【京都産業大学】ボルボックス目藻類の多細胞化進化とレイノルズ数の連関を発見!-国際学術誌 『BMC Ecology and Evolution』に掲載
Digital PR Platform / 2024年10月4日 20時5分
京都産業大学(京都市北区/学長:在間敬子)生命科学部の若林憲一教授、法政大学自然科学センター・法学部の植木紀子教授の共同研究グループは、緑藻植物門・緑藻綱・ボルボックス目に属す生物種が、急に強い光を浴びたときの繊毛運動の反応の様式が4パターンに分類され、さらにそのパターンが系統関係よりも流体環境を示す指標「レイノルズ数」によって分類できることを見出しました。本研究の成果は、ヒト繊毛病の発症メカニズムの理解や、マイクロマシンの設計などに貢献することが期待されます。
■研究体制
京都産業大学、法政大学の共同研究グループ
■発表論文
「Multicellularity and increasing Reynolds number impact on the evolutionary shift in flash-induced ciliary response in Volvocales」
(多細胞化とレイノルズ数の増加がボルボックス目緑藻における閃光誘発繊毛運動調節の進化的シフトに与える影響)
■本件のポイント
・緑藻植物門・緑藻綱・ボルボックス目に属す多細胞性の藻類は、モデル単細胞緑藻として知られるクラミドモナスChlamydomonasに似た祖先単細胞生物が多細胞化して進化したと考えられている。クラミドモナスと、最大数万細胞から成る球形の多細胞緑藻ボルボックスVolvoxがよく知られるが、その間の細胞数の生物種、たとえば4細胞のテトラバエナTetrabaenaや16細胞のパンドリナPandorinaなどが現存している。そのため、化石ではなく、現存生物を用いて実験的に多細胞化進化の過程を追うことができるという、ユニークな生物群である。
・これら多細胞性の種は、クラミドモナスと同様、1細胞あたり2本の繊毛(鞭毛)が生えており、繊毛運動によって遊泳する。また、1細胞あたり1つもつ眼点と呼ばれる光受容器官で光の方向と強さを認識する。ボルボックス目藻類の多くは、光刺激に応じて繊毛の動かし方を変えて、光反応行動と呼ばれる行動を示す。
・本研究では、ボルボックス目に属す27系統の藻類が、強い光を浴びたときに一時的に示す繊毛運動パターンの様子を観察し、「1: 波形変換」「2: 無反応」「3: 運動停止」「4: 運動方向逆転」の4つのパターンに分類できることを見出した。
・さらに、この4つのパターンは、それぞれの種の系統よりも、その大きさと遊泳速度から導かれる「レイノルズ数」に応じて決まることが示唆された。
・レイノルズ数は「慣性力」を「粘性抵抗」で割ったものである。微生物は低レイノルズ数の世界で生きており、ほとんど慣性力の影響を受けない。そのため、繊毛運動を停止すれば個体はすぐに停止することができる。しかし、細胞数が大きくなってきた多細胞緑藻は、慣性力の影響が無視できなくなる。
・急に強い光を浴びることは光合成生物にとって大きなダメージとなる。そのため、その場に居続けることを避けるために緊急停止や後退遊泳をすることは、生存に重要な行動であると考えられる。ボルボックス目の藻類は、多細胞化(大型化)進化によって変化した流体環境でその行動を維持するために、同じ繊毛という運動器官の使い方を変化させていったと考えられる。
・本研究の成果は、微生物の運動様式の進化を考える上で、流体環境の変化が淘汰圧になることを明確に示すものである。また、将来的には、ヒト繊毛病の発症メカニズムの理解を深めるとともに、バイオミメティック・マイクロマシンの設計に新たな展開をもたらすことが期待される。
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