夭折した異能のデザイナー・高橋大雅の「応用考古学」というキーワード
FASHION HEADLINE / 2023年2月28日 15時0分
その工芸的な手法は高橋大雅の服作りにおいても同様だ。奄美大島の泥染やインディゴ染、岡山の旧式力織機によるデニム生地、和歌山の吊り編機によるスウェット、錆止めしていないリベットなどのアイテムに見ることができる。生産工程に時間を要し、年月を重ねることで風合いが変化していく“さび”の美意識は奇しくも細尾の本社ビルと同年同月、2021年9月にオープンした総合芸術空間「T.T」に凝縮されている。
「幼い頃に祖母に連れられて歌舞練場に『都踊り』を観に来ていた大雅は、この祇園南側のエリアが本当に好きでした」と高橋の親族は述懐する。歴史遺産の風致地区のなかで、大正時代に建てられたと思しき元お茶屋のこの空間は20代のデザイナーが一人でデザインしたとは思えない完成度を見せる。当初あった大黒柱を外すための認可など、そのこだわりからオープンは計画より5ヶ月遅れたという。
100年以上前の神社仏閣の欄間や古木を自身で選定し組み木で接合した内装が広がる店内には、イサムノグチを長年支えた石彫家・和泉正敏との共同制作による彫刻作品が配置されている。更に一枚のシームレスな布で空の光を演出した天井や、天井に埋め込まれた1mmのピンライト、2階の立礼茶室「然美(さび)」へ向かう庵治石の階段、その茶室にためにデザインされた桜製作所と共作による椅子など、細部の挑戦に驚かされる。
「過去の遺物を甦らせることで、未来の考古物を発掘する」というテーマは彼の死後、新たな形で協業されている。日本古来の大麻布を現代に蘇らせようと研究開発されてきたファブリックブランド「麻世妙-majotae」を細尾が協力。生前の高橋大雅にプロダクトのデザインを依頼。彼が監修したコラボレーションアイテムが大阪と東京の「阪急メンズ」で今年1月に行われたポップアップ「In The Presense of Absense 不在のなかの存在」において展示、受注販売が行われた。ヴィンテージが再評価される中で、リプロダクトではなくリファインさせる「応用考古学」は、ストリートカルチャーを概念化した日本のファションの進化したキーワードとなりそうだ。
Texture from Textile Vol.2 時間の衣 - 髙橋大雅ヴィンテージ・コレクション
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