男性目線の官能映画ではなく、社会において”自由とは何か”を探求した奥深い作品『エマニュエル』
エンタメNEXT / 2025年1月21日 20時35分
© 2024 CHANTELOUVE - RECTANGLE PRODUCTIONS – GOODFELLAS – PATHÉ FILMS
おしゃれな官能映画として、日本でも社会現象となった『エマニエル夫人』(1974)から早いもので半世紀が経過した。そんな同作を現代的解釈で描いた……というよりは、本来はこうあるべきだったという、映画『エマニュエル』が1月10日より公開された。
【写真】男性目線の官能映画ではなく…『エマニュエル』場面写真【10点】
もともと『エマニエル夫人』の原作者は女性作家エマニュエル・アルサンで、”女性の視点からの性”を描いた作品だった。
しかし、時代というのもあったのだろう。ジュスト・ジャカンによる男性的視点が色濃く反映されてしまっていた。かと言って、決して悪い作品ではない。ファッション誌のカメラマンやアートディレクターを経たジュストのセンスが見事に反映された作品だったといえるだろう。
その後も、フランシス・ロノワやブルーノ・ジンコーネなど、様々なクリエイターによって、シリーズや番外編的なものも含めて全7作と、テレビシリーズ「エマニュエル~媚薬の香り」なども制作されたが、どれも男性視点がチラつき、ソフトポルノとしての印象から脱することができなかった。
日本では、ソフトポルノといえば、何でも「エマニエル」と付ければ良いと思われていた頃もあったし、精神的なリメイクなども含めると、大量の類似タイトルが混在していたりもする。正当な映画シリーズは7作となっているが、どれも男性監督が手掛けたものだ。
そして、ようやく女性監督が「エマニュエル」を映画化する時代が到来した。改めて言うが、この作品は、もともと女性が映像化するべき作品なのだ。
そこで抜擢されたのが、コカイン中毒の父親と家族の物語を繊細に描いた長編初監督作品『Mais vous êtes fous』(2019)が注目され、日本でも公開されて話題となった『あのこと』(2001)のオードレイ・ディヴァンである。
『あのこと』を観た人であれば、エンタメ映画的な演出はないものの、心の揺らぎを繊細に描くことにおいては、天才的なものを感じたはず。
さて、本作を観てみると、さすがオードレイといえる見事なほどに繊細で奥深い作品に仕上がっていた。逆に『エマニエル夫人』を期待していると、違ったものを観た感覚になるかもしれないが……。
今作が唯一無二の「エマニュエル」であると感じるのは、女性目線からの性への探求というだけではなく、社会における”本当の自由”とは何か。つまり哲学的側面を描いているからだ。
この世界に自由などない。私たち人間は、時間、仕事、食事、睡眠など、常に何かに縛られている。
今作のエマニュエルは、独立した女性であり、それなりのキャリアがある。そして、高級ホテルグループのサービスや接客を監視する立場でもある。つまり、社会のルールや規則、秩序というものに近しい場所にいるのだ。
キャラクター像は全く違うが、テーマ的には、『ナミビアの砂漠』(2024)に近いかもしれない。
一般的には不道徳と言われたりもする、恋愛感情を持たないフリーセックスをエマニュエルが頻繁に行うのは、社会という柵から抜け出せる行為と思っているからであるが、それもまた、違和感がある。
そんなエマニュエルの前に表れる謎多き男ケイ・シノハラ。禁煙場所で平気でタバコをふかし、生活習慣を全く感じられない、常に群れようとしない。大小に限らず、その男が社会のルールに反し、自由を体現している存在だと思い、恋愛感情というよりも、興味を持ったのだ。
エマニュエルにとって、その男に近づくことが”本当の意味での自由”とは何かの答えが得られるのではないかという、純粋な探求心。性やエロティシズムという点だけに限らず、生きる意味という点にまで接近する物語。
さらにそれだけではなく、女性ならではの繊細な視点を感じさせるのは、オードレイの演出術だけではなく、エマニュエルを演じたノエミ・エルランの力も大きい。
ノナミといえば、若手時代に出演した『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』(2014)のメラニー役で注目され、今では戯曲「女中たち バルコン」を映画化した『Les femmes au balcon』(2024)の監督を務めるなど、俳優としても、クリエイターとしても有名だ。
エンタメ性の強い作品からアート系作品まで、様々な役を演じてきたノエミではあるが、なかでも『燃ゆる女の肖像』(2019)や『恋する遊園地』(2019)といった、ノンバイナリーな視点をもったキャラクターを繊細に演じるのが得意であることから、その経験は今作においても存分に活かされている。
また、今作は香港が舞台となっていることもあり、所々に香港ノワールの巨匠ウォン・カーウァイへのオマージュを感じられる。実際に『花様年華』(2000)を意識していたというか、香港というフィールドにおいて、自然にそうなることは避けられなかったと、オードレイは語っている。
ちなみにシャネルのPR用として制作されたショートフィルム『Modern Flirt』でも香港の街並みを印象的に映し出している。そのことからも、オードレイの作品と、アジア独特の雰囲気の相性は良いのかもしれない。
【ストーリー】
エマニュエルは仕事でオーナーからの査察依頼を受け、香港の高級ホテルに滞在しながらその裏側を調べ始めるが、ホテル関係者や妖しげな宿泊客たちとの交流は、彼女を禁断の快楽へといざない――。
【クレジット】
監督:オードレイ・ディヴァン
脚本:オードレイ・ディヴァン、レベッカ・ズロトヴスキ
原案:エマニエル・アルサン著「エマニエル夫人」
出演:ノエミ・メルラン、ウィル・シャープ、ジェイミー・キャンベル・バウアー、チャチャ・ホアン、アンソニー・ウォン、ナオミ・ワッツほか
配給:ギャガ ギャガロゴ/原題:EMMANUELLE/2024/フランス/カラー
シネスコ/5.1ch デジタル/105 分/字幕翻訳:牧野琴子/R15+
公式サイト: https://gaga.ne.jp/emmanuelle/
2025年1月10日(金)全国ロードショー
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