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【「湖の女たち」評論】吉田修一の小説がつなぐ昭和平成の闇たち。大森立嗣監督が映し出すのは“日本人の自画像”か

映画.com / 2024年5月25日 22時0分

 戦時中の非道、大企業と省庁が結託した不祥事、弱者に対する殺人といった昭和から平成にまたがる百年史の闇たちを、吉田修一は「生産性」のワードでつないでみせた。これらは時を隔てて偶発的に起きた事象ではなく、「長い物には巻かれろ」ということわざを持ち、忖度や付和雷同が肯定され、集団の不正を告発した者が村八分やバッシングを受けるような、脈々と継承されてきた国民性が招いたものではなかったか。先の世代がそうした理不尽を黙認し受け入れたからこそ、次の世代も追従し温存してきたのではないか。

 子の悪行を問いただすような面持ちで見る大人を、まっすぐ見返す子の眼光が強い印象を残す2つのシーン。時代と人物を変えて反復されるこれらの場面では、“見る・見られる関係”の反転が痛烈だ。「大人が行い黙認してきたことを真似る私たちを、責める資格があるのか」と言わんばかりに。哲学者ニーチェの「深淵をのぞくと、深淵はあなたを見返す」という言葉が思い出される。近現代史の闇に目を凝らすとき、そこに浮かび上がるのは“日本人の自画像”ではないのか。

 本作で繰り返されるもう1つのキーワードが、「世界は美しいのだろうか」。世界を見てその美しさを問う人は、わが身の、人間という存在の美しさを自問している。闇夜を抜け静かに輝きを増す明け方の湖のように未来が美しく変わるかどうかは、これからの私たちに託されている。

(高森郁哉)

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