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社員の絆を深める「ハッピーアワー」が、米国で風前の灯:背景にはコロナ禍

DIGIDAY[日本版] / 2021年10月19日 13時50分

コロナ禍が一時停止したもののは、数多くある。そのリストに新たに加わったひとつが、ハッピーアワーだ。

仕事終わり、同僚と軽く1〜2杯飲むのは、米企業の定番的慣習になって久しく、広告エージェンシーやクリエイティブ系企業では、オフィス内にバーまで備え、そこで同僚と打ち解け、仲間意識を育み、一日の疲れを解消することを奨励しているケースが多く見られていた。しかしコロナ禍が長期化し、そのストレスからアルコールに頼る従業員の増加が懸念されるなか、飲みと仕事の場をひとつにするという試みを見直す企業が増えている。

「我々は、何に関してもほどほどなら許容する姿勢をモットーにしているた。しかし、アルコールに関しては別で、グラスはこのところいつも空にしてある」。こう語るのは、ニューヨークを拠点にするデジタルメディアブランド/クリエイティブエージェンシー、Convicts(コンヴィクツ)のマネージングディレクター、アリ・コンフォード氏だ。LVMHやインスタグラムを顧客に持つ同社は、対面でのコミュニケーションに代わる、バーチャルな場を設けており、それがニューヨークからオーストラリアまでさまざまな都市に分散するチームメンバーの結束力強化に役立っているという。「私たちの場合、最近は『酒を酌み交わす』よりも、世界中で働く仲間たちとこうして楽しく話をすることで、結束力を高めている」。

「カクテル文化は、コロナ禍の前から死につつあった……それが、私の見る限りだが、コロナ禍で完全に息絶えた」と、ディズニー(Disney)や、米パルプ/製紙大手ジョージア・パシフィック(Georgia-Pacific)といった大企業とも仕事をしている、ダラスを拠点とするWebデザイン会社、Pixoul(ピクソウル)のCEO、デヴォン・ファタ氏は述べる。リモートワークの機会が増え、バーにおける飲酒の健康リスクや、アルコールを飲まない人への配慮の必要性が叫ばれるなか、少なくとも同氏の仕事仲間や関係者はもう、最近はほとんどアルコールを飲んでいないという。「私の場合、業務に欠かせない人付き合いやネットワーク作りは、いまはほとんどオンラインで、大抵はグループチャットで行なっている」。

「理想的な関係にはない」

ジャーナリストのヒラリー・シャインバウム氏は、禁/節酒を勧める著書、『The Dry Challenge: How to Lose the Booze for Dry January, Sober October, and Any Other Alcohol-Free Month』のなかで、アルコールと仕事が、理想的な関係にはないことを示す理由を挙げ連ねている。

アメリカ疾病予防管理センター(CDC)はたとえば、過度のアルコール摂取が企業、および納税者に年間2500億ドル(約27兆5000億円)近くもの支出を強いていると発表した。職場における心理衛生の研究機関(The Center for Workplace Mental Health)は、社員の年齢構成から従業員のアルコール摂取が、最終損益におよぼす影響を見積もる指標、アルコール・コスト・カリキュレーター(Alcohol Cost Calculator)まで導入している。

「企業は、飲まない/飲めない人たちも気軽に参加できる形で、社員のコミュニケーションを促進し、彼らの絆を深めるべきだ」と、シャインバウム氏は指摘している。「お酒が好きではない人は大勢いる。宗教の戒律、病気や怪我からの回復期、妊娠、禁酒月間、健康面の懸念など、さまざまな理由で飲まない人も多い」。

コロナ禍で依存症が増加傾向

ロサンゼルスで禁/断酒に関する援助相談を提供する機関、Ethos Recovery(イーソス・リカヴァリー)の創設者であるクリス・ハワード氏が指摘するとおり、仕事終わりの何気ない1杯が深刻な問題に繋がる恐れもある。コロナ禍という現実からの逃避手段として、アルコールに向かう人が増えている昨今は、特にそうだ。「個人的には、一日の終わりに同僚とたまに軽く飲むのが悪いことだとは思わない。しかし事実として、コロナ禍前は問題を抱えていなかったのに、心の平安を保とうとして酒に頼り、その結果、依存症の治療を受けるしかなくなった人を、私は数多く診てきた」と同氏は語り、コロナ渦中、ドラッグ、およびアルコール依存者が著しく増加しており、この傾向は通勤の再開以降も続くだろう、といい添える。

こうした問題を解決を目指すうえで、雇用主は重要な役割を担っている。「コロナ禍がもたらした諸々の課題への理解は、企業がより健康的なライフスタイルの選択肢を形作る一助になりうる」とハワード氏は説明する。健全な交流の促進を目的として、飲酒を中心とした企業文化を創造するのは、「正直、矛盾しているといわざるをえない。現在の社会には、人々の不安を生む多くの要素があり、それはごく些細な出来事や事態においても起きている。だからこそ、飲酒の奨励は人々がコロナ禍直後の状況に対処するための効果的な手段とは思えない」。

さらに、経営者たちは、雇用主としての責任を負っている。飲酒と職場の関係は「雇用主にとって、以前からいわば地雷原のようなものであったし、コロナ禍のせいで、責任問題の新たな源も生じている――感染拡大を引き起こす、いわゆるスーパースプレッダーハッピーアワーもそのひとつだ」と、ニュージャージー州リンクロフトで雇用関係専門の法律事務所クルーガー・ヒーリー(Kluger Healey)を経営するマーク・クルーガー氏は指摘する。「人々は社会活動をはやく再開したい、オフィスにはやく戻りたいと思っている。また雇用主も、チームをはやく再建し、共通意識を復活させたいと願っているのも理解できる」と氏は認める。しかし一方、その際、雇用主にはハッピーアワーや祝祭日のパーティといった、アルコールを伴う集まりではなく、たとえばボーリングやハチェット(斧)投げ遊びといったイベントを推奨すると、付け加える。

実際、ハッピーアワーを継続する企業でさえ、摂取量に制限を課すようになっている。たとえば、ニューオーリンズが拠点のデジタルマーケティングエージェンシー、Online Optimism(オンライン・オプティミズム)は今夏、地元のバーテンダーを社に招き、ティキ・ナイト(Tiki Night)やマルディグラ(Mardi Gras)といったテーマに即したドリンク作りを、スタッフに手ほどきするイベントを複数回開いた。ただし、カクテルは前半の1時間に振る舞い、1人が飲めるのは2杯までというルールを定めた。また、後半1時間はゲームを行ない、皆が車で安全に帰れるように取り計らっている。さらに、アルコールを飲まない人には、ノンアルコールカクテルを用意した。

適切な管理が求められる

こうしたイベントは以前と同様、適切に管理すれば、スタッフ同士が「繋がり、ほっと一息つくことで、仕事のストレスを解消する」ための良い方法だと、同社のオペレーションコーディネーター、サラ・バンデュリアン氏は語る。ニューオーリンズ・ダウンタウン・デヴェロプメント・ディストリクト(New Orleans Downtown Development District)やザビエル大学(Xavier University)といったクライアントを有する同社は、コロナ禍中も従業員を新たに数名採用しており、こうした集まりは彼らと打ち解けるための有効手段になっているという。

雇用主らがカクテル文化を見直すなか、アルコール飲料業界自身も慎重な姿勢の重要性を強調しており、ここ数年、消費者に節度を保ったアルコールの楽しみ方を強く推奨するキャンペーンを、くり返し展開している。

ベルヴェデール(Belvedere)やグレンモーレンジィ(Glenmorangie)を有する大手メーカー、モエ・ヘネシー(Moët Hennessy)のVPであるアリソン・ヴァローン氏は、通勤が再開され、同僚との社交が復活する近い将来を踏まえ、マーケティングメッセージを「わきまえた享楽(mindful indulgence)」の促進に変えたと語る。「我々の消費者には、人との交流を再び楽しみ、節度を守る、安全なかたちで社会に戻り、素敵なカクテルを片手に、新たな、有意義な時間を創り出してもらいたい」。

[原文:How the pandemic has been a real a buzz kill for office happy hour bonding, culture]

TONY CASE(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)

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