【「ザ・ウォッチャーズ」評論】ルールを決めた何かと、従うことで生かされてきた者との微妙なバランスが崩れていく
映画.com / 2024年6月23日 10時30分
「ザ・ウォッチャーズ」は公開中 (C)2024 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED
舞台はアイルランド西方の森。冒頭を飾るのは、ひとりの男性が森からの脱出を試みるも、日没と同時に出現した何かに襲われるエピソード。映画の「お約束」を、最初にガツンと観客に刷り込む手法は、音の出るオモチャを持った少年がどうなったかを冒頭で見せた「クワイエット・プレイス」と同じだ。
もっとも、この森の「お約束」はひとつじゃない。森で迷い、マジックミラー貼りのシェルターに逃げ込んだ人々は、日没後に部屋の前に集まってくる何かの監視に一晩中耐えなければならない。また、何かが日中潜んでいると思われる穴をのぞくこともタブーだ。ところが、そのルールを破る者が現れる。新しくシェルターの一員になったミナ(ダコタ・ファニング)だ。穴の入口を探索した彼女は、自転車など脱出に使えそうなツールの回収に成功。しかし、それによって、ルールを決めた何かと、ルールに従うことで生かされてきた人間との微妙なバランスが崩れてしまう。
一触即発の緊張状態に陥る何かとミナたち。そこからのドラマが、単純な脱出劇に突き進むのではなく、何かの正体や監視の目的を解き明かす方向へ向かうところが、この映画の大きな特徴だ。何かに追い詰められたミナたちが森の秘密に迫っていく展開は、TVシリーズ「LOST」の遭難者たちが島の秘密を深堀りしていくのに近い。そんな後半のドラマの中では、鳥やマジックミラーなどの伏線が一気に回収されていく爽快感も味わえる。
監督は、これが長編デビュー作となるイシャナ・ナイト・シャマラン。ライフラインのうち電気だけが異様に整ったシェルターの描写や、ナレーションで話をつなぐ構成など、工夫の余地ありと思われる部分も多いが、感慨が残る作品にまとめた点には父M・ナイト・シャマラン監督のDNAが感じられる。父の出世作「シックス・センス」は、死者が見える少年と彼に寄り添う精神科医の双方に解放と救いが訪れる物語だったが、「ザ・ウォッチャーズ」も、15年前の母の死に囚われているミナと、もうひとりの登場人物の魂の解放の物語に昇華していく。鑑賞後は、「テーマは家族」というイシャナ監督の言葉を噛みしめてほしい。
(矢崎由紀子)
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