奇才エリック・クーが描く“劇画”の生みの親の半生、『TATSUMI マンガに革命を起こした男』
Entame Plex / 2014年11月14日 14時55分
——今作は『劇画漂流』と、先生の人生を描いたパートの2部構成になっており、全編アニメーション。特に先生の人生のパートは実写でも可能だったと思いますが、あえてアニメーションこだわったのはなぜですか?
「先生の作風は絶えず変化していて、活動初期60〜70年代に比べて、『劇画漂流』では劇的に変化している。それを紹介すると同時に、彼の作風のすべてを見せたかったんだ。私自身、これまでにもアニメーションをやらないのって様々な人から言われていたけど、自分が忍耐強くないことを知っている。だから、アニメーションのように長い年月をかけて作品を作ることができるか不安だった。でも、『劇画漂流』だけは読んだ直後からアニメーションしかないって思ってね。私にとってはこれが最初で最後のアニメーション作品になると思う」
——もしもですが、辰巳先生から直々にもう1本アニメーションをお願いと言われたらどうします?
「それは困ったね……(苦笑)。先生と相談してみてって感じになると思うけど、どうするかはわからないね」
——監督から見て、辰巳先生のスゴさとは?
「先生の作品で描かれるキャラクターは、本質的にはシンプルなものが多いと思う。すごく単純なキャラクターなんだ。でも、そんなキャラクターをはじめ、コマ、台詞など、すべてが読み込めば読み込むほど魅力が溢れてくる。それもシネマティックで人間的な魅力がね。先生自身すごく知的な方だし、作品への思いも素晴らしい。そこに心を動かされるんだ。作品自体は本当に暗くて、重いものばかりだけど、その先には人間への讃歌が刻まれているんだよね」
——その重たさは、辰巳先生を知らない若いアニメ、マンガファンにはどのように伝わると思いますか?
「どうなんだろうね……それは私にはわからない。でも、先生の作品は現代性を兼ね備えていると思うし、普遍性がある。作品を通して、自分と関わる何かをきっと感じてくれると思うな」
——個人的には若い方々がこの作品をどう受け取るのか興味があります。最近のアニメーションにはこういった作品はほとんどないので。
「それは私も同じだよ。私自身、最近はアニメもマンガもあまり見ていなくて、トレンドについても正直わからない。でも、素晴らしい作品を多くの人に伝えたい。そして、今回の映画を通して改めて辰巳先生が評価されることを期待しているし、評価されるべきだと私は思う」
——最後に映画を楽しみにしている方へのメッセージをお願いします。
「私にとって辰巳先生はオルタナティブな作品におけるゴッドファーザー。それは音楽、映画、マンガ、創造に関わるものすべてにおいてのね。さらに、彼は絶えずインディペンデントな精神を貫いた素晴らしい存在でもある。自分を安売りすることなく、何にも迎合しない、すごく芯のある方で、なおかつ新しいものにも貪欲に取り組んでいる。私も未だにインディペンデントを貫く1人として、とてもリスペクトしているし、その功績は計り知れない。どうかそんな先生を発見してほしい。そしてぜひ先生の作品に触れてほしい」
映画『TATSUMI マンガに革命を起こした男』は、11月15日(土)より角川シネマ新宿ほかにて全国順次公開!
『TATSUMI マンガに革命を起こした男』
監督:エリック・クー
原作:辰巳ヨシヒロ「劇画漂流」(青林工藝舎刊)
声の出演:別所哲也(一人六役)、辰巳ヨシヒロ
配給:スターサンズ
2011/シンガポール/96分/日本語/原題:TATSUMI
©ZHAO WEI FILMS
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