2024年公開の映画から、個人的な「今年の10本」をご紹介【映画.com編集長コラム】
映画.com / 2024年12月31日 9時0分
●「どうすればよかったか?」
これは日本のドキュメンタリー。父と母、娘と息子の4人が主人公。統合失調症を患った娘と、その治療法をめぐる家族の判断に関する総括が「どうすればよかったか?」という題名に反映されています。スタイルはファミリームービーですが、とてつもない重さを伴ったファミリームービーです。正直、映画鑑賞ではこれまでに感じたことのないレベルの衝撃を覚えました。上映館では満席が続いているところも多く、ドキュメンタリーとしては異例のヒットとなっています。
●「侍タイムスリッパー」
異例のヒットと言えば、「侍タイムスリッパー」にも触れないわけにはいきません。安田淳一監督が、「カメラを止めるな!」の成功事例を研究し、私財を投じて完成させた時代劇コメディです。「カメラを止めるな!」にならって、池袋のシネマロサ1館で興行をスタートし、口コミで徐々に上映館数が広がっていくプロセスはお見事というしかありません。ヒットは決して「異例」ではなくて、戦略ありきだったんだと。あとは賞関係ですね。第48回日本アカデミー賞でのパフォーマンスに興味津々です。
●「八犬伝」
小学生の頃、NHKの人形劇は欠かさず見ていました。「ひょっこりひょうたん島」「ネコジャラ市の11人」そして「新八犬伝」あたりです。世代的に、玉を集める冒険譚といえば、「ドラゴンボール」じゃなくて、「八犬伝」なんです。「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌。いざとなったら珠を出せ、力が溢れる不思議な珠を」という主題歌を脳内で再生しながら楽しみました。
●「ナミビアの砂漠」
これは、山中瑶子監督のカンヌ案件ですね。中東やアフリカ、南米などのインディペンデント映画が好きなので、タイトルからして興味津々でした。しかし、ロケーションはほとんどが東京で、まったくナミビアが出てこない。拍子抜けしながらも、ヌーベルバーグ風味の青春映画を堪能しました。女ひとりに男(彼氏)ふたりという設定で、主演の河合優実が「やり切った感」を見せつつも、「全然ヘビーじゃないし」って雰囲気をスクリーンから放っていました。
●「あんのこと」
こっちは、「やり切った感」と「ヘビーな感じ」が共存した河合優実の主演作です。観客の共感と同情をガンガン集めながら、決して観客をハッピーにしないストーリー。何とも複雑な余韻を残す映画でした。入江悠が監督と脚本です。コロナ禍における人々の描き方も絶妙でした。これも賞レースに絡んできそうな案件ですね。
●「瞳をとじて」
最後は、パーソナルな思い出を喚起させてくれた映画をピックアップ。ビクトル・エリセ監督の「瞳をとじて」です。監督の前作「マルメロの陽光」の日本公開時、私はフランス映画社で宣伝のお手伝いをしていました。エリセ監督が来日し、プロモーションを行った時、テレビ番組へのブッキングと収録の立ち会いを担当したのです。長編映画としては、それ以来31年ぶりの新作。当時のことを色々思い出しながら、本編の最初から最後まで感無量状態で見ていました。「ミツバチのささやき」のアナ・トレントも顔を出していましたね。
以上が、個人的な2024年の10本です。とっても偏った10本ですが、ご興味を持っていただけたら幸いです。映画館で見逃した作品は、配信などで見られる物も多いので、是非ご覧になってみてください。
2025年も、たくさんの素晴らしい映画に出合えることを期待しています。
(駒井尚文)
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