クロちゃん×小田原ドラゴン初対談「友達を亡くすということ」【1】共通の友人への鎮魂歌
エンタメNEXT / 2024年11月18日 6時0分
小田原ドラゴン クロちゃん 撮影/松山勇樹
ギャグ漫画家で、近年は愛犬や車内泊をテーマにした作品でも支持を集める小田原ドラゴン。そんな彼の漫画に高頻度で登場したライター・石川キンテツさんが、今年7月に亡くなった。キンテツさんをめぐっては、クロちゃん(安田大サーカス)も“キャバクラ仲間”として行動をともにすることが非常に多かったという。本企画は、クロちゃんの「どうしても小田原ドラゴン先生とキンテツについて話したい」という思いで実現。“愛すべきクズキャラ”として一部でカルト的な人気を誇ったキンテツさんへの2人なりのレクイエム。できうる限りノーカットでお送りするため、3回にわたるが、ぜひ最後まで読んでいただければ(前中後編の前編)。
【写真】小田原ドラゴンが描いた石川キンテツのイラスト
──今回はクロちゃんのキャバクラ仲間であり、小田原ドラゴン先生の漫画作品にもしばしば登場する石川キンテツさんの追悼対談となります。お2人は今日が初対面なんですか?
小田原 そうですね。もちろんクロちゃんの話はキンテツからよく聞いていましたが。
クロちゃん いきなり「キンテツ」とか言われても、この記事を読んでいるほとんどの人は意味がわからないと思うんです。そのへんを説明するためにも、まずは俺とキンテツの出会いからお伝えしますね。
──大変ありがたいです。
クロちゃん あれはたしか28~29歳くらいのときだったかな。今から15年くらい前ですよ。当時、安田大サーカスは文化放送でラジオ番組を持っていて、そこの(放送)作家さんとよくキャバクラに行っていたんですね。そうしたら、その作家さんが「キャバクラの師匠がいるので、ぜひクロちゃんにも紹介したい」と言ってきたんです。その頃は文化放送も四谷にあり、とりあえず新宿の『NOW』というお店に向かいました。
小田原 『NOW』か……。懐かしいな。僕もキンテツと一緒に行ったことがあります。
クロちゃん お店の前には角刈りの大男がいて、それがキンテツだったんです。キャバクラの師匠と呼ばれるわりにはモテる要素もなさそうだし、奇妙な印象を受けましたね。そして「外は寒いので、とりあえず店内に入りましょう」ということになりまして。すると奴はいきなり「僕はこういう者でして……」と『小田原ドラゴンくえすと』(小学館)の単行本を渡してきた。「石川キンテツ」という自分の名刺を渡す前に、ドラゴン先生の漫画を差し出してきたんですよ。
──知らない人のために説明すると、『小田原ドラゴンくえすと』はドラゴン先生とキンテツさんが様々なスポットを訪問するルポ漫画です。
小田原 でもクロちゃんとキンテツが『NOW』で最初に会ったとき、おそらく僕とキンテツは絶縁関係にあったはずです。絶縁は2回しているんですけど、1回目の絶縁期じゃないかな。
クロちゃん 俺もキンテツとは絶縁したんですけど、ドラゴン先生は2回も絶縁したんですか(笑)。
小田原 1回目の絶縁は、それこそ『小田原ドラゴンくえすと』が原因だったんです。あの男、とにかく仕事しないんですよ。最初のうちこそ真面目にやっていたんですけど、途中から待ち合わせに遅刻してくるわ、決められたレポートを提出しないわ、サボリ癖が目に余るようになりましてね……。それで「もう辞めてくれ」って自分から伝えたんです。
クロちゃん ひどい話だなぁ。ただ、俺がキンテツから聞いていた話とは全然違いますねー。
小田原 ん? どういうことですか?
クロちゃん 俺が聞いた絶縁の理由は、キンテツがよく指名していたキャバ嬢への告白をドラゴン先生が漫画で誌面に載せたんですよね。それによってキンテツとキャバ嬢の恋は引き裂かれたと。「せっかくイイ感じになっていたのに……」と怒っていましたよ。ドラゴン先生に対しては「もうしゃべりたくもありません!」とか吐き捨てるように言っていましたし。
小田原 身の程を知らないんですよね(笑)。漫画化の件がなかったら恋人になれていたって本気で信じていましたから。最初から可能性がなかったのは一目瞭然なのに。
クロちゃん ただ、そのときは俺もキンテツの性格を理解していなかったですからね。奴が言うことを鵜呑みにして、小田原ドラゴンというのは相当ヤバい人なんだと思い込んでいました。“人の領域に土足でズケズケ入り込んでくるデリカシーのない漫画家”みたいなイメージを植え付けられましたよ。キンテツに対しても、さすがに可哀想だなって同情していましたし。
──ただ、2人の話には矛盾点がありますね。ドラゴン先生の話だと「仕事をサボるから絶縁を突きつけた」。一方、クロちゃんがキンテツさんから聞いた話は「自分の恋路を漫画で邪魔されたから絶縁してやった」。主語が入れ替わっていませんか?
クロちゃん そうそう、そこもポイントなんですよ! あいつは妙にプライドが高くてなぜか上から目線なので、いつの間にか立場が真逆になっているんです!
小田原 人を見下すようなところがあって、そこがイラっとさせられるんです(笑)。腹立たしかったのは、僕が指名しているキャバ嬢のことをボロカスに言ってきたんですよ。その子は田舎から出てきた素朴な感じの雰囲気だったんですけど、コキ下ろしてきて……。
クロちゃん 身の丈にあっていない発言が目立ちますよね。
小田原 いちいち不用意なことを口走るんです。僕に向かって「漫画を描くのなんて簡単だ」とか……。
クロちゃん うわ~、目に浮かぶようだなぁ。それでいうと、僕の可愛がっていた芸人で、とっくんという後輩がいたんですよ。もう今は引退しちゃったんですけどね。そのとっくんが僕と一緒にジムに行ったり、遊んだりしている様子をキンテツは見ながら、「そんなことしている暇があるのか? あいつはもっともっと頑張らなくちゃいけない時期だろ」とか言ってくるんです。しかも、何度もしつこく!
──キンテツさんなりに檄を飛ばしていたとか?
クロちゃん いや、そんな立派なものじゃないと思います。とっくんは池内屋というコンビを組んでいたんだけどピン芸人になって、そんな中でいろいろ必死に模索していたんです。キンテツはそういう部分を何ひとつ知らないで小言を言ってくるものだから、さすがに俺もキレましてね。最初は「キンテツ、そんなこと言わなくていいからね」だったのが、そのうち「そんなこと言わないでくれ」に変わって、最後は「お前、二度とそんなこと言うんじゃねぇ!」と。キンテツって人をカチンとさせる能力が尋常じゃなく高いんですよ(笑)。
小田原 話を聞いているだけでもイライラしてくる(笑)。
クロちゃん あと覚えているのは、キンテツのお気に入り指名嬢に向けて動画を撮らされたこと。「これからもキンテツくんと仲良くしてあげてね~。クロちゃんとの約束だしんよ!」とか。それを雑居ビルの裏みたいなところで撮ったんですけど、何度もリテイクさせられて(笑)。「今のは少し感情が入っていなかったですね。もう1回やってみましょうか」とか、ノーギャラなのに、めちゃくちゃ要求レベルが高いんです!
小田原 僕も結構イラストとか描きましたけど、1回もお金はもらったことないです。
──いきなりキンテツさんらしいエピソードのオンパレードですが、それぞれ2人ともキンテツさんと濃密な時間を過ごしたことは間違いないはずです。今だから明かされる素敵な思い出はないんですか?
クロちゃん 素敵な思い出ねぇ……。ドラゴン先生、何かあります?
小田原 素敵な話は思いつかないけど、信じられないくらいアホだなと呆れたことは何度もあります。キンテツって景気のいいときは年間200万~300万円くらいキャバクラに使うと豪語していたんですよ。それだけ通いまくっていたにもかかわらず、結局、死ぬまでキャバ嬢の“営業”という概念を理解していなかった気がします。
クロちゃん 全部、真に受けちゃいますから。
小田原 「池袋に絶対ヤレるキャバクラがあるから行きましょう!」って誘われたことがあるんです。話を聞いてみると、どうやら前にキンテツと一緒にお店に行った人が初日で良いことがあったらしくて。でも、それって単純にその人がモテるだけという可能性が高いじゃないですか。「俺らが行ったところで何も起こらんよ」って伝えたんですけどね。コーフン状態にあったキンテツは「いや、でも僕は目撃したんです!」って一切聞く耳を持たなくて……。
クロちゃん 目撃って……。ツチノコじゃないんだから(笑)。
小田原 案の定、お店は普通のキャバクラで、いつものように2人でトボトボ帰りました。
クロちゃん 何でも自分に都合よく解釈する才能がありましたね。
小田原 他人には厳しく、自分には大甘という。
クロちゃん 俺がア然としたのは、夜のセクシーなお店での立ち振る舞い。キンテツ、女の子には触れないんです。「これがモテる秘訣なんです」とか言って。
──それは一種の騎士道精神なんですかね?
クロちゃん おそらくそうだと思います。キンテツなりにダンディズムを演出していたんじゃないですか。もちろんそれで女の子とデートできたりするわけではないんですけど。
小田原 でも話を伺っていると、キンテツと一緒にキャバクラに行った回数は僕よりもクロちゃんのほうが圧倒的に多そうですね。
クロちゃん たしかに一時はすごい勢いで行ってました。無料案内所を活用しながら、1日で3軒とかハシゴしていましたし。キンテツは独自のキャバクラ理論を持っていて、少し郊外のほうが素敵な嬢に会えると。新宿や六本木といった激戦区で夢破れた女の子たちが、地元に帰ってきているという持論なんですけど。だからキンテツと2人、自転車で1時間半かけて吉祥寺のお店に行ったりもしましたね。
小田原 めちゃくちゃ仲良しじゃないですか(笑)。
クロちゃん 真夏だったので、店に着いた瞬間におしぼり3枚くらいもらって全身の汗を拭きました。うちらとしては『走れメロス』気分で「この情熱を見てくれ!」ってアピールしていたんですけど、今思えば汗臭くて気持ち悪い印象を与えたと思う(笑)。
▽くろちゃん
1976年、広島県生まれ。01年、団長安田、HIROとともにお笑いトリオ・安田大サーカスを結成。強面のルックスに女性のような甲高い声が特徴で、バラエティ番組『水曜日のダウンタウン』(TBS系)などで炎上騒動を起こすこともしばしば。アイドルやキャバクラにも造詣が深い。近著に『日本中から嫌われている僕が、絶対に病まない理由 今すぐ真似できる! クロちゃん流モンスターメンタル術30』(徳間書店)。
▽おだわら・どらごん
1970年、兵庫県生まれ。98年、『週刊ヤングマガジン』(講談社)の『おやすみなさい。』で初連載を果たすと、モテない男のペーソスを描いた作風で多くの支持を獲得。代表作『チェリーナイツ』(講談社)はドラマ化もされている。また『小田原ドラゴンくえすと!』(小学館)では、石川キンテツさんとタッグを組んで様々なスポットをレポート。近年は車内泊や愛犬をテーマにした作品をするなど、マルチに活躍している。
【中編はこちら】クロちゃん・小田原ドラゴン「友達を亡くすということ」愛すべきクズと過ごした青春時代と絶縁
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