有村昆が2024年映画のワースト5を発表「ミステリーとしては凡庸な、いちばんつまらない結末」
エンタメNEXT / 2024年12月31日 11時30分
『スマホを落としただけなのに ~最終章~ ファイナル ハッキング ゲーム』
1年を振り返る季節、映画コメンテーターの有村昆が、2024年に公開された映画からワースト5を発表。一体どんな作品が並んでいるのか!?
【画像】有村昆が選ぶ2024年ワースト映画
アリコンが選ぶ、2024年ワースト作
第5位 『ナイトスイム』
第4位 『ソウX』
第3位 『流転の地球 -太陽系脱出計画-』
第2位 『スオミの話をしよう』
第1位 『スマホを落としただけなのに ~最終章~ ファイナル ハッキング ゲーム』
ベストを発表したら、ワーストも挙げざるを得ないということで、関係各所から怒られるかもしれないですが、今年観た映画の中で、あくまでも僕の好みに合わなかった作品を5本挙げていきたいと思います。
●ワースト5位 『ナイトスイム』
低予算ホラー作品を連発するブラムハウス製作による、いわゆる「呪いの物件」モノです。ある家族が移り住んだ中古物件にプールがついていて、そこになにかが潜んでいるというお話なんですけど、雰囲気ばかりで恐いことがあまり起こらない。それにテンポも遅くて、なかなか物語が展開しないんですよ。最初は静かに始まって、だんだん盛り上がっていくのかと思ったら、何かが起こりそうな雰囲気だけで、ラストもあまりスッキリしない。単純に脚本が退屈だし、演出力も足りないという感じですね。98分と短めの上映時間ですが、その割に長く感じられたというか、タイパの悪い作品だと思いました。
●ワースト4位 『ソウX』
ソリッドなシチュエーションと、恐ろしい仕掛けで人気の『ソウ』シリーズも、今年で20年目に突入、第10作目となりました。死のゲームを仕掛けるジグソウことジョン・クレイマーはとっくに亡くなっていて、その遺言とか、意思を継ぐ者が出てきてシリーズは続いていたんですが、今作は最初の『ソウ』と『2』の間の物語ということで、ジグソウが普通に出てきます。逆に言えば、ジグソウがここで倒されないのがわかっているので、緊張感が薄まってしまっている。こういうジャンルの映画としては致命的かもしれません。
それでも、とっくに賞味期限が切れてる『ソウ』シリーズを、なんとか続けようという意気込みは買います。だったら同じ材料でも違う味付けにすればいいのに、何も変わらない。あれをやるんだろうなって思ったら、ほんとに予想通りの展開で、もうわかったよ、という感じになってしまいました。
●ワースト3位 『流転の地球 -太陽系脱出計画-』
これは『三体』などを書いた劉慈欣の短編小説を映画化した、中国製作のSF大作。実はNetflixで配信された『流転の地球』の続編にあたり、しかも、その前日譚となります。中国では大ヒットしたという触れ込みの作品で、太陽系が消滅しそうなので、ロケットエンジンを使って地球を動かすという壮大な計画を描いているんですけど、これがけっこうキツかったですね。
登場人物が多くて、悲壮感が漂っているんですけど、肝心の地球移動計画がなかなか進まないんですよ。史上最大級の大コケ映画といわれたCGアニメ『ファイナルファンタジー』と雰囲気が似ていて、大きな話がゆっくり進むでいくので、ちょっと退屈なんですよ。
例えば『アルマゲドン』は、地球に隕石が衝突するのを防ぐという壮大なSFですけど、そういう大きな視点のお話と、作業員たちがなぜ命をかけるのかとか、親子の絆の話といった個人的でミニマムな視点があるから、気持ちが入って感動できるんですよね。
この『流転の地球』に関しては、本当に大きいところばっかりを掬っているから、どの目線で見ていいのかわからないし、まったく感情移入できない。やっぱりキャラクターというか、人間がしっかり描けてないと映画ってこんなにおもしろくないんだなって、改めて思いました。
●ワースト2位『スオミの話をしよう』
三谷幸喜さんは脚本家として大好きなんですよ。『古畑任三郎』は何回も観直してますし、大河ドラマの『新選組!』や『鎌倉殿の13人』も傑作で、本当に天才だと思ってます。
ただ映画監督としては、評価が分かれるところなんですよね。プロットやキャティングが非常に上手くまとまった作品もあれば、これは何がしたかったんだろうという作品もあって、どちらに転ぶかといった感じなんですか、今回はダメなほうでした。
これは違うなと思ったのは、舞台と映画の区別ができてないってこと。
三谷さんは舞台の脚本や演出をたくさん手掛けていて、名作をたくさん残している演劇人。それに、今回の映画はあえて舞台っぽく撮ったと公言しています。でも、結果的にそれになんの意味があったんだろうということですよね。
まず、セリフが舞台の間とテンションなので、ずっと違和感がある。それに舞台というのは、最初からステージが全部見えていて、そこで展開していくものですけど、この映画も豪華なお屋敷の中を登場人物がウロウロして、それをカメラが追いかけていく。でも、それだとやっぱりなんか退屈なんですよね。カメラの切り返しでパパっと繋いでくれたほうが、緊張感が出ると思うんです。
物語も、うーん…という感じでした。 長澤まさみさんが演じる、スオミというミステリアスな女性が失踪してしまう。そこでスオミの元夫たちが集まって、いろいろと話しあいながら、彼女は実際にはどういう女性だったのかという謎を解いていくわけです。
こういう主人公が不在で、まわりの証言で進んでいくお話は『桐島、部活辞めるってよ』とか、面白い作品がたくさんあります。『キサラギ』とかも、そのパターンですよね。
そこにミステリー要素があれば興味が深まってくるんですけど、本作はおじさんたちが集まって、ただごちゃごちゃと自分の話をしてるだけで、それぞれのつながりが薄いんです。
けっきょく、スオミという女性をこねくり回しすぎていて、結果的に魅力がないキャラクターになってしまっている。最後にスオミが出てきてもぜんぜん嬉しくないんですよ。オチもめちゃくちゃ弱くて、ミステリーとしては凡庸な、いちばんつまらない結末でした。
まさに、長澤まさみの無駄遣いですよね。これをやるならシャマランの『スプリット』くらいやってほしかったです。同じキャストで舞台でやれば面白かったかもしれないですけど、 映画としては完全に失敗作。最後のミュージカルも蛇足でしかなくて、なんだか寂しい気持ちになりました。
●ワースト1位『スマホを落としただけななのに~最終章~ ファイナル ハッキング ゲーム』
このシリーズ、最初のパート1はまだよかったんですよ。 主演が北川景子さんで、もはや大女優といえるキャリアなのに、本気の絶叫演技を見せてくれたりして、それが逆に新鮮でした。当時はスマホから個人情報を抜かれる恐怖とかを描いた作品はなかったし、設定的に目新しさもありました。
2作目の『囚われの殺人鬼』で、ちょっと雲行きが怪しくなってくるんですよ。天才的な頭脳を持つ猟奇殺人鬼とか、ハッカーとか、トラウマを抱えた刑事とかが出てきて、ライトノベルみたいなムードになってくるんです。
そして今回はその殺人鬼が脱獄して、因縁のある刑事が追いかけていくという展開になるんですけど、このドラマが非常につまらない。
まず殺人鬼が「次にこういう事件を起こして、こんなことをやってやる」と説明語りをするシーンがあって、実際にそのとおりに事件を起こすんです。それを警察側が追って、「やられた! ヤツの狙いはなんなんだ!」とか大慌てしている。
それが何度も繰り返されるので、観ている観客としては冷めまくるわけです。だって、事件の内容が全部わかってるし、「先を越された!」とか言ってるけど、犯人がそう仕向けて先回りしてるのも知ってるから、なんの驚きもない。
例えばシャーロック・ホームズや名探偵コナンのような推理モノなら、犯人や事件のあらましがわからない面白さがあるわけです。コロンボとか古畑任三郎だったらその逆で、犯人はわかってるけど、そのアリバイをどう崩していくかという部分に面白さがある。
犯人が事件を起こして、うわーやられたを繰り返すだけでは、なんのドキドキもない。もはや、わざとやっているのかもしれないですけど、だとしたら観客を舐めすぎですね。
【あわせて読む】有村昆が2024年邦画ベスト10を発表「俺たちは好きな映画を撮るんだ、という気迫を感じた」
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