ニューデリー出身の写真家ダヤニータ・シン、美術館に変容する本【NADiffが選んだ2017年ブック大賞】
FASHION HEADLINE / 2017年12月28日 19時0分
毎週木曜日のアート・ブックショップNADiff(ナディッフ)によるオススメBOOK連載。今回は特別に2017年に発刊された書籍から、なかでも最もオススメしたい1冊を「2017年ブック大賞」として教えてもらいました。
選者は、ナディッフのバイヤーである藤江寛司さん。「ここまで個性的でいて、汎用性、多様性を持った作品集は初めて出会った。無数にあるカラーの専用ケースや、蛇腹の装丁に強い印象を受けるが、作家本人の意思を明確に示しつつも、押しつけがましさが無く、読み手自身が自分だけの1冊にアレンジすることができ、多くの人に受け入れられるであろう写真集だと感じた」(藤江さん)
■『Museum Bhavan』ダヤニータ・シン(Dayanita Singh)
インド・ニューデリー出身の写真家ダヤニータ・シンは、写真好きの母親から強い影響を受けグラフィックデザイナーを目指し、アーメダバード(インド、グジャラード州)の国立デザイン大学を卒業後、ニューヨークの国際写真センター(ICP)でフォトジャーナリズムを学んだ。
その後、エイズに感染したボンベイのセックスワーカーや児童労働、貧困といった所謂「欧米が認識するインド」を写しだし多くの雑誌に取り上げられた。ステレオタイプでエキゾチック、混沌とした貧しいインドを求められるがままに撮影することに疑問をもったダヤニータ・シンは、その後フォトジャーナリズムから一線を画し、自らが属する加速度的に変容するアジア経済にみられる富裕層、ミドルクラスの生活にテーマに移すこととなる。
その後、世界各国で数々の展覧会を開催、作品集を出版し現在に至るが、近年数々の作品集をSteidl社とのタッグで生み出してきた。2017年、展覧会「ダヤニータ・シン インドの大きな家の美術館」(東京都写真美術館2017年5月20~7月17日)が記憶に新しいが、同時に印象的であったのは、彼女の生み出してきた写真集の『移動式展覧会』と呼ばれる手法だった。最新作『Museum Bhavan』は、2007年に発行された写真集『Sent A Letter(Steidl)』からの流れを引き継ぐ形で制作された作品集で、テーマのことなる9つの写真集と1冊のテキストブック(アヴィーク・セン、ゲルハルト・シュタイデルとの対談)からなる本書は展覧会を家庭用サイズに変換するコンセプトを持つ。蛇腹に製本され、好きな形に自立させることができる。すべてを一望できるように配置することもできるし、自分の選んだページのみを表に出すこともできる。そこには写真集とのコミュニケーションが自然と生まれる。ここには特定の何かに嵌めることのできない、彼女のこれまでの人生が落とし込まれている。
『Museum Bhavan』
作品:Dayanita Singh
出版社:Steidl
言語:英語
298ページ(全10冊)/ボックスケース縦150×横90×110mm(全て柄が異なる)
発刊:2017年4月
価格:各1万2,950円
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