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"島流し軍団"吉本 大宮セブンに支配人がかけた言葉「好きなことだけをやれ。お金はこっちで用意する」

エンタメNEXT / 2024年12月8日 11時11分

"島流し軍団"吉本 大宮セブンに支配人がかけた言葉「好きなことだけをやれ。お金はこっちで用意する」

タモンズ(左から大波康平、安部浩章) 撮影/西邑泰和 ヘアメイク/松本英子

2014年、新設された「大宮ラクーンよしもと劇場」に東京でくすぶっていた芸人が集められた。のちに「大宮セブン」と名付けられた若者たちは、「島流し」と揶揄されながらも劇場を盛り上げようと奮起する──。実話をもとにした映画『くすぶりの狂騒曲』が公開前から話題となっている。物語で主人公となっているタモンズの大波康平(42)と安部浩章(42)の2人を直撃し、波乱万丈の芸人キャリアを振り返ってもらった。(前・中・後編の中編)>>前編は下の関連記事からご覧ください。

【写真】『くすぶりの狂騒曲』のモデルになったコンビ・タモンズ

──『くすぶりの狂騒曲』は実話をもとにしているということですが、映画化するにあたって実際とは違う点もあるんでしょうか?

大波 完全なドキュメンタリーではないですからね。たとえば映画の中では、岡田義徳さんが演じる諸積翔真という男がベリーハックというコンビでくすぶっているんです。それで僕ら2人とトリオを結成しようと企てる。だけど、このベリーハックというコンビは実在しないんですよ。

──あれ? でも、タモンズが一時期3人になりかけたのは本当の話ですよね。

大波 そう、それは本当。実際に「トリオでやろう」と言ってきたのは僕らの同期で、今でもお笑いをやっています。だけど、映画の中ではお笑いを諦めて別の仕事に就いていますから。だから実話とはズレているんだけど、逆にそこが僕的にはめちゃくちゃリアルなところで……。というのも、今まで大宮セブンで10年間やってきて、僕らの周りでも夢破れて去った奴がいくらでもいたので。

安部 そうやな。大宮とは違うところでお笑いをやっている人もいるし、まったく違う業種で頑張っている人もいるし。

大波 「面白い」「絶対に売れる」って言われながら去っていった仲間が山ほどいた。本当に僕らはみんなの屍の上に立たせていただいているようなもので、その屍を凝縮したような人物が諸積翔真なんです。「あいつでもあるし、こいつでもある」みたいな人物像。

安部 映画では、僕ら大宮の芸人に対して「そんな無茶をしないでください」と注意する若い女性社員が出てくるんですよ。だけど実際はそんなスタッフはいなかったし、むしろ裏方さんぐるみで悪ノリするような感じでしたからね。結局、大宮がこれだけ盛り上がってお客さんが増えたのも、「なんでもやっちゃいましょう」って無茶やる僕らに寛容だった点も大きかったんじゃないかな。

大波 それは間違いなくあるだろうね。

安部 僕がここで言いたいのは「真実と違う! あんな厳しい女性マネージャーなんていなかった!」ということではないんです。メチャクチャやる僕らに対してツッコむ人がいるからこそ、映画として成立するんですよ。じゃなかったら、特殊な環境なんだということが観ている方に伝わらないじゃないですか。

大波 初代支配人に言われたのは、「お前らは好きなことだけをやれ。お金はこっちで用意するから」ってこと。「スポンサーを集めたりチケット売ったりするのは俺らの仕事だから」って何度も言われました。本来、興行ってチケットを売って人が集まらないと成り立たないものなんですよ。だけど、そこを度外視するような器の大きさがあったというか……。



安部 あの人がいなかったら、全員、離散していたと思います。普通にやっていてもお客さんは入らないものだから、支配人が地元企業の社長さんとかと仲良くなって、僕ら芸人は接待に駆り出されるんですよ。「ちょっと空いてるか?」とか言われて、お祭りの実行委員会のおじさんと飲んだりしてね。普通だったら「俺たちは芸人。そんな接待みたいな真似できるかよ!」なんて反発もあるんだろうけど、支配人自身が身を削ってやってくれているのがわかるので、みんな喜んで出席していましたよ。

大波 その支配人がすごいなと思ったのは、接待なのに相手側に合わせることを一切しないんですよ「とにかく自分たちが面白いと思うことだけやればいい」と言われて、その場が滑ってようが関係なし。接待というわりに、先方を喜ばせようという意識が最初からないんです。

安部 ひどいときはカレー屋でインド人の従業員相手に漫才やっていましたからね。そんなのウケるわけないじゃないですか(笑)。

──芸人たちの間では「支配人を男にしよう!」という意識があった?

大波 確実にありましたね。というか、今でもあります。号令がかかったら、全員が問答無用で集まると思いますよ。

安部 「大宮セブンとは何か?」「どうしてできたのか?」って考えていくと、結局、一番核となる部分を担っていたのは社員さんだったのかもしれません。

──これから『くすぶりの狂騒曲』を観る人に向けて、伝えたいことはありますか?

安部 僕らは芸人としてものすごく稀なケースだし、めちゃくちゃラッキーだったと思うんですよ。実力があっても売れなくて辞めた仲間もいっぱいいて、そんな中で僕らはたまたま大宮セブンのおかげで延命できたし、配信とかの流れに乗れたから、どうにか食えるようになったというだけであって……。だから、この映画を観て「芸人ってすごいな。頑張ったら報われるんだな」なんて思ったら大間違い。ましてやこの映画を観て芸人を志すなんていうことは絶対にやめてほしいんです。

大波 そもそも映画上でも大して報われていないけどな(苦笑)。

安部 まぁね。「しょせん人生なんてこんなもん」っていう映画やもんな。

大波 この映画で伝えたいメッセージがあるとしたら、「夢を追うなら、助けてくれる仲間がいる環境に身を置いたほうがいい」ということになるかな。僕ら、周りの助けがなかったら絶対にここまでやってくることはできませんでしたから。

安部 そうやね。やっぱり仲間だけは大事にしたほうがいい。それはしみじみ感じます。

▽タモンズ
東京NSC11期生。ツッコミ担当の大波康平とボケ担当の安部浩章によるコンビ。2006年結成。THE SECOND 〜漫才トーナメント〜2024ファイナリスト。同期はチョコレートプラネット、シソンヌ、向井慧(パンサー)、すゑひろがりずなど。

【後編はこちら】大宮の劇場に“島流し”タモンズが諦めなかった理由「俺らのほうが面白いやろって思っていた」

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