資生堂アートハウス「香水瓶の世紀」展レポート。ボトル、香水液、色彩で五感を刺激する香りという文化
FASHION HEADLINE / 2015年11月23日 10時0分
1920年代のものを中心に並べられた、ウォルト社製の棚は「dans la nuit(夜に)」(1924年)や「VERS LE JORS(光に向かって)」(1926年)など。ウォルトは、パリで活躍したクチュリエのシャルル・フレデリック・ウォルトが創業したオートクチュール メゾン。
豊かな自然が残る、静岡県は掛川にある資生堂アートハウス。今の日本を代表する建築家の一人、谷口吉生の手がけた空間は、晴れた日の光と影もしみじみと美しく、展示以外でも訪れる者を楽しませてくれる。
そのアートハウスでは、これまでとは趣の異なる展覧会、「香水瓶の世紀」展を開催。アール・ヌーヴォーからアール・デコを経て現代に至る約200点のコレクションの全容を、開館以来初めて、一般に公開している。
現在の<後期>では、19世紀後半から20世紀前半にかけて活躍した、フランスの工芸家ルネ・ラリック(RENE LALIQUE 1860-1945)の作品を中心に展覧。その優美さに触れることのできる貴重な機会と言えるだろう。
貴重で膨大なコレクションは、“化粧品を人間の嗅覚、触覚、視覚に訴える特別な感性的価値を生み出すことができる『工藝芸術品』”と捉える、資生堂初代社長の福原信三の思いから。その象徴である香水製造はとりわけ重視したという。そんな資生堂の膨大な収蔵品であり、神髄と言っても過言ではない香水瓶を「いつかはこの場所で香水瓶の歴史に名を刻む数多の香水瓶のコレクションを皆さまにご覧頂きたいと考えていました。しかし、文化的な価値が高い、極めてデリケートなものであるため、展覧するまでには歴史的事実の確認などに思いの外たくさんの時間を要してしまいました(資生堂アートハウス 参事 学芸員 丸毛敏行さん)」
今回の展示で注目したいのは、ドルセー社の「彼らの魂」(1914年、ルネ・ラリック)。ラリックがロシア風のティアラ(宝冠)からインスピレーションを受けたと伝えられているこの作品は、装飾的なラリックらしさ溢れるデザインであり、洋の東西が解け合った美しさに圧倒される。その香水のボトルデザインに時代の変遷を見、その象徴的な作品の一つだと思えるはずだ。
そんな文化の歴史をも伝える、今回展覧された収蔵品以外にも資生堂には貴重な香りの作品が数多く眠っている。
アートハウスに隣接する企業資料館で大切に保管されている所蔵品のひとつを、今回特別に紹介頂いた。「練香油 梅(1921年発表)」である。
「梅」は、資生堂の香水の黎明期を支えたブランドの一つであり、初代社長の福原信三の化粧品作りに対する考え--化粧品には、人間の五感のうち、内容液の香りに関わる<嗅覚>、ボトルに触れたり、内溶液の感触に関わる<触覚>、パッケージやレーベルのデザイン、内溶液の色彩や、ボトルの形状に関わる<視覚>という、3つの感覚が同時に関係することから、人間にとって、ある種の「特殊な感情を湧出することが出来る」(出典:展覧会図録『香水瓶の世紀」P.24「福原信三はなぜ香水製造を重視したのか』より抜粋)--をも投影したものでもある。そして、後に誕生する「香水花椿」への美しい遺伝子を生んだ一つとも感じられるだろう。
香水瓶という美しき文化の歴史とその変遷を辿る展覧会は、資生堂の文化の神髄に触れる喜びをも感じられるものだ。
<information>
「香水瓶の世紀-バカラとルネ・ラリックを中心に-」
資生堂アートハウス(静岡県掛川市)
後期:ルネ・ラリック 幻視のファンタジー 公開中~12月13日(日)
休館日:月曜日(月曜日が祝祭日の場合は翌日休館)
開館時間:10時~17時(入場は16時30分まで)
http://www.shiseidogroup.jp/art-house/
学芸員によるギャラリートークは、11月の27日と28日、12月11日と12日に14時より開催予定。また、「香りの記憶 -調香師たちのイマジネーションの世界」も資生堂アートハウスの隣り、資生堂企業資料館にて12月23日まで公開中。
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