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【「対外秘」評論】一度踏み込んだら二度と抜けられない、無限ループのような権力闘争劇

映画.com / 2024年11月17日 8時0分

【「対外秘」評論】一度踏み込んだら二度と抜けられない、無限ループのような権力闘争劇

「対外秘」(公開中) (C)2023 PLUS M ENTERTAINMENT AND TWIN FILM/B.A. ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED.

 10月の首相交代、衆議院選挙に続き、アメリカでは大統領選挙で共和党のドナルド・トランプ前大統領が当選を果たし、改めて政治や社会へ人々の関心が集まる中、選挙とクライムアクションを融合させ、壮絶な権力闘争の表と裏を描いた韓国映画が日本で公開されるのはベストのタイミングと言うほかない。私たちの社会は闇の権力者に操られているのではないか。そんなことを現実的に考えさせられてしまうのが、映画「対外秘」だ。

 “対外秘”とは他の人や団体に知られてはいけない秘密のこと。この対外秘=極秘文書を巡って、権力を競い合う表社会の政治闘争と、莫大な金のために命まで奪い合う裏社会の死闘が、物凄い熱量で描かれる。その攻防劇は一切のタブーがないため、騙し合いと裏切りの心理戦と頭脳戦、血で血を洗う襲撃と返り討ちの連続に、最後の最後まで結末が予測不能。その緊迫感に息をするのも忘れてしまうサスペンスが展開される。

 舞台は1992年、韓国の釜山。党の公認候補を約束された政治家ヘウンは、国会議員選挙への出馬を決意するが、国政を裏で支配する権力者スンテによって公認候補を別の男に変えられてしまう。政治家としての信念を踏みにじられたヘウンは、極秘文書を手に入れて復讐を決意。ギャングのピルドから選挙資金を得て無所属で出馬し、地元の人々からの支持を得るが、スンテの逆襲によって、事態は果てしない権力闘争へと発展していく―。

 この政治家、権力者、ギャングに扮した韓国映画が誇る3人の俳優による演技対決は必見だ。巨大権力に立ち向かうため、いつしか堕落し変貌していく善良だった政治家ヘウンをチョ・ジヌンがリアルに演じ、権力を手に入れることにとり憑かれた人間の底知れない恐ろしさを体現してみせる。「毒戦 BELIEVER」「権力に告ぐ」で熱血な刑事と検事、「警官の血」「最後まで行く」では敏腕だが一線を越えてしまう刑事の役で強烈な存在感を見せてきたジヌは、公権人の善と悪、表と裏を説得力をもって演じることができる稀有な俳優だ。

 対する権力者、政界を裏で牛耳る黒幕スンテを演じたイ・ソンミンの不気味さには背筋が凍るだろう。現実に存在していそう、いたら決して歯向かってはならないと思わせるその役づくりは異彩を放つ。そして、作品ごとに違う顔を見せるキム・ムヨルが、一攫千金を狙ってヘウンと手を組むギャングのピルドを、カリスマ性と哀愁を漂わせる高い演技で2人と対峙。この3人のアンサンブルにより、誰が生き残るのか、死ぬのか、最後までスクリーンから目を離せなくなる。

 監督・脚本は、マ・ドンソク主演「悪人伝」でクライムアクションの名手と讃えられたイ・ウォンテ。存在感あるキャラクターたちを生み出し、隙のない演出と見事なストーリーテリングにより、90年代初頭の釜山を再現して弱者が権力に立ち向かう下剋上を描き上げた。一度踏み込んだら二度と抜けられない、無限ループのような権力闘争劇を堪能して欲しい。

(和田隆)

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