血管をターゲットに! TGF-β/CD44抑制でがん血行性転移を阻止~がん転移の予防・治療への応用に期待
Digital PR Platform / 2024年12月5日 14時5分
ポイント
・TGF-βシグナル阻害が血管内皮細胞の接着分子CD44を減少させ、がん細胞の生着・転移を阻害することを見つけました。
・がん細胞そのものを標的とするのではなく、転移の過程で重要な血管内皮細胞をターゲットにした治療戦略を提案するものです。
・TGF-β/CD44の抑制により、がんの血行性転移を効果的に防ぐ予防・治療法の開発が期待されます。
■概要
東京薬科大学生命科学部 幹細胞制御学研究室の花田賀子(大学院博士課程3年・日本学術振興会特別研究員DC2)と伊東史子准教授、昭和薬科大学の研究グループが、がん細胞の転移を抑える新しい方法を発見しました。
研究では、体内の健康を保つ重要なシグナルであるTGF-β(トランスフォーミング増殖因子β)*①を、血管内皮細胞*②で阻害しました。その結果、がん細胞が血管内に定着するために必要な接着分子「CD44*③」の発現が減少し、肺へのがん転移を大幅に抑えることに成功しました。通常、TGF-βは傷ついた組織を修復したり細胞の増殖をコントロールしたりする役割を持っています。しかし、がん細胞はこのシグナルを悪用し、転移や浸潤を助ける仕組みを持っています。そのため、TGF-βを標的とする研究が多く進められていますが、本研究ではがん細胞そのものではなく、「転移経路・血管」に着目しました。これにより、がん細胞が転移先の血管に定着しにくくなることを証明しました。
がん転移は治療が非常に難しい課題のひとつです。本研究は、がん細胞そのものを攻撃するのではなく、転移先の血管環境を制御するというユニークなアプローチで、がん治療の新たな未来を切り開く可能性を示しています。
■詳細
背景
がん治療において「転移」は難しい課題の一つであり、患者の生命予後を大きく左右する大きな課題です。特に、がん細胞が血液の流れに乗って別の臓器へ広がる「血行性転移」*④は多くのがん患者にとって深刻な問題となっています。この転移の過程では、がん細胞が転移先臓器に到達すると血管内皮細胞に接着し、その場所で増殖して転移巣を形成します。
今回注目したのは、TGF-βというタンパク質です。TGF-βはがん細胞が自ら産生し、その悪性化を促進することが知られています。しかし、転移経路となる血管に対する役割については、これまで明らかにされていませんでした。
研究内容と成果
今回、研究グループは、血管内皮細胞のTGF-βシグナルを遮断する遺伝子改変マウスを用いて、がんの成長や転移にどのような影響があるかを調べました。
主な発見
1. がんの成長には影響なし
血管内皮細胞のTGF-βシグナルを遮断しても、がんの成長そのものには影響を与えませんでした。
2. 新しく作られた血管が脆弱化
血管のTGF-βシグナルを遮断すると、腫瘍が作る血管が「漏れやすい脆弱な血管」となり、出血が多く発生しました。
3. 血液中のがん細胞は増加
漏れやすい血管のため、がん細胞が血液中に流入する頻度が高まり、循環腫瘍細胞(CTC)が増加しました。
4. 肺への転移が劇的に低下
血液中のがん細胞が増えたにもかかわらず、肺への転移は大幅に減少しました(図1)。この意外な結果の原因を探ったところ、血管内皮細胞におけるTGF-βが接着分子「CD44」の発現を誘導していることを発見しました(図2)。
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