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病原細菌サルモネラは宿主ポリアミンを利用し、病原因子III型分泌装置を構築することにより、感染する --ポリアミンの制御は、細菌感染を抑制する可能性を発見 --北里大学

Digital PR Platform / 2024年8月6日 14時5分


■研究成果のポイント
・外界からの取り込みによるサルモネラのポリアミン恒常性は、マウスに対する病原性発現に重要である。
・外界からの取り込みによるサルモネラのポリアミン恒常性は、細胞への侵入や細胞内生残・増殖に重要である。
・ポリアミン(特に、スペルミジン)は病原因子III型分泌装置の針状構造(ニードル)の構築に必要である。
・宿主のポリアミン合成を抑制する薬剤エフロルニチンは、サルモネラのマウス感染と細胞内増殖を抑制する。
・サルモネラの感染は、アルギナーゼの活性を高め、宿主のポリアミン量の増加を招く。
・宿主のポリアミン量の増加は、サルモネラの感染性を高めてしまう。


■研究の背景
 病原細菌は感染宿主の環境変化に応じ、適応することによって、感染を成立させます。宿主内の代謝産物や、それらに依存したpH変化など、多くの環境因子が病原細菌の病原因子の機能発現に関わります。本研究で注目したポリアミンは宿主細胞内のアミンにおいて最も多く含まれるもので、細胞の増殖活性に関わるなどの多様な影響を及ぼす生体因子として知られていました。細菌においても、同様に、増殖因子として機能する一方、病原性の発現にも関与することが報告されていました。しかし、これまでの研究では、そのポリアミンによる病原性制御がどの程度、感染性に影響を及ぼすかは不明でした。

■研究内容と成果
 まず、サルモネラのポリアミン恒常性が感染性に関与するかを調べるために、ネズミチフス菌のポリアミン合成および取り込みに関与する遺伝子群を欠失した変異株(以下、ポリアミン変異株)を作製し、そのマウスに対する病原性について、野生株と比較しました。その結果、感染マウスの糞便中や脾臓内のポリアミン変異株の生菌数は、同時感染した野生株と比較して、著しく減少しました(図2)。一方、スペルミジン含有飲水により、これらのポリアミン変異株の生菌数減少は回復しました(図2)。これらの結果は、外界からの取り込みによるサルモネラのポリアミン恒常性は本菌の病原性発現に重要であることを示唆しています。
 次に、細胞レベルでの影響を調べたところ、ポリアミン変異株の細胞への侵入および細胞内増殖能が減弱していました。これらの細胞に対する反応は、ネズミチフス菌の病原性発現に重要であり、III型分泌装置によるエフェクターの細胞内移行に依存しています。
 そこで、次に、ネズミチフス菌のエフェクター移行量を調べた結果、III型分泌装置が構築されない変異株と同様に、ポリアミン変異株では、エフェクターはほとんど移行しませんでした。さらに、III型分泌装置を精製したところ、ポリアミン変異株では針状構造(ニードル)のない不完全な構造体(基部体のみ)が観察されました(図3)。これらの結果は、ネズミチフス菌のポリアミン恒常性はIII型分泌装置の構築に必要であり、エフェクターの宿主内移行に関与することを示唆しています。
 宿主内ポリアミンレベルとサルモネラ感染性の関係を明らかにするために、宿主ポリアミン合成の律速酵素であるオルニチン脱炭酸酵素の阻害薬エフロルニチンを、マウス飲水に加えました。エフロルニチン飲水マウスにおけるネズミチフス菌の脾臓内生菌数は、通常水を飲水した対照マウスと比較して、有意に減少していました(図4)。さらに、細胞培養液にエフロルニチンを加えると、マクロファージ様細胞に感染したネズミチフス菌の細胞内増殖能が減少しました(図4)。一方、スペルミジン含有水を飲水したマウスでは、ネズミチフス菌の感染能が上昇しました(図4)。さらに、ネズミチフス菌が感染したマウスのポリアミン量を測定した結果、感染していないマウスと比較して、糞便中および脾臓内のポリアミン量は明らかに上昇しました。これは、ネズミチフス菌感染により、アルギニンからオルニチン産生を促すアルギナーゼ活性の上昇が一因でした。これらの結果は、宿主のポリアミンレベルとサルモネラ感染の関係性を明らかにしたものであり、驚くべきことに、サルモネラは戦略的に感染宿主のポリアミンレベルを上昇させ、感染に有利となる状況を作り出している可能性を示唆するものです。また、宿主のポリアミン量を抑制することは感染制御につながることを示唆しています。

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