日本文化を再認識。“ひなびた美しさ”に通づるアイデンティティーデザイナー松重健太--2/2【INTERVIEW】
FASHION HEADLINE / 2016年3月22日 20時0分
Kenta Matsushigeの16-17AWコレクションでは、服作りへの情熱だけでなく技術の高さも存分に発揮されている。
モダンで構築的だが、モード過ぎず純粋に“着たい”と駆り立てられる秀逸さがある。虚飾のない慎ましさは、日本文化を表しているようでもありフランスの粋なアティチュードも漂う。
渡仏から4年後にはブランド立ち上げと、順調に見えるパリでの活動だが「2、3シーズン目は戸惑っていた」と語る松重さん。デザイナーとして初めて直面した、生みの苦しみ。山場を乗り越え迎える今回のコレクションテーマは“日本”。海を渡ってから日本文化の魅力を初めて認識できたという。ブランドの礎を固め、彼が目指す新境地とは。
ーー今シーズンのテーマを“日本”に決めたきっかけは?
2、3シーズン目、モダンを意識し過ぎるあまりに表現したいものを生み出せず、納得できないまま世に出ました。シャネルがスポンサーとなり、アトリエを借りて傘下のブランドにアクセサリーを制作してもらいましたが、ウェアラブルとクリエーションの狭間で道に迷い、戸惑っていたんです。そんな状態の中、今回の4シーズン目に取り掛かる前に日本へ一人旅に出ることにしました。一度海外へ出たからこそ、日本の中に無意識に存在しているものに目を向けることができ、刺激を受けましたね。
ーー具体的に、どんなものからインスピレーションを受けましたか?
江戸時代の浮世絵です。浮世絵師歌川豊国の「御あつらへ三色弁慶」や歌川国貞の「月の夜忍逢ふ夜」は特に感動しました。200年程前にこれほどの彩美な色使いとまっすぐな光が描けるとは信じ難く、初めて目にした時は描き直されたのだと思ったほど。また、市川団十郎の舞台「暫(しばらく)」で使われている着物衣装の中で、袖が正方形の斬新なデザインが着想元となり、腕を少し曲げた状態のままで形成した袖を作りました。浮世絵という平面の図を立体に構築できるのか、自分への挑戦でもありました。試行錯誤の連続でしたが、今シーズンのコレクションの完成度には納得しています。
浮世絵だけでなく、滋賀県の老舗菓子屋「たねや」が掲げる“ひなびた美しさ”という世界観にも共鳴しました。生活様式の変化や時代の移り変わりを敏感に感じながらも受継ぐものを大事にし、同時に新しい時代へアプローチしていく姿勢。日本文化に触れて、ブランドの基盤となるアイデンティティを確立できたように感じています。
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