生きた細胞内で小胞の動きを可視化し、2種類の小胞融合機構を発見
Digital PR Platform / 2024年4月5日 14時0分
マウス胚を包む卵黄嚢の細胞を用いて、細胞内で物質の輸送などを行う小胞を蛍光物質で標識し、これが融合する過程を可視化する技術を開発しました。これにより小胞の融合過程を観察したところ、融合には2つの異なる様式があること、また、その制御に細胞骨格アクチンが関与することを見いだしました。
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研究代表者
筑波大学医学医療系
桝 正幸 教授
富山大学学術研究部工学系
小池 誠一 特命助教
横浜市立大学理学部
立川 正志 准教授
自然科学研究機構生命創成探究センター/生理学研究所
根本 知己 教授
研究の背景
細胞は、外界から栄養物質などを取り込んで利用します。この働きをエンドサイトーシス注1)と呼び、細胞膜が細胞質内に引き込まれて物質を取り込んだり、細胞外液ごと物質を細胞内へ取り込んだりします。取り込まれた物質は、エンドソーム注2)と呼ばれる小さな袋状の構造に包まれて、細胞内小器官注3)へと輸送されます。エンドソームは、取り込んだ物質の仕分けを行い、リソソーム注4)などの細胞内小器官への輸送を担っています。エンドソームなど膜に包まれた袋状の構造(小胞)を介した物質の輸送(小胞輸送注5))は細胞機能の根幹を成すものであり、その仕組みを知ることは細胞を理解するために重要です。小胞輸送の過程で、細胞内小胞は、小胞同士、あるいは他の細胞内小器官と融合しますが、多くの細胞では小胞のサイズが小さいため顕微鏡で個々の融合過程を観察することが難しく、融合を制御する仕組みはよく分かっていませんでした。
研究内容と成果
本研究では、発生の早い時期(胎生8.5日頃)のマウス胚を生きたままの状態で取り出して、エンドソームを標識する蛍光物質を取り込ませた後に、顕微鏡を用いて観察しました。この方法により、マウス胚の一番外側にある卵黄嚢注6)の臓側内胚葉細胞と呼ばれる細胞内でのエンドソームの融合を観察することに成功しました。臓側内胚葉細胞は、胎盤が出来上がる前に、母親の子宮から胚へ多くの栄養分を運ぶ役割があるためにエンドサイトーシスが活発で、細胞内に非常に大きなエンドソームを持つため、観察が容易です。また、臓側内胚葉細胞では、頂端部からエンドサイトーシスによって物質を取り込み、それを細胞内の深い層にあるリソソームで分解し、分解された栄養物質を細胞底部から分泌して胚に届けていることが知られています(図1)。今回開発した手法を用いて臓側内胚葉細胞を観察したところ、後期エンドソームの融合には、エンドソーム同士が融合する「同型融合」注7)と、エンドソームとリソソームが融合する「異型融合」注7)の2種類の融合様式があることを発見しました。同型融合では、2つの後期エンドソームが接触して小孔が形成されると急速にその孔が拡大して1つの小胞になるのに対し、異型融合では、後期エンドソームとリソソームの間に形成された小孔が拡大せず、後期エンドソームがゆっくりとリソソームに吸収されていく様子が観察されました(図2)。力学モデルを用いて小胞が融合する過程の数理解析を行ったところ、主に小胞のサイズが融合様式を決定しており、サイズが小さい場合は同型融合が、大きな場合には異型融合が起こることが分かりました。臓側内胚葉細胞の後期エンドソームは大きく、理論上は異型融合が起こるはずですが、その場合でも膜に細胞骨格やモータータンパク質注8)からの「ゆらぎの力」注9)を作用させると、サイズの効果に打ち勝ち、同型融合を誘導できることも示されました。
さらに、レーザー共焦点顕微鏡を用いて臓側内胚葉細胞の小胞の構造を詳しく調べたところ、後期エンドソームの表面にアクチン注10)と呼ばれる細胞骨格タンパク質が結合しており、後期エンドソームに結合しているアクチンは、細胞の頂端部から底部へ向けて伸びる線維と、後期エンドソームから放射状に周囲に伸びる線維の2種類があることが分かりました(図3)。アクチンは、筋肉細胞でミオシン注11)と共に働き、筋肉の収縮に関わることは知られていますが、筋肉以外の細胞にも存在し、形態形成、細胞分裂、小胞輸送などさまざまな生物現象に関与しています。薬物を用いてアクチンの重合を阻害すると、同型融合の頻度と速度が減少し、高濃度の薬物を作用させると異型融合に似た融合様式になることから、アクチンが同型融合を促進する力を発生させていると考えられました。さまざまなミオシン阻害薬を投与すると同型融合と異型融合の頻度がいずれも減少することから、筋肉以外の細胞で働く種類のミオシンが小胞融合に必要なことが分かりました。さらに、アクチンを切断して重合・脱重合のターンオーバーを促進するタンパク質であるコフィリン注12)の機能を阻害すると同型融合の頻度が減少することから、コフィリンによるアクチン動態の制御が小胞融合に重要だと考えられました。
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