力道山の妻、結婚わずか半年で夫の死…語られてこなかった壮絶な“その後の人生”
エンタメNEXT / 2024年6月16日 6時0分
![力道山の妻、結婚わずか半年で夫の死…語られてこなかった壮絶な“その後の人生”](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/entamenext/entamenext_32678_0-small.jpg)
書籍『力道山未亡人』収録写真/1963年1月7日ホテルニュージャパンで行われた婚約会見(田中敬子氏提供)
暴力団組員に刺された力道山が命を落としたのは1963年のこと。しかし当時22歳に過ぎなかった夫人の“その後の人生”については、これまでほとんど語られてこなかった。結婚後わずか半年で夫に先立たれたのみならず、5つの会社の社長に就任し、30億円もの借金を背負い、4人の子の母親になった、その人物の名は田中敬子(83)。
5月31日に発売された『力道山未亡人』(著・細田昌志/小学館)では、プロレス興行という特殊な環境の中、男社会と裏社会の洗礼を浴びつつも昭和・平成・令和と生き抜いた1人の女性の数奇な半生が描かれている。著者の細田氏を直撃し、未亡人・敬子さんの素顔や執筆の舞台裏について伺った(前後編の前編)。
【写真】力道山の本葬での敬子さん、ほか書籍『力道山未亡人』収録の秘蔵写真【6点】
第30回小学館ノンフィクション大賞受賞作ということで、『力道山未亡人』は発売前から話題の1冊だった。著者の細田昌志氏(52)は前作『沢村忠に真空を飛ばせた男/昭和のプロモーター・野口修評伝』(新潮社)で講談社本田靖春ノンフィクション賞を受賞。もともとは放送作家やCS放送のキャスターとして活躍していたが、現在、もっとも注目されるノンフィクション作家の1人になったといっていい。
「田中敬子さんについて書くことになったのは、安部譲二さんの一言がきっかけなんです。前の本の取材でお会いしたとき、“次は敬子さんについて書いてよ”ってリクエストされたんですよ。よくよく話を聞くと、安部先生と敬子さんはJAL(日本航空)時代の同僚だったんです。安部先生は“あの人、よく再婚しなかったよね”みたいなことも言っていました。“俺は古くからの知り合いだけど、自分からは聞き出せないから、君がそのへんのことを聞いてみてくれ”ってムチャ振りされて(笑)。そうこうするうちに安部先生も亡くなってしまったんですけどね……」
こうして力道山未亡人の田中敬子さんについて書こうと決めたはいいが、話はここから二転三転した。なかなか掲載先が決まらなかったのである。
「雑誌での連載とはかなわず、一昨年の11月頃からウェブの『NEWSポストセブン』で書き始めるんですけど、ネットにアップされた記事はほんの触り。内容も力道山と結婚するまでの出来事を軽くまとめたにすぎません。だから、ポストセブン掲載分で今回の単行本に収録されているのは、大方7分の1くらいかな。つまり今回の本はネット連載をまとめたというより大半が書き下ろしです。その一番の理由として、年が明けた1月から、『よし、小学館のノンフィクション大賞に応募しよう』って決めたことがありました。規定があって、半分以上はオリジナルにしなくちゃいけないんです。それで区切りがいいところで連載をやめて、取材を本格化させていったわけです」
執筆に費やせる時間は少なかった。小学館ノンフィクション大賞の締め切りは8月末。実質、4ヶ月半くらいの間で多くの関係者と会い、国会図書館で資料を漁り、もちろん敬子さん本人からも丹念に話を聞いていった。昔のことなので敬子さん自身が忘れていることも多かったが、立体的に取材をすることで力道山周辺の複雑な人間模様が徐々に浮かび上がっていく。
「敬子さんはふわふわした感じの方なんですけど、同時に非常に聡明な方だとも感じましたね。とても80歳を超えている方と話している感覚ではなかった。あとは弱者に対する優しい目線が印象的。彼女に対しては“経営の才がなかった”と語る関係者もいましたけど、あのまま日本プロレスやリキ・ボクシングジムを続けていたら成功していたような気もします。ボクシングって意外に会長の奥さんとかが仕切っていることが多いんです。(帝拳ジムの)長野ハルさんなんてもうすぐ100歳になりますから」
敬子さんは、まごうことなき才女だった。学生時代はスポーツ万能で健康優良児の神奈川県代表に選ばれ、横浜開港百年記念英語論文で特等賞を獲得し、卒業後は260倍という超難関を突破して日本航空の初代CAとなる。そんな良家の子女が力道山と結婚することになるのだから運命はわからない。
力道山は結婚と離婚を3回繰り返しており、子供も3人いた。民族の問題も横たわっている。さらには興行の世界に生きる者として、裏社会との密接な繋がりも囁かれていた。敬子さんの父は神奈川県警の警視だっただけに、反対の声も多かったことは想像に難くない。
「きっかけは力道山の猛アプローチでした。ロスで密会を繰り返す中で敬子さん自身も力道山に惹かれていくわけですけど、決定打になったのは大谷ユキエさんという親戚の一言。“結婚ってギャンブルと一緒よ”と敬子さんに囁いたらしいんですね。敬子さんはこのユキエさんに全幅の信頼を置いていて、進路のアドバイスも全部聞いていたくらいですから。力道山と一緒になることで自分の人生がどう転がっていくのか、ワクワクするような期待感もあったと語っていました」
当時のJALでは、結婚した女性社員は退職する決まりになっていた。もともと外交官を志していた敬子さんは、英語も堪能で、ゴリゴリのキャリア志向。散々苦労してCAになったのに、あっさり1年で辞めてしまうのは、さすがにもったいない気もするが──。
「1985年に男女雇用均等法が成立したんですけど、それ以前の女性は本当に気の毒だったと思うんですよね。今の若い人たちが知ったら信じられないはずです。ただ一般的に頭がいい女性って、人間的なスケール感が大きくて、夢を追い続ける人に惹かれる傾向があるんです。外交官として世界の空を飛びまわるのと、力道山の妻になるというのでは、意味合いはまったく違うけど、話のスケールとしては同じくらい大きいわけですから」
こうして“戦後復興のシンボル”力道山の妻となった敬子さんだが、その幸せはあまりにも短かった。わずか半年で、夫は鬼籍に入ったのである。
【後編はこちら】男社会と裏社会の荒波に揉まれた力道山未亡人の半生、借金30億円を抱え悪戦苦闘
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