イザベル・ユペール「謎が残っているからこそ想像力が働く」 「不思議の国のシドニ」日本で撮影の愛と再生の物語、意外性あるラブシーンにも言及
映画.com / 2024年12月15日 15時0分
――今回、初めて劇映画で直島が映され、京都・奈良など観光地としても有名な場所でも、日本人が知っているようで知らない数々のスポットを発見できる作品です。
ああいう映像が撮れたことはコロナ禍の影響でもあるんです。どこに行っても観光客がいない時期でしたから。直島はフランス人にも人気の場所のようですが、それは現代アートに通じている人くらいで、私はエリーズから聞いて、初めて知った場所でした。そして、観光客がいなかったおかげで撮れた静かで美しいシーンがたくさんあります。また、私が2021年に東京国際映画祭で審査委員長を務めたときも、外国人の個人的な入国は禁止されていた時期でした。そういった意味でも、ちょっと特別な待遇で入国させていただき、私はコロナ禍ならではの日本を経験した気がします。
――あなたが演じるシドニと、伊原剛志さんが演じる溝口との距離がだんだん近くなっていく繊細な描写、またシドニの亡き夫が幽霊として出現するシーンは「雨月物語」などを思い出し、まるで日本映画のようでした。
この映画はすでにフランスで公開されて、あなたが仰る通り「日本的な映画」だと批評に書かれたこともありました。もちろん、醸し出す空気感や感性が日本的な部分もあるかもしれませんが、あくまでもフランスの女性が見た日本という視点で描かれていると思います。
シドニと溝口という、本当だったら出会わないようなふたりが出会う物語であり、カップルとしては背が高い彼と小柄な私、そういう違いにもフォーカスしながら、文化も住んでいる場所も全く違うふたりが出会う、そのアイデア自体がとても面白いと思いました。そして、ふたりは感性の部分でとても近しいものを感じて惹かれ合う。それはとても自然なことだと思います。
――後半のラブシーンは、マルグリット・デュラスの「ヒロシマ・モナムール」をアラン・レネ監督が映画化した「二十四時間の情事」を想起させるような、美しいものでした。
あのシーンの撮り方は、脚本には書かれていませんでした。実際に見た方は、ちょっと意外性を感じると思うのですが、戸惑いはないでしょう。どちらかというと、生々しいラブシーンが動画として流される方が観客は戸惑いを感じると思うのです。ラブシーンをスクリーンで映像化するのは、とても難しいことです。ですから、今回は新鮮な感覚を持ってあのシーンを見ていただけるのではないでしょうか。リアリスティックなものからやや逸脱して、シュールな部分があるのです。本当にふたりの間に起こったことなのだろうか――そんなことも観客に問いかけるような、曖昧さをあえて残しています。また、時間についても、本当に彼女の初めての滞在中に起きたことかどうかも明確に示されていませんよね。非時間性のような、ペンディングされたような表現が私はとても気に入ってます。
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