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【「花嫁はどこへ?」評論】取り違えられた花嫁と周囲のポジティブな相互作用に心温まる、愛すべき快作

映画.com / 2024年10月6日 22時0分

【「花嫁はどこへ?」評論】取り違えられた花嫁と周囲のポジティブな相互作用に心温まる、愛すべき快作

(C)Aamir Khan Films LLP 2024

 インド映画に馴染みのない人や、かの国の社会・文化に明るくない人でも、気軽に楽しめる快作だ。顔を覆い隠す同じ色のベールと婚礼衣装をまとった花嫁2人、プール(ニターンシー・ゴーエル)とジャヤ(プラティバー・ランター)がそれぞれの花婿の実家に向かう満員列車に乗り合わせ、途中で席が入れ替わってしまう。プールの夫になるディーパク(スパルシュ・シュリーワースタウ)は間違えてジャヤを連れ帰り、一方のプールは何駅も先で取り残されたことに気づいて下車し途方に暮れる。

 序盤のハプニングを招いた状況こそインド特有の宗教と慣習が関係しているが、たとえ知識がなくても家族や乗客たちの会話でなんとなく想像できるので問題ない。中盤からはプールとジャヤのパートが交互に描かれ、知り合いが皆無の場所に身を置くことになった彼女らがどう行動するか、他者とどのように関わるかが話の軸になる。

 比較的わかりやすいのはプールのパートだ。嫁ぎ先の村の名前を思い出せない彼女は、下車した駅の近くのコンテナで暮らす男たち2人や、プラットフォームの屋台で軽食やチャイを売る女主人マンジュに助けられ、屋台の手伝いをすることに。箱入り娘で世間知らずだったプールは、料理の腕を活かして働くことに喜びを見出す。花婿との再会を願う彼女の健気さに、周囲の人々の心持ちも変わっていく。

 一方のジャヤのパートには、ちょっとしたミステリー風味が加わる。プールの捜索願いを出すディーパクに伴われて警察署を訪れたジャヤは、自分の名や実家の電話番号など身元特定につながる情報を偽り、顔写真の撮影も拒む。平然と賄賂を要求するマノハル警部補(ラヴィ・キシャン)は不審に思い、ジャヤを尾行して秘密に迫っていく。こちらのパートには意外でなおかつ拍手喝采を送りたくなる小気味よい解決が待っているので、ぜひ劇場で確かめていただきたい。

 出演こそしていないものの、「きっと、うまくいく」「ダンガル きっと、つよくなる」の名優アーミル・カーンが本作「花嫁はどこへ?」の実現に大きく貢献。審査員を務めた脚本コンペでビプラブ・ゴースワーミーの原案を見出し、自ら映画化権を獲得して製作に名を連ねた。メガホンを託されたのは、カーンが出演し製作も兼ねた「ムンバイ・ダイアリーズ」(2011)で監督デビューしたキラン・ラオ。カーンとラオは2005年に結婚し、2021年に離婚したが、その後もNGOで共に活動するなど良好な関係を保っており、カーンからの厚い信頼が今作の監督オファーにつながったようだ。

 インド映画の2大潮流として、複数の娯楽ジャンルを混ぜ合わせた商業的な“マサラ映画”と、マサラ映画の特徴である歌とダンスのシークエンスを排した現実主義的な“パラレル映画”があり、アーミル・カーンは21世紀のパラレル映画復興の立役者としても評価されている。「花嫁はどこへ?」についても、男女格差、夫から妻へのDV、警察の腐敗といったインドの根深い社会問題を題材にしつつ、風刺や批判は控えめで、むしろ女性の自立や、身近な他者を助けようとする気持ちから生まれるポジティブな相互作用といった要素が、穏やかなユーモアと相まって観客の心を温めてくれる。インドの地域性に根ざす騒動が世界に響く人生賛歌に昇華するストーリーを発掘した、カーンの目利き力にも称賛を送りたい。

(高森郁哉)

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