有村昆が選ぶ、2024年マイ・ベスト邦画「俺たちは好きな映画を撮るんだ、という気迫を感じた」
エンタメNEXT / 2024年12月30日 14時35分
『十一人の賊軍』
映画コメンテーターの有村昆が、2024年に公開された「邦画」、Netflixなどの配信作品の中から個人的に面白かったベスト10を発表。一体、どんな作品がランクインしているのか!? 後編では5位から1位の発表。
【画像】有村昆が選ぶ2024年邦画ベスト10、5位~1位
●アリコンが選ぶ 2024年邦画ベスト10
5位『BISHU 世界でいちばん優しい服』
4位『極悪女王』
3位『侍タイムスリッパー』
2位『地面師たち』
1位『十一人の賊軍』
ここからはベスト5の発表です。まず5位は、ちょっとマイナーですが、『BISHU 世界でいちばん優しい服』という作品を選ばさせていただきました。
タイトルの「BISHU」は、愛知県美州市という世界三大毛織物の産地といわれる地域のことを指します。これでピンとくる方もいるかと思いますけど、この作品は町興しのために自治体や現地のフィルムコミッションが協賛している、いわゆる御当地モノ映画といえます。
ただ、すごく良質のドラマで、号泣必死の感動作なんです。主演は服部樹咲さんは、15歳のときに『ミッドナイトスワン』に出演してバレエを踊る子を演じて注目を集めた方です。『BISHU』では、史織という発達障害を抱えた女子高生役で、そのお父さんを吉田栄作さんが演じています。
この家族は、尾州でウールの織物工場を営んでいて、ちょっと経営に行き詰まっている。史織は苦手なことも多いんですけど、服のデザインが好きで、そのコンテストに出ることを決意します。でも、お父さんは人前に出るなんてとんでもないと止めるんですけど、でも史織は夢を掴むために奮闘する、というお話です。
これは、本当に涙が止まらなかったですね。ベタな作りといえばそうなんですけど、人の温かさというか、家族の絆や優しさを感じられる、すごく丁寧に作られた作品だと感じました。
僕がこの映画を見た時、隣に座っていたのが宮迫さんで、ふたりとも感動して、あまりにも良かったんでYouTubeでコラボ動画を作ってしまったくらいです。
服部樹咲さんの演技も必見。おそらく将来日本の映画界を背負って立つぐらいの大女優になると思います。
第4位はNetflixのドラマシリーズなんですけど、『極悪女王』。あまりに面白かったので、原案・脚本を担当された鈴木おさむさんにインタビューして色々聞いてしまったくらいです。
まず時代設定が80年代というのが絶妙ですよね。まだネットもSNSもなかったので、作り込んだエンターテインメントが通用する時代。プロレスラーも素の姿を見せないでいられたから、ファンもダンプ松本は本当に悪いやつと信じ込んで、長与千種との髪切りマッチでは阿鼻叫喚な事態を巻き起こした。だからこそ、その裏にあった壮絶なドラマを改めて描くことに意味があるんですね。
作品的にはキャスティングが絶妙です。ゆりやんレトリィヴァさんは、普段はふわっとしたところがありますけど、 ダンプ松本さん実はもふわっとしたタイプなんですよ。だけど、メイクしてリングにあがると迫力のある極悪になる。クラッシュ・ギャルズの剛力彩芽さんと唐田えりかさんもすごく良かったです。
このキャスティングには鈴木おさむさんが関わっていて、いろいろあった唐田さんを裸一貫で出直させることに意味があると思ったそうです。おさむさんが脚本を書いた『離婚しない男』という不倫ドラマに篠田麻里子さんを起用したときと似たアプローチですよね。
髪切りマッチの撮影では、長与千種役の唐田さんの髪の毛にバリカンが入っていきます。お芝居ですけど、唐田さんが実際に丸坊主にされたのは事実。そのリアルとフィクションが、ぐちゃぐちゃに混在するところがこのドラマのキーポイントだったと思いますね。
3位は『侍タイムスリッパー』。自主映画で単館上映からスタートして、全国公開となった奇跡の大ヒット作です。安田監督にお話を伺いましたが、低予算なので、撮影時は涙ぐましい努力の積み重ねだったようです。
東映の京都撮影所で撮ってるんですけど、京都の7~8月なんてクソ暑いので、普通は撮影をしないみたいなんですよ。監督はそこに目をつけて、そのスキマ時間にちょっと使わせてくれと頼み込んで、 めちゃくちゃ安い額で借りたとか…。
もちろんキャスト・スタッフはほとんどノーギャラ。監督は普段は結婚式場のVTRを作る仕事をしているので、カメラとか照明の機材はそれを流用して使ったそうです。
とにかく、この作品に関わった人たちの、映画にかける情熱がすごい。出来上がった作品も、自主映画とは思えないほど画作りが丁寧。最初はコメディなんですけど、後半から文字通りの真剣勝負になっていくという、ストーリーテリングも見事でした。
第2位は、またNetflixからですが『地面師たち』を選びました。いろいろな意味で、今年いちばん流行った作品。「もう、ええじゃないですか」という流行語も生み出しましたからね。
個人的には、第1話が特に面白かったですね。『オーシャンズ11』みたいに、仲間を集めて、それぞれに役割があって、みんなキャラが立っている。暴力や性描写を堂々と表現するというのもNetflix作品ならではだったと思います。
このような実際にあった事件を元にした映画というのは、ひと昔前はよくありましたが、最近ではコンプライアンスの関係でなかなか難しくなってるみたいです。そこを突破できるのもNetflixの強み。『地面師たち』『極悪女王』と立て続けにヒットしましたから、来年もさらに強力な作品を送り出してくれると思いますね。
栄光の第1位は『十一人の賊軍』です。東映の集団抗争時代劇を現代に蘇らせた、血湧き肉躍るアクション大作です。
その覚悟と気合いはハンパなくて、みんなドロドロになって暴れまくっていて、主演の山田孝之さん、仲野太賀さんは素晴らしかったし、あと阿部サダヲさんもヤバかった。
いまの日本映画というか、日本社会に足りない「熱」を感じましたね。
表現も踏み込んでいて、血は出るし、生首は飛ぶし、放送禁止用語が飛び交う。コンプライアンス問題とも被るんですけど、今作はそれを意図的に無視してやりきったことが称賛に値すると思います。
コンプライアンスばかり意識していると、通り一辺倒な金太郎アメみたいな映画しか生まれなくなってしまう。観客も、そんな優等生的な作品なら、わざわざ映画館まで見に行かなくてもいいかな、と思うはずです。
コンプラもマーケティングも重要ですが、石橋を叩いて渡るような、絶対に外さない映画ばっかりやっててもしょうがない。
『十一人の賊軍』は、俺たちは好きな映画を撮るんだ、という気迫を感じたし、その時代と逆行してる感じがすごく頼もしかったですね。
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