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石内都がファインダー越しに見た、フリーダ・カーロの遺品に宿る“愛と痛み”【NADiffオススメBOOK】

FASHION HEADLINE / 2016年7月7日 20時0分

『フリーダ 愛と痛み』石内都

各ブックストアがFASHION HEADLINE読者に向けて「今読むべき1冊」をコンシェルジュ。毎週木曜日は、アート・ブックショップ「NADiff(ナディッフ)」各店がオススメする1冊をご紹介。今回は東京・銀座のNADiff du Champ(ナディッフ デュ シャン)です。

■『フリーダ 愛と痛み』石内都

フリーダ・カーロは、1907年にメキシコに生まれ、1954年に47歳という若さでこの世を去った女性画家だ。幼い頃に患った病気や、まだ若かりしうちに遭遇した交通事故での大怪我により、生涯その体に痛みを背負い、晩年にはほとんどベッドに横たわりながらの絵画制作を行った。そんなフリーダの生家であり、2度目の結婚をした際に戻ってから終生を過ごしたメキシコシティ近郊の「青い家」は「フリーダ・カーロ記念館」として今も残されている。しかし、家の中の一部や彼女の遺品の多くは一般には公開されていなかった。

日本の写真家、石内都は、メキシコのキュレーターの依頼を受け、この「青い家」で3週間にわたり、フリーダの遺品やバスルームを撮影した。病気の影響で長さが左右違ってしまった足に合わせ、底の厚さが違う靴。腰を支えたコルセット。何種類にも及ぶ薬瓶。ところどころがほつれた靴下。そして、メキシコ伝統の色鮮やかなドレス、ブラウス、スカーフ。これらの持ち主は、もうこの世にはいない。

これらの写真を眺めることは、例えば記念館などでガラスケースに展示された遺品を眺めることとは違っている。写真は、その遺品を様々な角度から見せてくれる。時に、それがどんな服なのか全容が分からないくらいのクローズアップで。または、今まさにその一歩を踏み出したかのように配置された靴を、横から眺めるように。それらをじっと見つめていると、ほつれた糸が見える。シミが見える。ブラシに残された一本の毛髪が見える。擦り切れた靴に、歩き方の癖が見える。ほとんど空になったマニキュアの瓶には、美意識が見える。つまり、そこには今は亡きフリーダの生が見える。誰かが着ていた服や、使っていたもの、その不在の持ち主の個性は、いつだってこうした断片に、そして細部に宿っている。

「死は肉体が無くなっただけで、精神や愛や痛みという決して目に見えない、手で触れることのできない型のないものたちは、かたちある残された品物たちに宿っている。その気配を確実に写真に写し撮ることが、私の仕事である。」と、あとがきの「フリーダふたたび」にて決然と述べる石内都。持ち主の不在と、それと同時に決して消えない生の痕跡に、フリーダと同じ女性として、アーティストとして、向き合う石内とフリーダとの対話が、この写真には投影されている。

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