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クルド人ヘイトを煽る人々の正体は? その背景を雨宮処凛が解説

エンタメNEXT / 2024年10月27日 11時30分

クルド人ヘイトを煽る人々の正体は? その背景を雨宮処凛が解説

『移民・難民のわたしたち これからの「共生」ガイド』雨宮処凛著

ロスジェネ世代を代表する作家・活動家の雨宮処凛。デビュー以来、貧困や格差問題を追い続け、07年に出版した『生きさせろ!難民化する若者たち』はJCJ賞を受賞、また、今年2月に刊行した、社会保障を使いこなすコツや各種困りごとの相談先など、誰もが必要な情報を各々の専門家に取材してまとめた『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』が現在6刷のベストセラーとなるなど、精力的に執筆・活動を続けている。そんな雨宮氏の新刊は、今後、避けては通れない難民・移民問題をわかりやすく説明した『移民・難民のわたしたち これからの「共生」ガイド』(河出書房新社 『14歳の世渡り術』シリーズ)。なぜこの本を書こうと思ったのか、そして現場はどのような状況にあるのか。話を聞いた(前後編の前編)。

【写真】『移民・難民のわたしたち これからの「共生」ガイド』雨宮処凛著

近頃、メディアで取り上げられることの多いクルド人問題。トルコの少数民族であるクルド人が埼玉県川口市や蕨市に集住し、地元住民との軋轢が表面化しているとされている。XやYoutubeなどのSNSでは、暴走をする車の様子や、解体作業現場で危険な行為をおこなっている画像をクルド人だと指して非難する投稿も目立つ。その一方では川口市長が、「仮放免」のクルド人に対して、人道的立場から行っている支援の費用を国が手当てするよう求めるなど、クルド人側に寄り添った態度を示すなど、温度差が感じられる。現地はいったいどんな状況にあるのか。実際に足を運んで取材を重ねてきた雨宮氏はこう語る。

「2013年頃に東京の新大久保で過激な嫌韓デモが頻繁に行われて、ヘイトデモだと問題となりました。その後、神奈川県の川崎市に住む在日コリアンもターゲットにされ、排斥デモや街宣が多く行われていた。ただ、川崎市に関しては2020年、全国初のヘイトスピーチに刑事罰を科す条例が施行されたこともあり、ヘイトデモは解消されつつあります。

その二つの都市でヘイトデモをしていた層とかぶる人たちが2009年、蕨市でも排斥デモを行っているんです。蕨市に住むフィリピン人一家の在留資格に関わる問題がメディアを巻き込んで話題になった際、その長女が通う中学校の前で行われた排斥デモが、蕨市内での初のヘイトデモではないでしょうか。そしていま、クルド人問題でヘイトを扇動しているのも同じ層。その前は中国人差別を扇動していたのですが、次のターゲットとなったのがクルド人というわけなんです」

クルド人問題に注目し、「悪い面」ばかりをフィーチャーしてSNSで広めることで、人々の不安を煽り、憎悪を高めていこうという運動が存在しているのだ。しかし雨宮氏は警鐘を鳴らす。

「川崎市では差別的な言動への罰則として、50万円以下の罰金を定めています。また、市長からの勧告を受けて、行政処分を受けたにもかかわらず、なお禁止規定に違反した場合、氏名が公表されて、警察や検察に刑事告発されることもありうる。それだけでなく、メールなども脅迫罪になることがあります。実際に足立区に住む男性がクルド人の支援団体に『クルド人皆殺し万歳』といったメールを送った結果、身元を特定されて脅迫容疑で書類送検されています。だから、いまネットのクルド人ヘイトを真に受けて行動すると、書類送検などをされて人生が終わる可能性もあることを覚えておいて欲しいです。というか、ヘイトデモを見て、デモ隊の人たちの言い分を真に受ける人はほぼいないと思いますが、ネットだと真に受けてしまう人がいる。その怖さに気づいて欲しいです」

本人は義憤に駆られたつもりが、世間的にはそれはヘイトといわれる行為に当たる。当の本人にとっては青天の霹靂かもしれないが、社会では「ヘイト」は許されない行為なのだ。



「この一年ほどのクルド人ヘイトには、病院事件というきっかけがあります。2023年に、男女関係のもつれがきっかけで、約100人のクルド人が川口市立医療センターに集まったという騒ぎがありました。その様子が動画などで拡散され、以降、急速に『埼玉の一部のクルド人はやりたい放題だ』などと広まるようになりました。

SNSでそれらの投稿を目にした人たちは、裏に意識的にヘイトを煽っている存在がいるなんて思いもしない。もしもわかっていたら引っ掛からないはずなのに、そこが巧妙に隠されているから、信じ込んでしまう人もいる。SNSにはクルド人のトラックの過積載とか、危険運転している、とかの動画が出回っていますが、調べると違う都市のナンバーだったということもあれば、運転手そのものが映っていなくて、クルド人とは断言できないことも多々ある。

先日、クルド人へのヘイトスピーチ問題に関する集会に行って驚きました。今、クルド人たちはスマホを恐れているというんです。それは彼らが働いている現場やコンビニの前にいるところを勝手にスマホで撮る人がいるから。YouTuber的な人でしょうか。それで『こいつらがレイプしてる』というデマをSNSで拡散する。こうしてクルド人はみんな犯罪者というような偽情報が拡散していく。地元の人たちが耐えかねて声をあげているんではなく、ヘイトの矛先がクルド人に向かっているのが実状なんです。もちろん、地元との軋轢や犯罪もゼロではないでしょうが、この30年間、クルド人は日本社会で解体の仕事を担って暮らしてきました」

そもそも「国を持たない世界最大の民族」と呼ばれるクルド人は、なぜ日本に移民・難民として訪れることになったのか。その理由のひとつが川口・蕨にいるクルド人の多くがトルコ出身であることに関連している。本書から引用して紹介する。

1980年代なかばから90年代にかけて、トルコからの分離独立を求めるクルド人の武装組織・PKK(クルディスタン労働者党)とトルコ政府との対立が激しくなったことから、PKKとは無関係のクルド人であっても協力者として疑われたり、闘争に巻き込まれたりする危険性が高まり、国外に逃げる人が増えた。

国際連合によると、2011年からの10年間で世界各国で約5万人のクルド人が難民認定されてるという。(『難民・移民のわたしたち これからの共生ガイド』P112L10‐P113L4)

「だから『帰れ』といわれても帰る場所なんてないんです。トルコに帰ったら刑務所に入れられたり、徴兵されて同じクルド人に銃を向けることを強制されることになるかもしれない。国外逃亡して日本に来て難民申請をした、という事実がある時点で、戻ると身の危険がある人もいます。それに幼い頃に日本に連れてこられたり、日本で生まれた子どもたちは母国の言葉がしゃべれないこともあるし、すでに日本の文化に馴染んでいる。母国に帰ったところでまた別の困難が待ち受けています」



が、日本で難民として認定されることは、ほぼほぼ無理に等しいという現実もある。

「日本でこの約15年で難民申請をしたトルコ国籍の人は約9700人。そのほとんどがクルド人だと思いますが、認定されたのはたったひとりです。難民認定がされれば、働けるし、健康保険にも入れる。でも日本の難民認定率は1〜2%。ほとんど却下されます。

『日本で働くために何度も難民申請してる』と言う人もいますが、現在、難民申請を複数回してる人は基本的に働くことができません。そうなると、入管施設への収容を一時的に解かれている『仮放免』という状態になるんです。が、仮放免だと住民票も健康保険証もない。銀行口座も持てないし、そもそも働くことも禁止。もちろん生活保護も利用できない。『外国人は生活保護を受けやすい』という誤解がありますが、そもそも生活保護は日本国籍の人のみが対象で外国人は準用扱い。基本的に定住・永住の人のみが準用の対象で、生活保護を受けている人のうち、日本人96・7%に対して、外国人は3・3%」

そんな状況でどうやって生きていくのか。後編は移民と難民との違い、また難民の抱える問題について語っていただく。

構成/大泉りか

【後編はこちら】日本政府の移民難民対策が謎すぎる、クルド人問題の根幹を雨宮処凛が語る

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