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虐殺への無関心の恐ろしさを描く「関心領域」ジョナサン・グレイザー監督、ミカ・レヴィらがティーチイン

映画.com / 2024年5月16日 13時0分

 本作では、音のみが聞こえる真っ暗なシーンが挟まれる。このような実験的な構成について、音楽、音響設計担当のレヴィは、「映画の表現は具象と抽象に分かれますが、この抽象の部分の音に関しては、ストーリー的なロジックを追ってということよりも、感覚的に映像を見ながら作っていきました。音で物語にいざなう、というよりも、何か方向性を意識しています。例えばこの音、このスコアは下へ向かって進んでいる、そしてこっちは上へ向かって進んでいる……のように、ロジックがあるようでないというか、感覚的に作っている部分が大きいです」と説明する。

 さらに、「いわゆるタイトルシークエンスと音楽に続き、ある風景が映し出されるのが映画のあり方ですが、この作品には特有の意図があって、それが真っ暗なシーンです。暗闇の中でいきなり音を聞かされる、ちょっと奇妙な感じがしますよね。要は、この作品は目で見る映画ではなく、耳で聞く映画なのです。ですので、音を繊細に聞く耳を整えてほしいという監督の考えがあり、まずはひたすら音を聞かせて、観客の耳を慣らすという意図です。それは、企画の初期段階から決めていたことです。サウンドデザインとして、皆さんの耳を育てるように設計されているのです。あの映画の中で繰り広げられる暴力を我々は見ることはできませんが、耳で拾うことができる、そういった音をデザインしました」と語った。

 グレイザー監督は、今の時代にホロコーストをテーマとした映画を発表する意味や理由を問われると、「以前からホロコーストについての映画を撮りたいと思っていましたが、ホロコースト映画はこれまでも多数作られています。それらの二番煎じとならないような映画を撮りたく、この作品では加害者側の視点から見える何かを描きました。それは主に、我々はなぜ同じ過ちを繰り返すのか――その思いに突き動かされたからです。80年前の出来事で、歴史物です。今の時代の現代とは関係ない話なんです、というのではなく、現代の世の中にちゃんと訴えかけられる映画になるようにフレーミングしたかったのです」と現代性を持たせることが重要だったと話す。

 最後に司会が、今現在も世界各地で起こっている各種の争いに対し、当事者ではないと考える人間の態度について何かを投げかける映画だと思ったと感想を伝える。

 グレイザー監督は「我々は世の中で起きていることを、黙認し、どこか共犯的な関係にあると思うのです、それは世の中で起きていることに対して、対峙することを避け、安全安心な領域の中で過ごしていたいということです。この作品では、そのような黙認がどこへ行き着くのか、という極端な例を示したつもりです。そして、この野心溢れるブルジョア一家の中に皆さんが自分を見出すことができれば、最終的にどこへ行き着くのか、合点が行くのではないでしょうか。この映画は頭で考えるのではなく、体でずっしりと感じる作品に仕上げたつもりです。まるで何か毒のある果物を口にしたかのような苦み、あまりにも苦くて、もう二度と口にしたくないような……そんな苦味を感じてほしい映画です」と述懐し、最後に「我々一人一人が、黙認や共犯になること、それを拒否する力を持っているのです」と日本の観客に力強いメッセージを送った。

 「関心領域」は5月24日から新宿ピカデリーほかで全国公開。

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