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女性非喫煙者の食道がん発症に免疫が関与 -好酸球が多いがんは予後良好-

Digital PR Platform / 2023年12月20日 14時5分


【今後の期待】
日本の食道扁平上皮がんは、男性喫煙者が圧倒的に多いがん腫です。しかしながら、最近、女性非喫煙者の食道扁平上皮がんが増える傾向にあり、その発がん要因や分子学的機序は不明でした。
本研究成果により女性食道がんは免疫学的に活動性の高いがんであることが分かり、予後を規定している可能性を示唆しています。このことから、PD-1阻害薬などの免疫チェックポイント阻害薬の効果が期待できます。また、腫瘍内で好酸球という特定の免疫細胞の活性化が確認されたため、好酸球を標的とした新たな免疫療法の開発につながると期待できます。

【論文情報】
<タイトル>
Immuno-genomic Analysis Reveals Eosinophilic Feature and Favorable Prognosis of Female Non-Smoking Esophageal Squamous Cell Carcinomas
<著者名>
Yuki Okawa†, Shota Sasagawa†(equally contributing), Hiroaki Kato, Todd A. Johnson, Koji Nagaoka, Yukari Kobayashi, Akimasa Hayashi, Takahiro Shibayama, Kazuhiro Maejima, Hiroko Tanaka, Satoru Miyano, Junji Shibahara, Satoshi Nishizuka, Satoshi Hirano, Yasuyuki Seto, Takeshi Iwaya, Kazuhiro Kakimi, Takushi Yasuda, and Hidewaki Nakagawa*
<雑誌>
Cancer Letters
<DOI>
10.1016/j.canlet.2023.216499

【補足説明】
[1]免疫細胞、好酸球
免疫に関わる白血球は、B細胞、T細胞、マクロファージ、好中球、好酸球、好塩基球などの免疫細胞に分類される。B細胞は、異物に対する抗体を産出する。T細胞のうち、CD8+T細胞は腫瘍や感染細胞に直接的に作用する(細胞障害性T細胞)。CD4+T細胞はマクロファージなどから抗原提示を受けると増殖、活性化して、炎症を促すサイトカインを産出し、他の免疫細胞を活性化させる(ヘルパーT細胞)。好酸球は、白血球の約1%を占める顆粒(かりゅう)球であり、寄生虫感染や好酸球性胃腸炎、副鼻腔炎などのアレルギー性疾患との関連が報告されており、強い貪食(どんしょく)能力を持ち、病原体を捕食する。
[2]RNAシークエンス解析、全ゲノムシークエンス解析
個人やがん細胞の全ゲノム情報を解読し、塩基配列の違いや変化を同定することを全ゲノムシークエンス解析という。がん細胞の場合は、がんのDNAと同一患者由来の正常DNAの全ゲノムシーケンス解析を行い、その差分を調べる。RNAも、cDNA(相補的DNA)に変換した後に、RNAのほぼ全長にわたってシークエンス解析ができる。RNAシークエンス解析によって、遺伝子の発現の有無などを調べることができる。
[3]変異シグニチャー、DBS
がん細胞に発生するさまざまな変異は、その要因によって異なるパターンを示す。そのパターンを変異シグニチャーと呼ぶ。がん細胞の変異の一種である塩基置換は、DNAを構成する核酸塩基(A、T、C、G)の化学反応によって起こる。塩基置換のパターンや数は、DNAと反応する遺伝子毒性を持つ発がん物質の暴露と、変異を修復するための細胞内機構の適切な働きの有無によって決定される。喫煙が原因で発症した肺がんや紫外線が原因で発症した悪性黒色腫における塩基置換は、他のがんに比べて10倍以上多く、CがTに置き換わる(その相補としてGがAに置き換わる)パターンが非常に多くなる。現在、国際的には、100個以上のシグニチャーが定義されており、SBS(single base substitution:1塩基置換のパターン)、DBS(double base substitution:2塩基置換のパターン、ID(indel:短い欠失挿入)のパターン)とさらに細分化されている。
[4]単細胞(シングルセル)RNA解析
1細胞ごとのRNA発現を網羅的に検出する解析方法。各細胞に特徴的な遺伝子発現プロファイルをもとに細胞集団を分類し、亜集団に特徴的な発現情報を取得することが可能である。通常のがん組織の(集団の平均値を計測する)RNAシークエンス解析では、大多数のがん細胞の発現情報に埋もれて検出が困難な免疫細胞や希少細胞の発現変化も検出可能である。
[5]腫瘍免疫、免疫チェックポイント阻害剤
腫瘍が生体内で異物として認識され、それを排除するように免疫細胞が反応することを腫瘍免疫という。この仕組みを生かし、がんを攻撃する免疫細胞を活性化させることによってがんの治療を試みる治療法を免疫療法という。免疫チェックポイント阻害剤は、免疫のチェックポイントであるPD-1/PD-L1分子を抗体で抑制することで、腫瘍細胞への免疫抑制を解除し、免疫細胞が腫瘍細胞を排除できるように導く薬剤。
[6]性ホルモン経路
女性ホルモン(エストロゲン)や男性ホルモン(アンドロゲン)は、細胞の細胞質内受容体に結合すると、その複合体は核内移行し、ホルモン応答領域を有する遺伝子の転写制御を行い、特定の遺伝子の発現を増加・減少させる。これによって、男性や女性特異的な細胞の活動が制御されている。
[7]PI3K(ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ)経路
PI3K/AKT/mTOR経路は細胞内シグナル伝達経路で、細胞の増殖やアポトーシス、分化、血管新生、糖代謝など数多くの生物学的プロセスに関与している。この経路の調節不全が、自己免疫疾患、がん、代謝性疾患などの発症と関連付けられている。

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