更新されていく集大成――アルモドバル監督作「ザ・ルーム・ネクスト・ドア」を森直人&児玉美月が語り尽くす
映画.com / 2025年1月23日 20時0分
本作は、45年のキャリアを持つアルモドバル監督が英語で手掛ける初の長編映画だ。地元スペインに根付き、映画製作を続けてきアルモドバル監督の新境地について、児玉氏が「安楽死や尊厳死というものの社会性とか政治性を問うような作品ではなく、死そのものを抽象的に捉えるような作品なので、ある種普遍的な言語である英語がしっくりきているのかなと感じました。スペイン語で描くよりテイストが合っているような気がします」と見解を示すと、森氏も「英語が違和感なく入ってきますよね。抽象的な主題を扱い人間の深部に踏み込んでいく作家なので、世界公用語を使うことで、アルモドバルの中に根付く強いスペインイズムが純化されたようなイメージでした。それがこの映画の大きな決め手、魅力にもなっていると感じています」と巨匠の新たな挑戦に賛同した。
英語で製作することによって出演が実現したティルダ・スウィントンとジュリアン・ムーアという演技派女優の豪華共演について、児玉氏は「ティルダはデレク・ジャーマンをはじめ多くのクィアな監督と組んでいて、『オルランド』では性別を超えた役を演じていました。ジュリアンもトッド・ヘインズと組んでいたり『めぐりあう時間たち』などクィアな作品にいっぱい出演していて、どちらもクィアの感性がペルソナに付随している俳優だと思っていたので、今回の共演は嬉しかったですし、アルモドバルともぴったりですよね」とキャスティングを称賛。
児玉氏「面白いと思ったのは、前作の『パラレル・マザーズ』は赤ちゃんを取り違えた母親ふたりが後に恋愛・性愛関係に発展していきました。セクシュアリティの流動性という点が非常にアルモドバルらしいなと思うので、本作でもティルダとジュリアンがそんな関係になっていくのかな?と予想したのですが、友人関係のままでそれがむしろ現代的だと思いました。例えばルーカス・ドンの『CLOSE クロース』では男性2人が親密にしていたらすぐに同性愛の関係に結びつけられてしまう暴力性に問題提起していました。そういう現代性を踏まえて、あえて今回は恋愛関係にはしなかったのかも」
森氏「以前のアルモドバルは母性というものを神話的に捉える部分があり、かつて批判を受けたこともありました。あとは性暴力を軽々しく扱うとか。近年はそういった点に関して自己批評性みたいなものがすごくあると感じています。自己を更新することが映画の深みに結びついているかもしれない」
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