阿部公房の怪作を現代に蘇らせた映画『箱男』、永瀬正敏、浅野忠信が魂の演技
エンタメNEXT / 2024年9月15日 11時30分
(C)2024 The Box Man Film Partners
永瀬正敏、浅野忠信らが出演する話題の映画『箱男』が現在公開されている。
【写真】永瀬正敏&浅野忠信が魂の演技、映画『箱男』【2点】
日本を代表する作家・阿部公房の同名小説の映画化である今作は、今までにも何度か映画化が模索されてきた。
1997年には、ドイツと合作で制作するという話もあり、実際にセットまで組んでいた。結局のところ、それもボツになってしまい、挫折の連続であったのだが、ついに『狂い咲きサンダーロード』(1980)や『パンク侍、斬られて候』(2004)などで知られる鬼才・石井岳龍の手によって完成するに至った。正に石井監督の人生をかけた執念の作品といえるだろう。
ちなみに「箱男」は、1994年に名作文学を短編化するフジテレビの「文學ト云フ事」のなかで、一度映像化がされているが、こちらは25分程度で、官能的なアプローチの方が強かった。ところが今作は、阿部公房の、映画化する際には文芸映画ではなく、娯楽映画にしてほしいという想いを石井テイストで2時間の長編エンタメに仕上げたものとなっている。
阿部公房の作品は、1960~70年代にかけて多くの作品が映像化されてきた。例えば『砂の女』(1964)は、第37回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたことでも知られているし、世界的に知られている文豪のひとりではあるため「箱男」という作品も世界的に知られている。しかし映画としては、1971年の自主映画『時の崖』以来となるため、今作は半世紀ぶりの映画化作品となるわけだ。
もともと箱男は、実際に箱をかぶって生活していたホームレスに遭遇したことから着想を得たものであり、そこには、90年代から急増したホームレスを予言したかのようなディストピア感も漂っている。しかし、外の世界を遮断し、自分の世界のなかで生きる箱男という存在は、インターネットやスマホ依存、ひきこもりなど現代社会にも当てはまるテーマであることから、古臭さなど一切感じさせない。
懐かしさは確かにある。それは、永瀬正敏と浅野忠信という、『五条霊戦記 GOJOE』(2001)や『ELECTRIC DRAGON 80000V』(2001)といった、石井監督の作品に実際に出演していたふたりが主体という点で、いかにもアングラ日本映画を思い出させるキャスティング効果もあるかもしれないし、全体的な色彩や独特の雰囲気もそう思わせる要因だろう。2000年代初期のアングラ映画を2024年の新作として観ている不思議な感覚になるはずだ。
単純に考えると、人間は常に何かに依存しながら生きているのだが、それが”箱”であったとしたら……。という視点から描いた作品ではあるが、今作における”箱”というのは、何にでも解釈できるものである。ストレートにダンボールをかぶって生活する変態な話として捉えるのもありだし、その箱を社会そのものや、私たちが手放せなくなっているパソコンやスマホを箱として捉えることもできる。
自分の感情や日常感から、別のキャラクターとして自身を切り離す行為としてサングラスをかけたり、マスクを被っているタレントやYouTuberもいるが、箱男という存在は、そこにも当てはまるはずだ。
“箱男”についての解釈は、人によって異なるし、それは観た時の環境によっても変わってくるだろう。極端なことを言うと、20年後に今作を観たとしたら、また違った感想になるかもしれない。
ダンボール箱をかぶった男のビジュアルはインパクトがあり、チープな中にもアート性を感じる唯一無二の存在感を放っている。しかしディープな世界観というギャップが凄まじいことから、決して万人受けはしない作品である。ただ確実に言えることは、賛否どちらの意見を持ったとしても、強烈な映画体験を脳裏に刻み込む作品ということだ。
【ストーリー】
『箱男』 ――、それは人間が望む最終形態、すべてから完全に解き放たれた存在。ダンボールを頭からすっぽりと被り、都市を徘徊し、覗き窓から一方的に世界を覗き、ひたすら妄想をノートに記述する。カメラマンである“わたし”(永瀬正敏)は、街で偶然目にした箱男に心を奪われ、自らもダンボールをかぶり、のぞき窓を開け、遂にその一歩を踏み出すことに。しかし、本物の『箱男』になる道は険しく、数々の試練と危険が襲いかかる。“わたし”をつけ狙い『箱男』の存在を乗っ取ろうとするニセ医者(浅野忠信)、すべてを操り『箱男』を完全犯罪に利用しようと企む軍医(佐藤浩市) “わたし”を誘惑する謎の女・葉子(白本彩奈)......。果たして“わたし”は本物の『箱男』になれるのか。
【クレジット】
出演:永瀬正敏、浅野忠信、白本彩奈、佐藤浩市、渋川清彦、中村優子、川瀬陽太ほか
監督:石井岳龍
原作:安部公房「箱男」(新潮社)
脚本:いながききよたか、石井岳龍
製作:映画『箱男』製作委員会
製作幹事・配給:ハピネットファントム・スタジオ
制作プロダクション:コギトワークス
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公式サイト:https://happinet-phantom.com/hakootoko/
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