<横浜市立大学> 新たな指標「CPR」を用いて重症患者の筋肉の状態を簡単に評価することが可能に!
Digital PR Platform / 2025年1月28日 10時0分
横浜市立大学 大学院医学研究科麻酔科学 山本夏啓医師(博士課程4年、同学附属市民総合医療センター集中治療部助教)、東條健太郎准教授、大学院データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻 水原敬洋教授、京都大学 大学院医学研究科附属がん免疫総合研究センター 杉浦悠毅特定准教授らの研究グループは、体内のクレアチニン(筋肉内のエネルギー代謝に関わるクレアチン/レアチンリン酸の代謝産物)産生速度が、集中治療を要する重症患者の筋肉の状態をモニターするための、総合的な指標になることを明らかにしました。
本研究成果は、集中治療領域の主要国際誌である『Critical Care』に掲載されました(1月14日付オンライン)。
研究成果のポイント
新たな指標「CPR」(クレアチニン産生速度)が筋肉の量のみならず、筋肉の組成や代謝状態を総合した指標になることを明らかにした。
集中治療室(ICU)入室時のCPRが低い場合や、ICU滞在中にCPRが低下する場合は1年生存率が悪化することが明らかとなり、臨床的に有用な指標であることが示された。
CPRを用いて筋肉の状態をモニターすることで、個々の重症患者に最適な治療法を提供できるようになることが期待される。
[画像1]https://digitalpr.jp/simg/1706/102938/600_207_2025012413491067931bc68110c.jpg
図 研究の概要
研究背景
重症患者では、筋肉の「量」や「質」が患者さんの生存率や回復に大きな影響を与えることが分かっています。筋肉量や筋力が低下する「サルコペニア」と呼ばれる状態は、予後の悪化につながります。また、重症状態では急激な筋肉の減少が起こり、それがICUで見られる筋力低下などの問題を引き起こします。さらに、筋肉の「質」も重要で、例えば、重症状態が筋肉内のミトコンドリアの働きを低下させ、生存率を悪化させることが知られています。
このような背景から、ICUでは筋肉の「量」と「質」の両面を評価する指標が求められてきました。この指標を活用することで、筋肉の減少や機能低下を防ぐための栄養療法やリハビリテーションを効果的に最適化することが期待されています。
研究内容
本研究では、「クレアチニン産生速度(CPR)」が、筋肉の「量」と「質」を総合的に評価できる指標であることを明らかにしました。
クレアチニンは筋肉に蓄えられたクレアチンやクレアチンリン酸から生成され、主に腎臓から尿中に排泄されます。このため、クレアチニンは腎機能を評価する指標として、広く一般的に活用されています。一方で、クレアチン/クレアチンリン酸の蓄積量は筋肉量と相関するため、CPRは全身の筋肉量を反映する指標であると考えられていました。さらにそれだけでなく、クレアチン・クレアチンリン酸は筋肉内のエネルギー代謝に関わる物質であり、CPRは筋肉の質的な組成や代謝の状態とも関連している可能性がありました。これらを踏まえ、本研究ではCPRが筋肉の「量」と「質」を統合的に評価できるという仮説を立てて研究を行いました。
研究チームは、動物実験を通じて、CPRが筋肉量だけでなく、筋肉の組成やエネルギー代謝の状態とも関連していることを確認しました。また、重症疾患を再現した動物モデルで、筋肉のエネルギー代謝機能の低下が起こり、筋肉量が減少しなくてもCPRが低下することを、細胞外フラックスアナライザー*1やメタボローム解析*2を用いて明らかにしました(図左)。
さらに、ICUに入室した重症患者を対象にした解析では、患者さんの体格と血液および24時間分の尿(蓄尿)中のクレアチニン濃度を用いて、体内のクレアチニン量をモデリングすることで、CPRの計算を可能にしました。その結果、入室時のCPRが低い場合やICU滞在中にCPRが低下する場合、1年後の生存率が悪化することが確認されました(図右)。このことから、CPRは臨床現場で役立つ指標となる可能性が示されました。
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