「HRはあくまで会社のためにある。 D&I もほぼ同様だ」:多様性問題に取り組む、あるストラテジストの本音

DIGIDAY[日本版] / 2020年10月27日 16時50分

2020年、米広告業界では人種差別的姿勢の見直しが話題となっているが、過去40年の動向を見るかぎり、それが起きる気配はないに等しい。1978年、米広告業界の労働者に占める黒人の割合は5%だった。それから実に40年後の現在、4A’s[米国芸能人連合]によれば、黒人のそれは依然6%に留まっている。

だからこそ、あるクリエイティブストラテジストは人種差別を理由にエージェンシーネットワークの提訴を決意し、人々にも声を上げることを求めている。匿名性を保証する代わりに本音を語ってもらうDIGIDAYの告白シリーズ。今回はそのクリエイティブストラテジストに、集団訴訟以外に選択肢がなかった理由について話をうかがった。

なお、発言は多少編集し、短くまとめてある。

――エージェンシーを相手に集団訴訟を起こした理由は?

最初に断っておくが、訴える相手は特定のエージェンシーではなく、エージェンシーの一団だ。何十年も前から、聞こえてくるのは「善処する」という口約束ばかりで、実際には何も変わっていない。4A’sによれば、1978年、黒人の米人口比率は13%、米広告業界に占める割合は5%だった。40年後の現在は、6%。このペースで行くと、黒人が平等に扱われるのは2300年ということになる。それは、到底受け入れられない。しかし、大手広告ネットワークのどこを見ても、変化の波は起きていない。この「自由の地」で、今後もこんなことがまかり通るなんてことは、絶対に許されない。もはや、行動を起こすしかない。

――1999年、コカ・コーラ社(Coca-Cola)は従業員から人種差別を理由に集団訴訟を起こされた。1年後、同社は和解金として1億5,600万ドル以上を支払い、マイノリティおよび女性従業員の賃金/昇進に関する大幅な改善を約束した。今回の集団訴訟が、エージェンシーの一団にそれと同様の譲歩を強いることを期待している?

もちろんだ。コカ・コーラ社がしたように、この業界も変わることを願う。ただそれには、業界の白人に権力を手放すことを強いる、外からの圧力が必要となる。歴史が証明しているとおり、権力者は要求を突きつけられないかぎり、何も手放さない。真の変化には、現状を揺り動かす触媒が欠かせない。強力な抗議運動が南アフリカのアパルトヘイト廃絶に寄与したように、そして、米ワシントンのNFLチームが今年になってようやく、[「レッドスキンズ」という]人種差別的名称を改め、「ワシントン・フットボールチーム」に[暫定的に]改名したようにだ。

――つまり、自分も差別の被害者だと感じている人々には、あなたの後に付いてきて欲しいと?

そのとおり。広告業界から差別を受けてきた黒人クリエイティブ全員に向かって、正義のために立ち上がり、声を上げるよう呼びかけている。自分たちのためだけでなく、未来の世代のためにも、そうして欲しいと。正義の先送りは正義の否定にほかならないし、待つという選択肢はもはやない。これまでたくさんの涙を目にし、たくさんの不満と憤りを耳にしてきた。いまこそ、数少ない勇気ある者たちが一歩前に踏み出し、自らの言葉で語るべきなんだ。そうすれば、権力に真実を伝え、皆に正義をもたらすことができる。

――あなたの身元がわからない程度で構わないのだが、これまで受けてきた差別を具体的に。

広告業界に入って12年、これまで3つの大陸で仕事をしてきたが、黒人クリエイティブにとって、人種というものがこんなにも頑強な障害になると知ったのは、アメリカに来てからだ。アメリカで最初に就職したエージェンシーでは、働きはじめてすぐに、自分は歓迎されていないのだと思い知らされた。まさに初日から、同僚たちは明らかに私を怖がっていた。私は避けられ、重要な案件を任せてもらえず、基本的につまはじきにされた。そして、それは私だけではない、ということも間もなく知った。米広告業界の黒人は皆、ありとあらゆる酷い扱いを受けているのだと。

たとえば、人種差別的な発言や社会的孤立といった、いわゆるマイクロアグレッション[日常の何気ない言動などに現れる、偏見に基づく見下しや侮辱]の数々から、厳格きわまりないNDA[秘密保持契約]への署名の強要や、昇進の不当な見送り、そして正当な理由のない、単に解雇を目的とした業績改善計画への強制参加という名の制裁に至るまで、例を挙げればきりがない。

――勤務先のHRチーム[人事部]にかけ合ったことは?

ひとつ、はっきりさせておこう。HRはあくまで会社のためにある。さらに、D&I[ダイバーシティ&インクルージョン]部門の人間も大半は同じようなもので、社の世間体を取り繕うのに忙しい。カンファレンスに行き、業界の公開討論会に出て、変革を訴えはするが、その裏で会社の[マイノリティ雇用]人数隠しに加担している。大手はどこも、なおざりにされ、憤りを露わにしている少数の気持をなだめるためだけに彼らを雇用し、いかにも理解があるフリをしている。しかし、そういう人々はこの業界のごく一部でしかないし、それでは全黒人のための構造的変化を起こせるはずもなく、実際に起こせていない。[雇用]人数を見れば、それは明らかだ。

いやもちろん、彼らとじかに話そうと試みはしたが、大半からは何の回答もなかった。話し合いを続けようと言ってきたところもあるにはあったが、会話は中身のない、薄っぺらなものだった。となればもう、行動を起こす以外にない。実際、これは私に限った話ではない。大半の有色人種が、いまこそ語るべき、不快極まりない体験談を持っている。彼らが口を開けば、D&I担当者が会社の直面している現実問題からいかにかけ離れているのか、明らかになるはずだ。[ケンタッキー州で白人警官に不当に射殺された黒人女性]ブリオナ・テイラー氏と[同州初の黒人司法長官でありながら、正当防衛を認められた白人警官を訴追できない旨の発言をした]ダニエル・キャメロン氏の一件でも明らかなとおり、肌の色は同じでも、考え方まで同じとは限らない。

――この問題は業界のPR活動的にくり返し取り沙汰されているが、変革は遅々として進んでいない。そんななか、具体的な変化を起こすには何が必要だと?

エージェンシーが問題をそれこそ1000万個単位で抱え、経営が立ちゆかなくなる寸前まで行くか、あるいは従業員構成にダイバーシティを欠くエージェンシーを、クライアントがそれを理由に進んで切り捨てるようにでもならないかぎり、無理だろう。真の変化が起きる状況は、それ以外に考えられない。今後数週間のうちに、#blacktalentpullupというキャンペーンが実施される。これは、米広告業界内での人種差別体験を黒人が語る場となる。個人名は非公開だが、これで[米広告産業の中心地として知られる、ニューヨーク]マディソン街ではいまだに人種差別主義が健在であることを、アメリカ市民に広く知らしめられるはずだ。

――他文化の横領があれほど上手いエージェンシーが、その同じ文化に敬意を払うのがこれほど苦手な理由は?

黒人文化は売れるからだ、それに尽きる。タコスは好きだが、メキシコ人は大嫌いだという人もいれば、「ヒップホップの雰囲気」は気に入っているが、黒人は気に食わないという人もいる。黒人アスリートの一件も同じだ。フィールドやコート、スタジアムで活躍している分には構わないし、称賛を贈るのも厭わないが、彼らが自身の生活のために、そして子どもたちの生活のために膝を付いて抗議をした途端、激怒する人もいる。黒人が差し出すものは喜んで受け取るくせに、黒人に主導権を与えそうな状況になると、態度を一変させ、喜ばしくない姿勢を見せる。

だからこそこの業界でも、白人男性のみのチームが黒人オーディエンスに向けた広告を作り、黒人消費者からそっぽを向かれる、という事態が起きる。彼らは[事前に収集済の]二次データを利用すれば、黒人オーディエンスに効果的な戦略を立てられると思い込んでいるが、黒人の誰もが、黒人がダンスをしたり、歌ったり、抗議をしたりしている広告を見たいわけじゃない。解決策は、能力のある黒人クリエイティブを戦略会議のなかに入れ、制作チームに加えること。簡単な話なのだが、それができていない。広告業界はクライアントと消費者のために正しいことをするべきであり、いまこそ、そうさせるべきなんだ。

[原文:‘Real change will happen when there’s an eight-figure problem for agencies’ Confessions of a creative strategist on taking action on diversity issue]

SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:長田真)

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