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【何観る週末シネマ】社会風刺の冒険的話題作品『クラブゼロ』監督に直接インタビュー

エンタメNEXT / 2024年12月11日 17時32分

【何観る週末シネマ】社会風刺の冒険的話題作品『クラブゼロ』監督に直接インタビュー

Ⓒ COOP99, CLUB ZERO LTD., ESSENTIAL FILMS, PARISIENNE DE PRODUCTION, PALOMA PRODUCTIONS, BRITISH BROADCASTING CORPORATION, ARTE FRANCE CINÉMA 2023

長編2作目『Lovely Rita ラブリー・リタ』(2001)では、強烈な個性と攻撃的なラストを世界に見せつけたジェシカ・ハウスナーの社会風刺の冒険的な最新作『クラブゼロ』が、12月6日から公開となった。

【写真】社会風刺の冒険的話題作品『クラブゼロ』場面写真

デリケートな部分を揺さぶることが得意ともいえるジェシカ。例えば『ルルドの泉』(2014)の場合は、信仰心がそれほどあるわけでもない、全身麻痺の主人公がパワースポット巡りで極端に回復したことにより、神への信仰の大小が奇跡を起こすのではないと知った信者や関係者たちの表には出さない逆恨みと、そもそも信仰心とは何か、平等とは何かを皮肉的に捉えた。

また前作『リトル・ジョー』(2019)では、現代のSNSやAIが人間の思考や行動を操っているという支配構造を特殊な植物として描くなど、常にドライで俯瞰的な目線で世界を切り取っている。

切り口は違ったとしても、社会構造を俯瞰的に見たものという部分で、共通したテーマを感じるのだが、近年のジェシカ作品を観てみると、和の要素がいくらか含まれているようにも感じられる。『リトル・ジョー』の場合は、伊藤貞司の音楽によって、怪談テイストに演出されていたのも印象深い。といっても、伊藤貞司は、海外の音楽シーンで活躍していたアーティストでもあることから、あえて和を求めたということでもないのかもしれない。

その点も含めて、気になることをジェシカ・ハウスナー監督に直接インタビューしてきた。

ーー前作『リトル・ジョー』は、世界の支配構造への風刺が下敷きとしてあったと思うのですが、今作においても、世界に”当たり前”としてある、人間が作り出した概念や価値観の不安定さ、それは信仰宗教なども含めてですが、監督はそんな不安定な部分を刺激することが得意というか、好きなのかな?と、今までの作品を観ていると感じるのですが、作品の共通のテーマとして、人間のグレーな部分を描いてやろう!という意識は強いのでしょうか? また今作を観て、信念を強くもてと人は言いますが、極端に信念は狂気にもなるんだ!という皮肉もすごく感じました。

私の作品のことを深く理解していただきありがとうございます。今作に関しては、私たちの脳裏にある考え方と、社会のルールによって、いかに影響を受けているかを描いています。例えば私たちの行動や思考、あるいは何かに対する違和感も、それこそが良くも悪くも社会のルールによって動かされていることへの指摘となっています。

また”行き過ぎる”ことによる弊害と、概念による力、影響力といった点も今作では描きたいと思っていました。

ーー『リトル・ジョー』の場合は、伊藤貞司の音楽を起用していたこともあったとは思うのですが、今作においても、メイクの部分で黒澤明監督の『どですかでん』(1970)を参考にしていると聞きました。またそれとは別としても、ところどころで和を感じるような部分があったのですが、これは意識されているのでしょうか? 初期作『Lovely Rita ラブリー・リタ』~『ルルドの泉で』(2014年の『Amour Fou』だけ日本で観れないため観ていません)では、そういった要素はなかったと思うのですが、いつ頃から、そういったマインドになったのか教えていただきたいです。

“和”というよりもマヤ・デレン(1940年代に活躍していたアヴァンギャルド映画作家)経由です。25歳のときに『午後の網目』(1943)を観て、そこに伊藤貞司の曲が使用されていました。そこで娯楽作よりも、こういったアート作品の方が共感できることを発見しました。

効果のぶつかりという点では興味があります。日常的なシーンに和テイストな音楽、異なるものが重なることで、文化的ギャップを演出に興味があるから、自然にそうなっているのかもしれません。

また日本というと伝統的な能や歌舞伎に対しての造詣はそこまで深くないのですが、儀式化されているアートだと思っています。ヴィジュアルアートの側面からいえば、イコン画のように、ある種の儀式化されたアートというのは、西洋にも昔から存在しているので、通じる部分も多いとは思います。



ーーミス・ノヴァクが小さい祭壇?でお祈りをしているシーンがありますが、これを観たとき、個人的にジャック・ニコルソンの『さらば冬のかもめ』(1973)の日本っぽい変な新興宗教が登場するワンシーンを思い出しました。全体的なものとしては、極度な菜食主義者が元になっているとは思うのですが、この信仰の対象”クラブゼロ”にモデルや着想元はあるのでしょうか?

すみません、その作品は観ていません。ただ今回、カルト宗教に関しては、当事者にインタビューをするなど、かなりリサーチしました。ただし今作のように、食べものに関するカルトというのは存在していなかったため、直通するようなベースはありません。

しかし、どのカルトにも共通している側面というのはありますから、それらは取り入れています。

例えば、入信の際の説得力は理にかなっていて、誰もが共感し、理解するような思想を受け入れるところから始まりますが、いざグループに入って、集団心理によって、思想が過激化していくことになりますが、この手法、戦略というのは、多くのカルトが取り入れているものです。

ーー今作の場合、ミス・ノヴァクのように、服装が小綺麗な人に、ある種の狂気を感じるのですが、衣装への拘りがあれば教えていただきたいです。

今回の衣装は、私の姉でもあり、今までの作品を通しての良き理解者、パートナーでもあるターニャが担当しています。そして、制作に入って一番初めにアイデアのセッションをするのもターニャです。ターニャが脚本を読んでくれたあとに、ムードやスタイル、キャラクター、デザイン、映画の全体像などを肉付けしていくアイデアをたくさん出してくれました。

衣装に関しては、リハーサルのときに役者とキャラクター造形を話し合うまえに、まず着てもらい、衣装による物理的なインパクトを見ていきました。まず外側から土台を作っていったというべきでしょうか。

具体的に言うと、ミス・ノヴァク(ミア)の場合は、かっちりとした衣装の方が、顔や動き方と合わせることで、キャラクターとしてしっくりきました。そのためドレスやスカートといった衣装にはなりませんでした。それでいて、ジャケットであれば、肩幅が大きく、強さが強調されるものを選びました。戦場に向かう戦士や兵士のようなイメージです。

ーー本編の後半部分に触れる質問です。エルサがゲロを食べるシーンがありますが、あれは本当に食べているのでしょうか?フェイクであれば、何を食べているのか教えていただきたいです。

もちろん本物に吐いているものを食べているわけではありません。しかし長回しで撮りたかったため、一度口から出して、それを再度食べる行為に対してはお願いしました。それの正体についてですが、穀物を混ぜてドロドロにしたオートミールのようなものを役者の好きなフレーバーにしました。

ーー今年の6月に来日された際に、今後の作品の参考になる点や、インスピレーションなどを得られたという体験、経験というのはありましたか?

今回は京都にも行きました。観光客向けのものだったのですが、いわゆる”日本らしい”もの体験パックみたいなものに参加しました。ディープな部分に触れるものではないにしても、そこで能や音楽、お茶といった伝統芸術を見たり、体験したりしました。

とくに音楽に関しては、西洋的なメロディーとは違った、モノトーン的な側面や、おごそかな感じ、何より音の使い方というのが私には響き、改めて日本の古典音楽が好きだと気づきました。また能のように、フィクションとしてのキャラクターではなく、その原型部分にアクセスする考え方もおもしろいと感じました。

ーーインタビューありがとうございました。

▽『クラブゼロ』作品情報
【ストーリー】
名門校に赴任してきた栄養学の教師、ノヴァク。彼女は“意識的な食事/conscious eating”という、「少食は健康的であり、社会の束縛から自分を解放することができる」という食事法を生徒たちに教える。無垢な生徒たちは彼女の教えにのめり込んでいき、事態は次第にエスカレート。両親たちが異変に気づきはじめた頃には時すでに遅く、遂に生徒たちはノヴァクとともに【クラブゼロ】と呼ばれる謎のクラブに参加することになる――。生徒たちが最後に選択する、究極の健康法とは?そしてノヴァクの目的とは?

【クレジット】
出演:ミア・ワシコウスカ
脚本・監督:ジェシカ・ハウスナー 
撮影:マルティン・ゲシュラハト
2023年|オーストリア・イギリス・ドイツ・フランス・デンマーク・カタール5.1ch|アメリカンビスタ|英語|110分|原題:CLUB ZERO
字幕翻訳:髙橋彩
配給:クロックワークス
(C) COOP99, CLUB ZERO LTD., ESSENTIAL FILMS, PARISIENNE DE PRODUCTION, PALOMA PRODUCTIONS, BRITISH BROADCASTING CORPORATION,
ARTE FRANCE CINÉMA 2023
12月6日(金)より、新宿武蔵野館ほか全国公開

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