高塩分と低塩分のイカ塩辛の製造過程における代謝産物と細菌群の変化を解明〜伝統的水産発酵食品の風味の特徴を科学的に分析〜--北里大学
Digital PR Platform / 2024年12月25日 20時5分
イカ塩辛は、わが国を代表する伝統的な水産発酵食品の一つです。伝統的な製法で作られたイカ塩辛は高塩分、常温で熟成される風味豊かな水産発酵食品である一方で、現在市場で主に流通するイカ塩辛は低塩分で、製造から輸送まで低温管理されています。北里大学海洋生命科学部の水澤奈々美特任助教、渡部終五客員教授らと、鈴廣かまぼこ株式会社の基礎研究機関「魚肉たんぱく研究所」の植木暢彦所長らの研究グループは、高塩分と低塩分の2種類のイカ塩辛における製造過程中の代謝産物の組成と細菌叢の変化を、メタボローム解析とメタゲノム解析により包括的に調査しました。この成果は、2024年12月23日付で、アメリカ化学会の食品科学技術誌“ACS Food Science & Technology”誌に掲載されました。
■研究成果のポイント
・風味に関する代謝産物の違い
伝統的な高塩分イカ塩辛の製法では、低塩分の製法と比べて、遊離アミノ酸やジペプチド、有機酸などの代謝産物が顕著に増加し、イカ塩辛特有の深い味わいを形成することが示唆されました。
・細菌叢の変化
製造初期は両製法ともにVibrio属やPsychrobacter属の細菌が見られましたが、高塩分の製法では、発酵が進むにつれてStaphylococcus属が優占化していきました。一方、低塩分の製法では、細菌叢の変化はほとんど起こりませんでした。
・現在流通している低塩分の塩辛は、伝統的な高塩分のイカ塩辛とは風味に関わる成分の組成や細菌叢が大きく異なることが明らかとなりました。
■研究の背景
イカ塩辛は、わが国における代表的な水産発酵食品の一つです。伝統的な塩辛は高塩分であり、通常、12〜15%の高い塩分で作られます。この高塩分処理により、腐敗菌の増殖が抑えられる一方で、Staphylococcus属などの発酵に関わる細菌が増殖することが報告されています。また、内在性のタンパク質分解酵素の作用(自己消化)も進み、遊離アミノ酸や有機酸が増加して独特の風味が形成されると言われています。しかし、近年の健康志向の高まりにより、塩分を控えた食品への需要が増加しています。これを受け、現在、市場で主に流通しているのは低塩分(5%程度)の塩辛となっています。この低塩分のイカ塩辛は塩分が低いことから塩による腐敗菌の抑制が十分でないと考えられ、製造から流通まで冷蔵して管理することが必要とされています。しかし、低温環境では発酵や酵素の活性が抑制されることから、伝統的なイカ塩辛の製法で得られるような豊かな風味が損なわれることが懸念されています。
これまで、伝統的な高塩分イカ塩辛と低塩分イカ塩辛の製造過程中の代謝産物の組成の変化や細菌叢の動態について包括的に比較分析した研究はありませんでした。そこで、本研究では、2種類のイカ塩辛の代謝産物や細菌の変化を解明し、製造方法の違いが風味に及ぼす影響を科学的に明らかにすることを目的としました。
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