資産運用は金利に着目すると、状況判断がしやすくなる?
ファイナンシャルフィールド / 2021年3月13日 10時30分
日経平均株価指数が3万円の大台に乗ったことで、iDeCo(個人型確定拠出年金)やつみたてNISA(少額投資非課税制度)を始めようという方が増えるような気がします。
初心者の方にとって資産運用は難しいものといったイメージがあるかもしれませんが、どういう局面でどのような判断をすればいいかという理屈を知っておくと、分からなかったことがぐっと分かるようになってきます。
投資判断を行う上での理屈はいくつかありますが、その中でもより分かりやすいのは「金利」かもしれません。
お金は低いところから高いところに流れる
原則論からいうと、これから金利が高くなるという場合、株式や株式型の投資信託のウェイトを上げ、これから金利が低くなるという場合、逆に下げればいいとなります。この原則論は、いわば教科書的といえますが、この理屈をもう少し分かりやすく説明すると、次のようになるでしょう。
(1)これから景気が良くなるだろう
(2)資金需要が高まる(人々がお金を必要とする)
(3)だから、金利が上がる
つまり、これから景気が良くなるわけですから、みんながお金を必要とし、金利が上がっていくだろうと考えます。そして、これと並行して、景気が良くなるだろうというわけですから、企業収益も増加する可能性が高くなり、株価が上がるという理屈です。
(1)これから景気は悪くなるだろう
(2)資金需要が鈍る(人々がお金を必要としなくなる)
(3)だから、金利が下がる
この場合は、金利上昇・株価上昇とは真逆の考え方で、景気が悪くなるのなら、みんながお金を求めようとしなくなるため、金利が下がっていくだろうという考え方です。この場合、同時に企業の収益も悪化していくため、株価は下落していくという理屈です。
このような理屈は、いわば「お金は低いところから高いところに流れる」という格言が物語ってくれていますが、これを金利と株価に当てはめると、お金は高い金利の方に向かって行き、また、高くなるだろう株価に向かって行くとなります。
簡単にまとめると、金利が高くなるなら、株価も上がるよね、株価が上がるなら、金利も上がるよねということです。
日米金利差とは何か
ここまでの話は原則論ですが、「金利」はそれぞれの国や地域で異なります。先ほどの話は日本なら日本と1国の話に過ぎませんでしたが、日本とアメリカとではもちろん金利の水準が異なっています。
例えば、長期金利と呼ばれる10年物国債の利回りは、2021年2月17日の時点で、日本では0.075%、アメリカでは1.303%となっています。
株式市場は日本にもアメリカにもありますが、金利の水準を見て投資家はどちらが得かを判断します。よく「日米金利差」という言葉が経済紙面に現れますが、このような国同士で違う金利水準の差を金利差といいます。
投資をこれから始める、もしくは始めて間もないという初心者の場合、前述した1国の金利水準に基づき、金利が高くなるなら株式を買い、金利が低くなるなら株式を売るといった判断で良いかと思いますが、この見方は、実際のマーケットで行われている相対的視点を欠いていることから、この視点だけではおそらく判断を誤るでしょう。
このため、日米金利差といった2国間の金利水準の違いに着目し、日本の株式はどうなる、アメリカの株式はどうなる、日米ではどちらが資産運用上有利になるかを考えていく必要があります。
先ほどの日米における長期金利で比較すると、日本0.075%、アメリカ1.303%ですので、どちらが高いかといえばもちろんアメリカです。この意味は、アメリカの方が日本に比べて金利水準が高いわけですから、アメリカにより多くのマネーが向かって行く、つまり、アメリカの株式の方が相対的に魅力が高いという判断になります。
「お金は低いところから高いところに流れる」という格言に当てはめてみると、日本よりもアメリカの方が金利が高いので、お金はアメリカに向かって行くという理屈です。このようなことから、日本よりもアメリカの方が株価の上昇率が高くなっていたりするわけです。
「日本株が出遅れている」、「日本株に割安感がある」と報道されることがありますが、この意味にはこのような背景があります。
今の株式市場のように、日本でも、アメリカでも株式が買われているような局面では、前述の原則論でおおよそカバーできますが、株式市場の上昇ペースが鈍ってくる局面では、より鮮明に日米の金利差に着目した相場が展開されやすくなるため、この考え方は知っておく必要があるといえるでしょう。
日米金利の4つのパターン
それでは、株式市場の上昇ペースが鈍ってくる局面で、日米の金利差がより鮮明に着目されてくるとはどのような意味なのでしょうか。
先ほどの長期金利を例にとると、2021年2月17日時点では、日本0.075%、アメリカ1.303%でした。日米の金利が相対的に変動するパターンは4つです。
(1)日本:上昇、アメリカ:上昇
(2)日本:上昇、アメリカ:低下
(3)日本:低下、アメリカ:上昇
(4)日本:低下、アメリカ:低下
今のような株価の上昇局面では、日米の金利は(1)のパターンになりますが、この真逆が(4)のパターンで、この局面では株価は下落していきます。
金利差で難しいのが(2)と(3)ですが、(2)では日本の金利が上がって、アメリカの金利が下がるわけですから、日米金利差が「縮小」している状態です。
一方、(3)の場合、日本の金利が下がって、アメリカの金利が上がっているわけですから、日米金利差が「拡大」していることを示しています。(2)のような日米の金利差が縮小する局面では、簡単にいうと、日本の魅力が増し、アメリカの魅力が下がるため、日本の株式が買われやすくなり、アメリカの株式が売られやすくなります。
また、(3)のような日米金利差の拡大局面では、日本の魅力が低下し、アメリカの魅力が増しているため、日本株が売られ、アメリカ株が買われやすくなるということを意味します。
ここでも「お金は低いところから高いところに流れる」という格言が適用できますが、日本とアメリカ、どっちが魅力? と考えていけばおのずと答えは出てきます。ここまで理解できると投資中級者の仲間入りです。
金融緩和政策と絡めて考える
ここからが本当に難しくなってくる部分ですが、現状を整理すると、日本の長期金利も、アメリカの長期金利も上昇してきています。
先ほどの4つのパターンでは(1)に該当しますが、金融政策でいうと、日本も、アメリカも、金融緩和政策により金利を低く抑え込もうとしています。金利が上昇している要因の1つは新型コロナワクチンの接種などにより経済活動が回復してくるだろうという将来への期待です。
これが日米の金利を押し上げていますが、金利の上昇スピードが速くなってしまうと、今度は逆に、これが企業収益の圧迫につながり、再び景気が冷え込む危険性があります。
このため、今後は特に日米ともに金融政策において難しいかじ取りが迫られてくるわけですが、投資家としては、これから金利がどうなるかに注目していく必要が出てきています。
日米ともに、実体経済が依然として低空飛行にとどまっているため、今後も物価が回復してくるまでは金融緩和政策を維持する方針となっていますが、このことはつまり、金利の上昇を物価がある程度回復するまでは容認することを意味しています。
おそらく、日本よりもアメリカの方が物価の回復ペースは速いことが考えられますが、アメリカにおける実体経済の回復次第で金融政策が徐々に変更され、金利の上昇が頭打ちすると多くの投資家が思うようになり始めたら、株式市場からマネーが流出していくという展開になることが予想されます。
まとめ
金利に着目するだけでも、株式市場の動向がここまで見えてきますが、投資初心者・中級者・上級者と知るべき理屈は段階を追って異なります。
最後の金融政策との絡みは玄人が知っておくべき話ですが、マーケットがよく分からないと思ったら、金利という基本に立ち返り、「お金は低いところから高いところに流れる」を思い出してみると、自分なりにストーリーを組み立てられるようになるのではないでしょうか。
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
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