川内倫子最新作を収録。写真展「川が私を受け入れてくれた」カタログ【NADiffオススメBOOK】
FASHION HEADLINE / 2016年4月14日 22時0分
各ブックストアがFASHION HEADLINE読者に向けて「今読むべき1冊」をコンシェルジュ。毎週木曜日は、アート・ブックショップ「NADiff(ナディッフ)」各店がオススメする1冊をご紹介。今回は東京・銀座のNADiff du Champ(ナディッフ デュ シャン)です。
■『川が私を受け入れてくれた “The river embraced me”』川内倫子
2016年1月23日から 3月27日にかけて、熊本市現代美術館で開催された川内倫子写真展「川が私を受け入れてくれた“The river embraced me”」。そのカタログとして出版された本書。展覧会自体は、川内の過去18年に及ぶ活動を再構成するものであったが、「川が私を受け入れてくれた」と名付けられた作品群は、川内が長く撮影を続けてきた熊本の地で、一般の人々から熊本の思い出の場所とそこにまつわるエピソードを公募し、その場所を川内が訪れて撮影する、という主旨で撮られた最新作だ。
川内は、単に「この場所にそうした過去や誰かの記憶がある」という事実を写すのではなく、その場において川内自身の記憶に共鳴が起こったときにシャッターを押したという。この作品群のキーワードは「共鳴」と「共有」である。人は決して他人と同じ体験をすることができないが、人は他者の記憶に触れたときに、不思議と自らの記憶に何かが共鳴することがあることを知っている。そして、記憶とは大概の場合、正確な時間軸を持たず、常に断片的に、無意識に蓄積されていて、そうした共鳴は自らの記憶をさかのぼるうちに不意に訪れる。
本書をめくりながら、「一体ここで、何があったのだろう」「誰が、何を思ったのだろう」と他者の記憶を想像するとき、気づけば目の前の写真は、自らの記憶の中の景色を想起させている。そこには、決してぴったりとは重ならずとも、見ず知らずの人の記憶の一部を共有するという体験がある。熊本の、どこかの誰かの記憶に共感し、その一部を共有した川内が、さらに自らの記憶をそこに投影した写真群に、観る者の何が共鳴するのか、それもまた私たち一人一人に委ねられている。
表紙も淡い桃色と緑色と春らしい1冊。
【書籍情報】
『川が私を受け入れてくれた “The river embraced me”』
著者:川内倫子
発行:torch press
ハードカバー/A4変型/差し込みテキスト12P付き
定価:2,800円
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