第37回東京国際映画祭作品を紹介『お父さん』『トラフィック』『マイデゴル』『叫び』
エンタメNEXT / 2024年11月2日 16時0分
『お父さん』 ©Word By Word Limited
10月28日~11月6日の10日間開催されている第37回東京国際映画祭。ラインナップから抜粋したおすすめ作品を紹介します!
【写真】第37回東京国際映画祭注目作品
■『お父さん』
ふたつの意味で家族を失った父親の心情がとにかく辛い
清水崇がプロデューサーを務めた「霊幻道士」のダークリブート『キョンシー』(2013)の脚本家としても知られるフィリップ・ユン。警察組織と裏社会の癒着を描いた『風再起時』(2022)が、去年の香港映画祭で上映されたのも記憶に新しい。
そんなユンが2010年に香港を震撼させた”荃湾母妹殺人事件”を題材に、自分の息子が妻と娘を殺害、つまり被害者親族であり、同時に加害者親族でもある父親の視点から、なぜ息子が事件を起こしてしまったのか、家族として赦すことができるか…といった、極限設定の重圧な人間ドラマを描いた最新作。
フラッシュバックされるかつての幸せ(だったはず)な日々、妻の出産、息子との自転車の練習など、ホームビデオのような映像が切なく、どこで間違ってしまったのかと、取り返しのつかない現実に苦悩する様は、人の親であっても、そうでなくても観ているだけで辛い作品だ。
【作品情報】
監督/脚本:フィリップ・ユン
出演:ラウ・チンワン、ジョー・コク、ディラン・ソウ
■『トラフィック』
ルーマニアの社会問題を容赦ない切り口で描く
社会派な作品を得意とするルーマニア出身のテオドラ・アナ・ミハイの長編3作目。
長編デビュー作となったドキュメンタリー映画『Waiting for August』(2014年)では、海外で働かなければならなくなった母親のかわりに、ルーマニアで6人の弟と妹たちを育てなくてはならなくなった、15歳の少女を通して、ルーマニアの社会格差を浮き彫りにした。
長編2作目となる『母の聖戦』(2021)は、第34回でも『市民』というタイトルで上映され、のちに劇場公開もされた。メキシコの悲惨な人身売買事情を、誘拐された娘の母の視点から容赦なく描いたスリリングな作品であったが、今作はテオドラの出身地でもあるルーマニアに舞台を戻し、夢敗れた若い夫婦の視点を通して、西欧と東欧との経済格差の問題に切り込んだ作品となっている。
【作品情報】
監督:テオドラ・アナ・ミハイ
脚本:クリスティアン・ムンジウ
出演: アナマリア・ヴァルトロメイ、イオヌツ・ニクラエ、ラレシュ・アンドリッチ、トーマス・リケワート、アリス・ベアトリス・ムニョス・ミハイほか
■『マイデゴル』
奇抜なアート系作家が映し出したイランのZ世代のリアル
イランに暮らす、プロのムエタイ選手を目指すZ世代の女性を追ったドキュルンタリー作品。
保守的な概念やしがらみなどに立ち向かっていくという点では、第36回で上映された『タタミ』(2023)もイランの女子柔道選手とコーチの視点を通して描いている点では共通したテーマだ。製作国は様々ではあるが、こういったイラン女性を主人公とした作品は年々増え続けている。そんな動きから、映画が社会を動かすものとして機能していることが強く伝わってくる。
ドキュメンタリー作家であると同時に絵画のアーティストとしても知られているサルヴェナズ・アラムベイギだけのことはあり、着眼点が毎回奇抜。ドキュメンタリーでありながらも、アートのような構図を感じさせるのは、サルヴェナズ作品ならでは。
『Tomorrowland』(2017)のような壮大な宇宙をテーマとした作品もあるが、今作は割とストレートなテーマで、自らの権利を主張するZ世代の強さを映し出していた。
【作品情報】
監督/プロデューサー/脚本:サルヴェナズ・アラムベイギ
■『叫び』
MV監督の経験が存分に活かされたスペイン・ホラー
TIFFの上映作品のなかには、現実社会そのものがホラーのように扱った作品は多いが、ストレートなホラーもたまに上映されている。とくにスペインやメキシコなどのラテン系ホラーは、この機会を逃してしまうと、なかなか観れないものも多い。
今作は、“何か”に尾行されている恐怖を、一見無関係の3人の女性の視点で描いた心理ホラー。『理想郷』(2022)や『ゴッド・セイブ・アス マドリード連続老女強姦殺人事件』(2016)など、ロドリゴ・ソロゴイェン作品でお馴染み、他にもNetflix映画『檻の中』(2022)など、神経逆なで系作品が得意なイザベル・ペーニャが脚本を務めているのは注目すべき点だが、一番特徴的だったのは、独特の映像センスだ。
リアリティー番組やザ・ウィークエンド「Secrets」のミュージックビデオを手掛けたペドロ・マーティン=カレロの長編初監督作品だけのことはあり、スタイリシュな構図からは、MVの経験が存分に活かされている。
【作品情報】
監督/脚本:ペドロ・マーティン=カレロ
エステル・エスポジート、マチルダ・オリヴィエ、マレーナ・ビージャ、アレックス・モネ、ソニア・アルマルチャほか
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