eコマースブームで盛り上がる、オルタナティブな資金調達:「創業者のためになるサービスを」

DIGIDAY[日本版] / 2020年10月23日 16時50分

コロナ禍によるeコマースブームが起きているいま、オルタティブな融資業者たちは、それをさらに後押しするような融資を積極的に行っている。

トロントを拠点とする、2015年創業の新興ベンチャーキャピタル、クリアバンク(Clearbanc)。同社における創業からの累計融資先は、昨年末の時点で約2000社だった。しかし、現在の累計融資先は3300社、金額にして10億ドル(約1050億円)以上に及ぶという。さらに、クリスマスシーズンに向けて在庫を増やそうとしている企業向けに、新たな融資形式も進めている。また、Shopify(ショッピファイ)も融資サービスのShopify Capital(ショッピファイ・キャピタル)を展開。同サービスは第2四半期で、米国、英国、カナダのeコマース事業者に1億5300万ドル(約160億円)の融資を行っている。これは昨年同期比65%増だ。

さまざまな調査から、新型コロナウイルスのパンデミック終息後も、小売業界におけるeコマースの割合は増え続けると考えられている。オルタナティブな融資業者は、eコマース界隈における資金調達の需要が、これまで以上に増加すると予測しているのだ。

彼らはほかのベンチャーキャピタルとは違い、融資先の株式を取得しない。そのため「創業者に優しい」融資という謳い文句を好む。さらに従来の融資と異なり、利子もつかないという。その代わりこうした業者は、融資額に加えて一定額の手数料を請求する。この手数料は、返済が完了するまで融資先の収益から引かれていくという。

また、彼らは収益状況だけでなく、経費といったさまざまなデータを収集した上で融資額を決定する。企業のなかには、承認さえ得られれば銀行融資の方がシンプルで手数料も低いため、従来の方法を好む企業も存在するという。

創業者にとってのリスクを軽減する

eコマースの盛況に沸く企業は、増大する需要を支えるため、かなりの融資を必要としている。商品を販売するにも、在庫を用意するために数万ドル(数百万円)の資金が必要なケースがあるからだ。イースト・フォーク・ポッタリー(East Fork Pottery)は、予約販売で商品を展開することで、こうしたコストを抑えている。また、需要の予測もある程度可能になるという。しかし、同社の予約販売が開始するのは通常3カ月前だ。すべての消費者が我慢できるとは限らない。

こうした課題に対応すべく、オルタナティブな融資業者は、初期コストを調達するための手段を提供している。たとえばクリアバンクは、10月第2週、同社がサプライヤーから直接企業の在庫を購入する、新しい従量課金型サービスを展開するため、合計10億ドル(約1050億円)の資金を用意すると発表した。なお、この新しいサービスに興味を持つ企業は、クリアバンクに3PL(Third Party Logistics)の管理ソフトウェアへの閲覧権限を与えなければならない。

このサービスを活用すれば、企業は融資を受けた在庫が売れたときに、クリアバンクに返済を行えば良い。たとえば、家庭用品ブランドが新たなベッドシーツの販売にあたって、クリアバンクから融資を受けた場合、このベッドシーツが売れる度に、クリアバンクに返済を行う。そして、すべての在庫が売り切れたら、企業はクリアバンクに追加で6%の手数料を支払うという流れだ。

クリアバンクの共同創業者 兼プレジデントのミケーレ・ロマナウ氏によると、今年はクリスマス商戦を前に、例年以上に在庫を多く抱えようとする企業が多いという。そのためクリアバンクは、今回の融資サービスを開始することにしたという。クリアバンクは、これまでも在庫用の融資を続けてきた。しかし当時の仕組みでは、融資の手数料は12.5%に設定されていた。さらに企業は、購入した特定の在庫分だけでなく、会社全体の収益からコンスタントに返済を行う必要があった。

「創業者が抱えるリスクを軽減したかった」とロマナウ氏は語る。

さまざまなテータに基づき融資を判断

クリアバンクのD2C向けサービスにおいて、データ収集は非常に重要な役割を担っている。

同社はウーバー(Uber)ドライバーへの資金提供など、いくつかのビジネスモデルを試したあと、eコマース企業向けの融資サービスを開始した。ロマナウ氏は昨年、米DIGIDAYの姉妹サイト、モダン・リテール(MODERN RETAIL)に対し、「我々は常に、そのときの経済動向に適した銀行のあり方を模索してきた」と語っている。

なお、現在クリアバンクは、1万ドル(約105万円)から1000万ドル(約10億5000万円)までの融資に対応している。同社は融資先に対し、Facebook広告費に関する情報、そして銀行口座や支払い手段といった、さまざまなデータへのアクセスを要求し、そのデータに基づいてどの企業が良い融資先となるかを決定している(クリアバンクは、融資の可否について、こうした企業データのみを参照しているとのことだ)。

先述の通り、融資を受けた企業は融資額に加えて手数料を返済する必要がある。結果的に、企業は収益の1%から20%をクリアバンクに返済していくことになるという(具体的な金額は企業側で選択可能)。

非常に嬉しい存在

一部のスタートアップにとって、この返済システムは非常に嬉しい存在だ。たとえば、アペリティフ(aperitif:食前酒)ブランドのハウス(Haus)は、パンデミック期間における売上伸長を受け、オルタナティブな融資業者を検討することになったという。

同社の共同創業者、ヘレナ・プライス・ハンブレヒト氏は、「我々は当初、ペイドメディアに資金をつぎ込むことはしなかった」と述べている。「しかしパンデミックにより、突如eコマースがこれまで以上に強力なツールとなった。資金を投下することで、パンデミックの期間を乗り切るだけでなく、成長していくことすら可能であると気づいた」。

ハウスは、ペイドメディア活用をはじめとしたマーケティング投資のため、6月にShopify Capitalから融資を受けることを決めた。Shopifyの広報担当によると、2016年にローンチしたShopify Capitalは、これまでに12億ドル(約1260億円)の融資を行っているという。

ハンブレヒト氏はShopify Capitalの利用を決めた理由について、「我々は、すでにShopifyのサービスを活用して、彼らが提供するプロダクトの素晴らしさを体験していた。そのことが懸念を払拭してくれたのだ」と述べる。ハンブレヒト氏は、Shopify Capitalからの具体的な融資額は明かしていないが、「少額ながら、マーケティング予算において重要な額」と語っている。ハンブレヒト氏によると、この融資もあって、今年に入ってから同社の事業は500%以上の成長を記録しているという。

ハウスはこれまで、900万ドル(約9億5000万円)の資金調達を行っており、ハンブレヒト氏は、今後も同社の資金元は、あくまでベンチャーキャピタルがメインになるだろうと語る。しかし、今後はShopify Capitalやクリアブランクなどからの資金調達も視野に入れていくという。

また、Tシャツやマグカップや、教師として働く人向けの商品を販売するライト・スタッフ・チックス(Wright Stuff Chicks)も、クリアバンクの従量課金型サービスを利用している。創業者リサ・ダニガン氏によると、今年の売上は例年の倍近くに上るという。

同社はクリアバンクの融資を活用し、インスタグラムで34万人以上のフォロワーを持つレイダン(Rae Dunn)とコラボ。マグカップを共同制作している。「事前の注文や、顧客からの要望が非常に多かったので、大量の在庫を用意する必要があった」とダニガン氏。「クリアバンクに決めたのは、スムーズに話が進むため」で、実際に数日で資金調達は完了したという。

躊躇する企業も

しかし、誰もがこれらのオルタナティブな融資業者を歓迎しているわけではない。創業3年のeコマースホールディングカンパニー、SDDCグッズ(SDDC Goods)の共同創業者コール・サウス氏は、今年初めにクリアバンクやShopify Capital、さらにはFlexport Capital(フレックス・ポート・キャピタル)やBrex(ブレックス)などのオルタナティブな融資業者を検討したと述べる。

同氏はクリアバンクに関して、「どう返済を行うのか、はっきり説明するのが難しかった」ため、そしてShopify Capitalでは手数料が高すぎると感じたため、利用しなかったという。Shopifyの広報担当に手数料について尋ねたところ、具体的な金額については明かさなかったが、「過去の売上や販売予想など、各社のパフォーマンスを見た上でニーズに合った資金調達を行う」との回答があった。サウス氏は、最終的にモルガン・チェース銀行から数億ドル(数百億円)規模の融資を受けた。

「従来の金融機関の融資が、実はこんなに簡単に受けられることに驚いた」と同氏は振り返る。「私は、心情的にはスタートアップに肩入れしたい。しかし正直、事業に不可欠なものすべてをスタートアップ1社のサービスに委ねるのは躊躇してしまう」。

eコマースを支えるサービス構築を

この7月eマーケター(eMarketer)は、eコマースの売上高は年末までに、北米で18.1%、世界全体で16.5%の成長を遂げると予測している。そんななか、国際展開を見据えるオルタナティブな融資業者は少なくない。現に、クリアバンクもShopify Capitalも、英国に進出している。

eコマース企業をターゲットとし、信頼されるようなサービスを提供しようとする、こうした融資業者の勢いは強まる一方だ。たとえば、クリアバンクは今年のはじめ、自分たちの企業価値がわかる、収支やコスト分析ツールを開発・提供している。同社のこのツールは、過去の内外における取引データをもとに、AIで分析を行うという。なお、同ツールは無料で利用できる。

ロマナウ氏は、スタートアップ向けに融資だけでなく、コンサルティングにも進出することで、他社との差別化を図りたいと述べる。「創業者のためになるサービスを常に模索していきたい」。

[原文:‘Making life easier for founders’ Alternative lenders are trying to fund the coronavirus DTC boom]

KRISTINA MONLLOS(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)

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