「映画 窓ぎわのトットちゃん」の演出装置としての窓ガラス、リアリティと空想力の両立【第37回東京国際映画祭】
映画.com / 2024年11月1日 20時30分
プログラミング・アドバイザーの藤津亮太氏
第37回東京国際映画祭のアニメーション部門に出品された「映画 窓ぎわのトットちゃん」が11月1日、東京・角川シネマ有楽町で上映され、プログラミング・アドバイザーの藤津亮太氏が作品解説のトークを行った。
同作は、黒柳徹子氏が自身の幼少時代を自伝的につづったエッセイを「ドラえもん」のシンエイ動画が長編アニメ化(2023年12月公開)。好奇心旺盛で元気いっぱいなトットちゃんが、ユニークな校風のトモエ学園で小学校生活をおくる姿が描かれた。
1981年に出版された原作は800万部以上の大ベストセラーとなり、多くの映像化オファーがあったそうだが、黒柳氏は同作に登場する重要な人物であるトモエ学園の小林校長先生を演じられる人はいないという理由で断り続けていた。そんな同作が令和になって劇場アニメ化されたきっかけは、監督の八鍬新之介氏が2016年頃に原作を手にとったことが発端だった。
ちょうどその頃、子どもが生まれて親になった八鍬監督は、海外では戦争や内戦、国内では子どもにまつわる不幸な事件が報道されるなか、これからの社会の行く末を考えることが多くなったという。そうした現実とリンクしながらも明るさを感じられるような作品をつくりたいと考え、原作となる作品を探すなかで出合ったのが「窓ぎわのトットちゃん」だった。藤津氏は、制作現場の監督による発案で、同時代のヒット作ではない40年以上前のベストセラーを映像化する企画が実現した経緯は、珍しく貴重なものであると指摘する。
同作のキャラクターデザイン・総作画監督を務めたのは金子志津枝氏。キャラクター造形のベースには昭和初期の子ども雑誌のイラストのテイストを意識しつつ、彫刻家の舟越桂の作品がもつ立体感も加える方針で制作された。子どもを含めたキャラクターの唇に赤い色が差されているのも子ども雑誌のイラストからヒントを得た表現なのだという。また、昭和の建物の外観や間取りも、原作の黒柳氏から提供された資料も参考にしながらこだわって制作されたことが、美術設定の矢内京子氏、美術監督の串田達也氏の仕事とあわせて紹介された。
藤津氏が鑑賞前の注目ポイントとして挙げたのは、作中に登場する窓ガラス。すりガラスや曇りガラスなど、さまざまな種類があった当時の窓ガラスが描き分けられている。子どもの視線を大切に描いた本作では、戦争が近づく様子など大人の世界でおこっている大きな変化の意味をトットちゃんは分からず、ちょっとした違和感としか覚えない。そうしたバランスをさりげなく表現するため、子どもが大人の世界の裏側を垣間みてしまうときには、窓ガラス越しに見るという演出が用いられているときがあるそうだ。
戦中から戦争末期に移り変わっていく当時の町の風景を、ディテールにこだわって再現したリアリティがある一方、トットちゃんが空想の羽を広げて想像する世界はアニメーションならではの表現の自由さを使って奔放に描かれている。リアリティのあるシーンと、アニメーションらしい豊かな映像表現が両立しているところが本作の魅力のひとつであると藤津氏は語っていた。
「映画 窓ぎわのトットちゃん」11月3日午前10時10分から、TOHOシネマズ日比谷でも上映される(トークはなし)。
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