小泉今日子&小林聡美主演、考察も怒涛の展開もない…令和ドラマの逆を行く『団地のふたり』誕生秘話
エンタメNEXT / 2024年10月20日 6時0分
NHK「団地のふたり」
目まぐるしい展開のドラマが多い昨今、9月1日から放送開始した連続ドラマの『団地のふたり』(NHK BS系、日曜22時~)はそんな時代に逆行するかのように緩やかな雰囲気が映し出されている。本作は藤野千夜氏の小説『団地のふたり』(U-NEXT)が原作。同じエリアの団地に住む幼馴染の太田野枝(小泉今日子)と桜井奈津子(小林聡美)の日常を描いたホームドラマだ。団地を舞台にしており、どこか昔懐かしさを覚えつつも、中高年女性が直面するリアルも丁寧に描く。そんな現実離れしない地に足の着いたストーリーに魅了される人は多い。不思議な癒しを与える本作の制作統括を務める八木康夫氏に、ドラマ化の経緯や制作秘話など話を聞いた。
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まずドラマ化した経緯として、「原作を読んだ時、その世界観があまりに素敵だったので、『ドラマにできないか』と思ったことが最初です。とはいえ、現在の民放では成立しにくいと考えました。そこでNHKで年に年数回実施しているドラマの企画募集に、小泉さんと小林さんに快諾してもらったうえで、『この2人をメインでドラマ化したい』と応募しました」と振り返る。本作は恋愛模様や怒涛の展開、昨今流行っている考察要素もない。そのため、民放でのドラマ化は難しいと判断し、NHKに狙いを定めたようだ。その後、無事にドラマ化が決まったものの、視聴者に受け入れられるのかは不安があったという。
「昔のテレビドラマのほとんどはホームドラマでした。ホームドラマは人を殺したり、事件を起こしたりなどの表現が難しく、いかに日常のディテールを作品に落とし込むかが腕の見せ所でした。ただ、最近のドラマは視聴者を飽きさせないため、刺激的に描く傾向が強く、昔からドラマが好きな人々からは『見たいドラマがない』『今のドラマはついていけない』という意見がよく聞かれます。そういった声が一定数あることを理解しつつも、『ホームドラマは今求められているのか?』『大した事件は起きないけど見てもらえるのか?』という不安はありました。それでも、放送後はSNSに前向きな感想が多く寄せられて嬉しいです」
ちなみに、メイン2人のキャスティングの背景を聞くと、「小泉さんと小林さんはドラマ『すいか』(日本テレビ系)をはじめ、映画『マザーウォーター』などで度々共演しており、原作を読んだ時に『小泉さんと小林さんをメインなら面白いだろう』とすぐに浮かびました」と。
「また、原作の長さを考慮すると10回まるまる原作通りとはいかず、ある程度オリジナル要素も加える必要があります。最後まで原作の良さを示しつつ、クオリティの高い作品を届けるためには『キャスティングがとても大事なドラマになりそうだ』と考え、小泉さんや小林さんをはじめ、そのことを念頭に置きました」
「オリジナル要素」という言葉が出たが、シングルファーザーの田川賢一(塚本高史)や2人の子供を育てるヤンママの鈴木沙耶香(田辺桃子)など、本作は原作には登場しないオリジナルキャラが多く出てくる。その狙いについて、団地を“世の中の縮図”として描きたかったからだと話す。
「例えば、第4回に同性愛者の森山龍之介(ムロツヨシ)が登場しますが、それは昨今セクシャルマイノリティが注目されているからではありません。セクシャルマイノリティに対する世間の理解が深まっていますが、同性愛者という理由だけで民間の賃貸には住めずに団地にしか住めないケースは珍しくない。そうした現実を反映させたかったんです」
登場人物は高齢者が多い中、シングルファーザーや外国人も登場する。確かに少子高齢化だけではなく、多様性が進む今の日本の縮図のように思う。団地を通して日本の現実を映し出していることも、視聴者を魅了している要因なのかもしれない。
リアルさを覚えるのはセットも同じだ。団地らしい狭い部屋が再現されているが、八木氏は「団地の部屋は実寸大にしています」とセットへのこだわりを口にする。
「民放ドラマを見ていると、『働き始めの若者がこんな広い部屋のアパートに住めるはずがない』と思うことは少なくありません。そういった違和感が少しでも浮かぶと、登場人物に感情移入しにくくなるため、リアリティを追求しました。ただ、リアルさを保ちつつも、登場人物の“センスの良さ”を感じ取ってもらえるように装飾品にも気を配り、そのおかげで素晴らしいセットが完成しました」
制作陣が細部にまでこだわってドラマ制作に取り組んでいることが伝わるが、それは役者陣も同様だ。
「第5回で、沙耶香が子供をママチャリに乗せて爆走する様子を、住民に頼まれて網戸を交換している最中の野枝と奈津子が目撃するシーンがあります。実は、当初の台本では2人は網戸を持っていなかったのですが、小泉さんと小林さんから『網戸を持っていたほうが良いのでは?』と提案していただき、それを採用しました。野枝と奈津子は第1~2回で他の住民達から網戸交換を依頼されており、第5回でも引き続き網戸交換をしている2人を見て楽しんでくれた人の声がSNSに多く寄せられました。2人の協力的な姿勢にはとても助けられています」
登場人物が歌を口ずさむシーンも印象的だ。ただ、もともと歌をフィーチャーする意図はなく、これも役者陣の“アイデア”が影響しているという。
「第1回で野枝と奈津子が松山千春さんの『季節の中で』を歌うシーンがありましたが、台本では1フレーズのみでした。2人が1コーラスまるごと歌ったため、『面白いから1コーラスそのまま使おう』となりました。第4回でも堺正章さんの『さらば恋人』を2人が歌っていましたが、そこも当初はあまり長く使う予定はなかったです。それでも、最初はユニゾンで歌っていたのが途中からハモリに変わり、あまりに素敵だったため『せっかくなので多くの人に見てほしい』という思いから、シーンを伸ばしました」
歌が印象的な作品になっている要因は、現場の創作を楽しむ気持ちと役者陣の遊び心がもたらせたのかもしれない。
そして、残り数回となった『団地のふたり』をどのように視聴してほしいのかという質問には、「原作者の藤野さんは本作を『令和版サザエさん』と話しており、『サザエさん』のように誰でも安心して視聴できるドラマになっています。1人ではなく誰かと一緒にあれこれ言いながら見てほしいですね。それこそかつてホームドラマを見ていた時のように」と語った。
派手さや急展開のないドラマながら、細やかな演出と役者陣の遊び心により、心に深く残る作品に仕上がっている本作。どんな温かさや驚きが待っているのか、最後まで目が離せない。
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