関係を切ることを検討した。しかし同社は結局、重要な転換点で貴重なアーンドメディアを利用するチャンスを逃すべきでないという結論に達したと述べた。

ブランドが最終的にPRを社内で行うようにすることにせよ、外部の企業に加えて少なくとも社内にコミュニケーションチームを設置するにせよ、能力を持ったチームを持つことによってネットワークの効果を高めることは、極めて重要な競争力のアドバンテージとなる。

「私たちはこれをスマートユビキュイティと呼んでいる。非常に優れたブランドは、一度にオンラインとオフラインの至るところに進出する機会を持つ」と、コミュニケーションエージェンシーであるデリス(Derris)の創業者、ジェシー・デリス氏は言う。「ストーリーを語ることを快く思っており、チャネルを問わず、組織的にストーリーを語っている。あらゆるところに存在しているように感じることが、衝撃的な理由だ」。

参入障壁が低く

つまり、プレスを肯定的に捉えることだけが、ほかと関わりを持たずに、このカテゴリで勝利する戦略として効果的ではない、ということだ。編集者は、新しい話題や新たな視点も扱う必要がある。インフルエンサーは、間もなく、製品の売り出しのための契約で資金を得られるようになるだろう。しかし、アーンドメディアには選択肢が多くある。ウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)の強みは、ブランドが宣伝しようと思えば、Facebook上でも宣伝してもらうことができ、こうすることで差別化を図り、ほかの競合他社により信用を保証してもらえることにある。

「顧客が、どこでもパラシュートを見かけるね、と言うようになれば、ブランドが、そこここに溢れ、忘れられないものとなっていることを意味する。それは、まさに大勝利だ」と、カイエ氏は言う。

製品を実店舗で販売する障壁は、一時は崩壊寸前までに低くなっていたが、また低くなってきた。マットレスのカテゴリを再度例にとってみよう。有料のデジタルマーケティングや安価な製造コストが相まって、数多くのD2Cブランドが誕生することにつながり、オンラインで良質なマットレスを選ぶプロセスでも、これらのブランドが破壊しようとした実店舗の購買体験と同程度に多様な製品を選ぶことができるようになったのだ。

「参入の障壁が低くなると、マーケティングの仕組みにより高い精巧さが求められるようになる。誰かに適したものができても、あらゆる人にもはや適さない場合がある」と、マランディス氏は言う。「マットレスを販売している企業が1社なら、口コミから得られる恩恵だけで問題ないだろうが、マットレスを販売している企業が100社もある場合、口コミではかなり難しくなる。製品の品質が二の次になるところまで来た。重要なのは、この入札合戦に誰が勝利できるかということだ」。

アーンドメディア戦略は、D2C進出のためのバウチャー(金券)ともいえるものになっている。そしてそれは、あらゆるもののなかでもっとも重要な、ブランドの栄光(ハロー)でなのである。つまり、製品が話題に上るほど売れるようにする一方で、ブランドはマーケティング戦略に全力を挙げて取り組む必要があるということだ。

「どこも騒がしい。ペイドメディアは確実だ、アーンドメディアも良いようだ、などと聞く。これは基本からの大変革だ」と、デリス氏は言う。「ますます参入企業が増えているので、重要なのは目立つことだ。本物だと感じられ、適切なときに適切な場所から現れる必要がある。目立つためには、たくさんのことをする必要がある」。

Hilary Milnes(原文 / 訳:Conyac)

 

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