【「ゼンブ・オブ・トーキョー」評論】日向坂46四期生11人の妙味を巧みに抽出し紡ぎ合わせた爽やかな青春群像
映画.com / 2024年10月27日 11時0分
「ゼンブ・オブ・トーキョー」は公開中 (C)2024映画「ゼンブ・オブ・トーキョー」製作委員会
世の中には思いがけないマッチングを考えだす人がいるものだ。片やデビュー作以来、一筋縄ではいかない人間ドラマを鮮烈に焼き付けてきた鬼才・熊切和嘉監督。片や各方面でフレッシュな魅力を爆発させ続けている日向坂46四期生の11人。両者が運命的に出会い、併走し、巻き起こした爽やかな化学反応をとても面白く見た。
熊切監督といえば、傑作「658km、陽子の旅」(2022)では就職氷河期世代のヒロインが気の遠くなるほどの旅路へ踏み出す姿が印象的だった。対する本作は東京という一つの街に舞台を限定してはいるものの、その内部の様々なエリアを11人が絶えず駆け巡りながらドラマを奏でていく。この群像劇の歯車となっているのが、誰しもの記憶に残る修学旅行という設定だ。
待ちに待った各班に分かれての自由行動の日。しっかり者の池園さん(正源司陽子)は精魂込めて作ったプランに沿って、班のメンバーを引き連れて東京の”ゼンブ”を巡ろうとするのだが、ふと気づくとなぜかみんな散り散りに。実は全員がそれぞれにやりたいこと、叶えたいことを胸に抱えてこの東京にやってきていて・・・。
思えば、修学旅行という非日常は、普段よく知っているはずのクラスメイトの思いがけない表情や内面を垣間見せてくれるもの。それは人気アイドルグループの11人が初めて挑んだ演技、そして映画というフィールドにも通じることで、バラエティ番組やライブのパフォーマンスでは伺い知れない個々の表現性が発露している様にファンは大いに心奪われるはず。そこに巧みな整合性をもたらしたのが、いわば新境地に挑んだ熊切監督だ。各々が持つ、おそらく本人も気付いていない唯一無二の魅力や演技者としての可能性を的確に見つめ、引き出し、点描し、一つの青春タペストリーとして軽やかに紡ぎ合わせていく手腕には驚かされるばかりである。
個と団の狭間で刻々と形を変えていくのも本作の面白さ。そこで生じる、瞬発的なコンビネーションや結束力は、やはり彼女たちがいくつもの経験を重ねながら果敢に駆け上り続ける日向坂46四期生であるがゆえのものだ。東京の街並みはいつも巨大で、多くのものを飲み込み、常に物凄いスピードで変わっていく。それらを背景に駆け抜ける11人の今この時、この瞬間を、じっくり堪能できる一作である。
(牛津厚信)
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