【名古屋大学】ウミウシ?いいえ、ゴカイです 〜ウミウシに擬態する新属新種のゴカイを世界で初めて発見〜
Digital PR Platform / 2024年7月30日 14時5分
今回名古屋大学の自見 講師らが、附属臨海実験所がある三重県の菅島のほか、和歌山県の古座とベトナムの計3地点において調査を進めていたところ、非常に変な形や色をした新属新種のゴカイ「ケショウシリス」を発見しました。
ケショウシリスはウミトサカと呼ばれるサンゴの仲間に共生しているのですが(図1)、宿主であるウミトサカとは全く異なる色彩や形をしており溶け込むどころか目立ってしまっていました。共生性の生物は、その宿主と似たような形や色をすることが多く、通常とは異なり目立つような色彩をもつことは何故なのかが不思議な状況でした。形に関してもケショウシリスの近縁種とは異なり、大きく触手が発達しており、この触手がどのような役割を果たすのか不明でした。
そこで周辺の海域に生息するウミウシを調べていたところ、ケショウシリスに非常に良く似たウミウシの仲間が生息していることが判明しました(図2E)。このウミウシの仲間はミノと呼ばれる部分の先端に毒を溜め込みます。ケショウシリスに特徴的な非常に大きくなった触手は、ウミウシのミノに非常にそっくりです。大きい触手と小さい触手が交互に存在するところや、先端が白くなり先端から少し離れたところが色が濃くなるところが酷似しています。他にもゴカイに特徴的な足の先の毛が体内にしまわれていることで、よりウミウシのような見た目に近づいているように見えます。ケショウシリスのウミウシに似たこれらの形質は、近縁種では見られず、ケショウシリスにおいて獲得されたものであると考えられます。このことから、ケショウシリスにおいてウミウシ擬態が獲得されたということになります。ウミウシに擬態するゴカイは世界で初めての発見です。
ケショウシリスの触手の先端にはウミウシのような毒は存在せず、ケショウシリスは毒のあるウミウシに擬態し、自身も毒があるように外敵に錯覚させることで捕食を免れていると考えられます。このような擬態をベイツ型擬態といいます。また、触手の先端に毒は無くとも、体のどこかに毒がある可能性は残されています。その場合、毒がある生物同士が同じような模様になる、このことをミュラー型擬態といいます。ケショウシリス全身の毒性はまだ調べることができていないので、ミュラー型擬態なのかベイツ型擬態なのかを判断することはできないのですが、いずれにせよ環形動物においては非常に珍しい現象です。
和名であるケショウシリスの「ケショウ」は、色鮮やかであることから「化粧」、ウミウシに擬態することから「化生」の2つの意味をかけて命名しています。学名のCryptochaetosyllis imitatioは、属名は「毛を隠すシリス(注1)」、種小名は「擬態する」という意味から命名しています。
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