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【「MINAMATA ミナマタ」評論】「水俣」を知った自分はどうするか? バトンは、事実を知った者に手渡されている

映画.com / 2021年9月25日 18時0分

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「MINAMATA ミナマタ」

 縁あって、水俣病に関わる仕事をしていたことがある。もともと水俣と関わりがあったわけではないし、今も水俣病について何かを語れるわけではないが、それでも生活の中に水俣病がある時期が数年ほどあった。

 学校の授業ではない場所で水俣病事件に触れてまず驚いたのは、水俣病にまつわる記録物、表現物の多さである。「水俣病図書目録」(認定NPO法人水俣フォーラム、2017年刊)には、400点超もの水俣病関連書籍が掲載されている。書籍だけでなく、映画、写真、絵画といった形で患者たちの言葉や姿が記録され、その数は今も増え続けている。

 このほど公開される「MINAMATA ミナマタ」もまた、それらに連なる一作だ。ジョニー・デップが世界的なフォトジャーナリスト、ユージン・スミスを演じることで、あらためて水俣病に光が当てられた。水俣病の公式確認から65年を経た今、世代や国を越えて映画に関心が寄せられるよう、本作は脚色が施されている。だから、水俣病についての知識がなくても十分、映画に没頭することができる。一方で、合間に挟まれる記録映像や写真、患者たちの言葉は、水俣病事件が確かに起きた事実であることを絶えず観客に突きつける。

 真田広之や加瀬亮、岩瀬晶子らが演ずるのは、水俣病事件がなければ、世に存在を知られることもなかっただろう無名の人々だ。著名な俳優としての顔が後景に退き、一人の人間が立ち現れるとき、そこにあるのは、事実を知った者としてそれを伝えなければならないという役者としての信念である。

 もし、ユージンとパートナーのアイリーン・美緒子・スミスがあのとき水俣を撮らなければ、本作の原案となった写真集は生まれなかったし、本作も生まれ得なかった。國村隼演ずる原因企業の社長が、自らに都合の悪い事実をなかったことにしようとする言い分は、今も至るところで聞かれる人間の偽らざる本音である。

 石牟礼道子、土本典昭、塩田武史、ユージンとアイリーン……主婦として、映画監督として、写真家として、水俣の事実を知り、見て見ぬふりをしなかった人たちがいたから、今、私たちは病苦の中で声をあげた患者と家族の存在を知ることができる。「MINAMATA ミナマタ」も、彼らを見て見ぬふりしなかったからこそ生まれ得た一作だ。

 本作を見て、涙を流してカタルシスを得ることが重要なのではない。今も世界中で続く「水俣」を知った自分はどうするのか。バトンは、事実を知った者に手渡されている。

(木村奈緒)

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