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是枝裕和監督、審査員を務めたカンヌグランプリ作を「とても愛した」 インドのパヤル・カパーリヤー監督と対談

映画.com / 2024年10月29日 20時45分

 さらに、是枝監督は「All we imagine as light」で注目したカパーリヤー監督の“声高にならない”音の用い方や録音などについて問いかける。

 「私にとって音は一番身体的な影響を与えるものだと思っています。映画はそれほど声高でなくてもいいと思うのです。映画館では静かに話しても伝わりますし、耳の近くで優しくささやくような声を捉えたいのです。引きの画でも、声は近くで聞こえる――それが映画の素敵なところです。声で親密さを表せると、登場人物との距離も近くなります。物理的に近くなくても、声は親密に、優しくささやく感じで撮りたいのです。映画はそれが可能で、選択できるのが私の楽しみで喜びなのです」とこだわりを語った。

 物語の中でインドの社会問題を提示していくカパーリヤー監督の作風を「語り口が静かですが、哲学は揺るがないものがある」と是枝監督。「インドの学生運動や政治状況を意識していました。歴史を悪用せずに正しく捉える、そういった考えを敢えて映画に入れました」とカパーリヤー監督は述べ、「大がかりな映画ではなく、小さい日々の日常に感じるものを描きたい」と自身の作品のスタンスを語る。

 そして、映画学校時代に読んだ、川端康成の短編集「掌の小説」から感銘を受け、「簡潔にシンプルに日常のことを描いているのに、不安や歴史や現実や幸福がたった数段落に込められていました。短い物語の中で、自由になっていいと感じたのです。このように、シンプルであり、重層的に物事を考えるアプローチをとっています」と自身の語り口について説明した。

 また、この日は世界各国のジャーナリストから、インド社会における女性の在り方、多言語、多民族国家であるインドでの言語についてなどさまざまな質問が寄せられた。また現代の京都の芸舞妓をテーマとしたNetflixシリーズ「舞妓さんちのまかないさん」を演出した是枝監督も、男性監督として女性を描くときにどのような配慮があったかを問われ、「アップデートしていかないと、間違うことがしばしばあるので注意しなければならない」「取材での自分の発見も含めて、(舞妓の)彼女たちをどう未来につなげるように描けるかチャレンジした。今後もあくまで男の監督として、どのような女性の描き方が可能なのか考えていきたい」と話す。

 その話題から、是枝監督は再びカパーリヤー監督の「All we imagine as light」で描かれたテーマに言及し、「日本人が想像しなければいけないのは、身分制度を超えての結婚。インドでは宗教や地域の違いが日本より大きく女性にのしかかっている。(『All we imagine as light』の)語り口は柔らかいですが、ストレートにきちんと描かれている。しかし、日本の場合は(その問題が)見えにくくなっている。それをどうやって話していくのかを考えなければ」と自身に言い聞かせるように語る。

 カパーリヤー監督も「インドではジェンダー、階級などの中にも様々なアイデンティがあり、不平等もあるので、自分が特権を持っているかもしれないという意識を忘れてはいけないと思っています。特にインドでは、アイデンティは人と人を大きく切り分けるものとして存在することもある。私はそういう疑問を投げかけながらものを作っています。映画人として常々考えなければと思う」と自身の考えを表明していた。

 カパーリヤー監督の「All we imagine as light」は、2025年7月に日本で劇場公開される。

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